第百十六集 友達
10月18日 17:50 東京ドーム外 東側
龍太郎を元に戻すため、まずは花怨をどうにかする!
「羽澤!遠距離での援護を頼む、夏の妹は羽澤の後ろにいてくれ!大谷と鷹取は花念を、鬼寅は俺と花怨だ!」
花念はともかく花怨の実力は未知数だ、龍太郎にできるだけ傷を付けたくないけど、許してくれ…
「わかった!」
「あーしも陰陽ならできますよ!援護します!」
そいつは助かる!
「ごめんね魁紀くん…龍太郎をお願い!」
「あっちの変な髪のやつねー!了解!」
「わかったわ!」
「ふん、くだらん。帰るぞ花念、こいつらは放っておいても問題ないだろ。」
何言ってんだこいつ、こっから俺らを無視して帰れると思うなよ。
「わかった、兄さん。」
花念は一飛びで花怨の所まで飛んだ。
「ばいばい君たち、それとそこの角の君、次会った時は本気で潰してあげるよ。」
「待て!」
花念は花怨の肩に手を乗せると、2人して消えていった。
「クソが!!」
龍太郎…まさか兄弟刀だったなんて…
花念のやつが言ってたな、いい人たちに出会ったおかげで帰る場所ができたって。つまりあの2人の後ろにはまだ誰かがいる、そしてわざわざ東京ドームに来たってことは、相馬恵のファンを狙ってるのもあいつらの可能性が高い。
それなら今日のライブが終わるまで見張っておかないといけないな。
「ごめん、俺中に戻る。羽澤と鬼寅は大谷を連れて先に帰っててくれ。夏の妹もライブ見ないならもう帰りな。」
「わかった、朋実ちゃん大丈夫?」
「うん…大丈夫…」
「龍太郎パイセンもいないですし、あーしも先に帰らせてもらいますよ。」
「2人だけで大丈夫かしら?私も残るわよ。」
「いや、結局みんな俺と鷹取のことで巻き込んでしまったから、ケジメは取るよ。」
さすがにもうこれ以上みんなに迷惑かけらんねぇ、残った時間は鷹取と2人で監視しとけば大丈夫だろ。
「勝手なこと言わないでくれるかしら、私は私の意思で首突っ込んでるのよ?巻き込んだからケジメ取るとか今更よ。早く行くわよ、まだ曲の途中だったのにもったいないわ。」
そう言って鬼寅は東京ドームの方に向かって歩いていった。
まあ鬼寅がそうしたいならいいっか、また変に止めると怒られそうだし。
「仕方ねぇやつだなぁ、ほら鷹取、俺らも行くぞ。」
「はいはーい!ともみん元気出してね、あの妖魔もどきは私が必ず倒すから!その時に彼氏のりゅうちゃんも連れて帰るね!」
ともみんにりゅうちゃんって…つかあいつら別に付き合ってないからな?
「りゅりゅ、龍太郎は彼氏じゃないからね!でも気持ちは嬉しい、ありがとう。」
ともみんに関しては気にしないんだ…
「じゃーみんなまたねー!!」
3人が帰ったのを見て、俺と鷹取も東京ドームへ戻った。
18:00 東京ドーム2階席 南側
「♪悔しいけれど、君はもういない」
「♪手離したくなかった」
なんつータイミングでその歌詞をぶち込んで来るんだよ。
龍太郎…前聞いた話だと確か。
(妖気持ちになれたきっかけは、あの刀との出会いだよ。一緒に遊びに行った時、通りかかった刀塚があったんだけど、龍太郎がこの刀だ!って言ってその刀を持って帰ったの、そして抜いた途端頭を抱え始めて、ブンブン刀を振り回してた。)
(だけどそれも次第に収まって、元に戻った。そしたら気づいたら龍太郎にも妖気が流れていた。それには流石の龍太郎もはしゃいでたよね。ただ私はあれが妖刀だとは知らなかったけど、危ないからもう使わないように約束したの、それがまさか…)
花怨を抜くことによって妖気のなかった龍太郎の体に花怨の妖気が流れるようになった。
任田祭練習の時は龍太郎が花怨の力を抑えながら使っていた、大谷に止められるくらいにはまだ使い慣れていなかっただろう。そして任田祭本番では使いこなせてみせた、そのおかげで子浦にも勝てた。
だがやはり体に花怨の妖気しか流れてないから、想定してなかったがこういうことが起きてしまった。
「にしても、やっぱ持つもんじゃねぇな、妖刀なんて。」
「それを魁紀が言っても説得力ないわよ。」
「鬼寅!?」
気づかない間に鬼寅が近くにいた、暇そうだな。
「そんな誰もが知ってる妖刀を持っていたら他人のことなんて言えないんじゃないかしら?」
「そうだったな。でも俺は龍太郎と違って、元から妖気が流れてる。まさか自分の妖気が流れてないとあんなふうに体を乗っ取られるなんて思わなかったよ。」
「そうね、過去に完全に体を妖刀に乗っ取られた記録なんて聞いたことないわ。妖刀に意思や自我があることも聞いたことないわ。」
妖刀はそもそも完全に体を乗っ取ることはない。妖刀を解放した瞬間、妖刀の妖気が流れ込んでくる、抑えきれなくなるほどに強い力が流れ込んでくる。
流れ込んだあと、気を失うくらいの頭痛が襲ってくる。俺の時は酒呑様が声をかけてくれて少し落ち着いたけど、結局剣を抜いた後は気を失って倒れた。
これが全ての妖刀に共通するものなのかはわかんない、けど1つ確定してるのは、妖刀の妖気は必ず使用者に流れる。妖気を持っている者は混ざり、持っていない者は妖刀の妖気で満たされる。
それで、花怨と花念に自我があって、その上使用者の体まで乗っ取って、どっかに消えたと。ふざけるのも大概にしろよ…
「顔が歪んでるわよ、田口くんのことが気になると思うけど、悩み過ぎてると何もかも仕損じるわよ。」
鬼寅は俺の顔をもみくちゃにしながら話す。
「やめお…かおがぐちゃぐちゃに…」
「黙りなさい、魁紀にそんな顔は似合わないわ。もっとシャキッとしなさい。」
そう…だよな…悩みすぎても起きたことは起きた。考えるべきはどう龍太郎を元に戻すかだな。
そう思って、鬼寅の手を掴んで止めた。
「ありがとな鬼寅、ちょっとすっきりした。」
「べ、別に魁紀のためじゃないんだからね、落ち込んでる顔を見たら腹が立っただけだから!」
ツンデレかよ。思わず笑ったじゃねぇか。
「何笑ってるのよ!」
「いや、なんでもねぇよ。」
ほんっと、いい友達に出会えたもんだ。
19:00 江戸城跡 ???
「兄さん!ここが僕達の新しい居場所だよ!」
「城、ではないな、もともと城だった場所か。悪くない。」
「ほら、この人が僕を呼び覚ましてくれた人だよ!」
「お前がそうなのか女、礼を言うぞ。」
「礼には及びませんわ、協力さえして頂ければ居場所は提供させていただきますわ。」