第百十三集 戦争
10月16日 14:00 自宅
「ただいまー。」
新井妹の練習から逃れた俺は少し寄り道しながら帰宅した。
「だからあんたの部屋は端っこだって言ったでしょ!」
「嫌だ!魁紀と同じ部屋がいーい!」
「ワガママ言わないの!」
「まゆちんとゆなゆなこそワガママでしょ!」
帰ってきたら今度は女子3人が口喧嘩だ…もうどしろってんだ…
「あー!魁紀帰ってきた!かーいきー!!」
「飛びつくな。」
右手で鷹取の頭を掴んで動きを止めた。
「魁紀おかえり。」
「おかえりだわ。」
母さんから許可をもらったとしても、4人目はさすがに面倒だな。3人目の時でもめんどくさかったのに。
「魁紀!同じ部屋で寝ようよ!」
「お前は端っこの部屋だろ、ちゃんと1人で寝ろ。」
「1人じゃやーだ!魁紀と一緒がいーい!」
はぁ…めんどくせぇ…なんで母さん許可出したんだ…
「魁紀、もうその子どうにかしてあげて…」
羽澤は手で頭を抑えながら言った。
毎度毎度苦労をかけてごめんな…
だからといって打つ手がない、どうしようか。うーん…あっ、鷹取は俺がいるからこの家に来るわけで、俺さえいなければ羽澤と鬼寅に迷惑かからないってことだ。ならば打つ手はただ1つ。
「よし、俺この家から出る。」
「「え!?!?」」
3人とも驚いた目で俺を見た。
「なんで!出る必要ないじゃん!一緒に暮らそうよー!」
「お前がいると羽澤と鬼寅がまともじゃなくなるんだよ、俺はともかくあの2人の生活は邪魔するな。」
人に迷惑かかった状態で生活なんてできねぇしなぁ。
「うーんわかった!ごめんねゆなゆな、まゆちん。私魁紀と一緒に行くから!またどっかでね!」
よし、鷹取が着いてくるなら問題は解決だな。後はこっちで何とかすれば丸く収まる。
「何勝手なこと言ってるのよ、そんなこと私が認めると思ったのかしら?2人とも残りなさい。」
おいおい、せっかく俺がこいつを連れてくって言ったのになんだよそれ。
「真由ちゃん?」
「幽奈、あの子のおかげで目が覚めたわ。今までの私がバカだったわ。」
「それってどういう…」
「一時休戦は終了よ、私も自分から掴みに行くわ。」
鬼寅が早歩きでこっちに近づいて来る、待て待て、殴られるんじゃないだろうな俺!
「魁紀!1度しか言わないからよーく聞いておきなさい!」
鬼寅は俺に指さして大声で続いた。
「私、鬼寅真由の…許嫁になりなさい!!」
は…は????
「おま、自分でなんて言ってるか…わかってんのか…!?」
いかん、あまりにもの衝撃に動揺してしまった。てかいや、動揺するでしょ普通!い、許嫁だぞ!?それって要するに将来結婚するってことだぞ!?むりむりむりむりむりむり!!まだ15なのにもう婚約に縛られるとか無理!
「ちょっとまゆちん何言ってんの!?魁紀と結婚するのは私だよ!」
「それはあんたが勝手に言ってるだけでしょ?私が言っているのはちゃんとした婚約の話だわ、ファーストキスで浮かれてるあんたに介入する隙なんて無いわ。」
鬼寅は至ってマジな調子で鷹取を黙らせた。待てよ、今更だけど鬼寅って俺の事好きだったの!?えええええええ!?!?いつから!?俺なんかした!?あんだけ俺嫌われてたのに手のひら返すタイミングあった!?
「浮かれてなんかないもん!きっかけはそうだったけど、私が何年魁紀を追いかけたか知らないくせに!!」
「ええ知らないわ、知ったとしても私は同じことを言うわ。」
「むーーー!!魁紀は絶対渡さないんだからね!」
「それはこっちのセリフよ、奪えるものなら奪ってみなさい。」
「なんでもう俺がお前の物になってんだよ、おかしいだろ。」
さすがにずっと黙って聞いてると知らない話が進展しそうだった。
「黙って聞いてれば、君たちは勝手がすぎるねぇ…」
2人の奥から、さらにやばいオーラを漂わせた羽澤が歩いてきた。
「ここからは戦争だよ、早い者勝ち、それでも文句ないね?」
「ええ、無いわ。」
「ふん、絶対魁紀は渡さないんだからね!」
「そういうことで魁紀、覚悟しておいてね。もっと時間をかけたかったけど、そんなことを言っていられる状況じゃなくなった。あの時の返事、近いうちに聞かせてもらうから。」
あの時って…
(魁紀は鈍感だから、こうでも言わないと絶対気づかないもんね。でも勘違いしないで、私は今直ぐに返事が欲しいわけじゃないの。もっと時間を掛けて、鈍感な魁紀でも振り向いてくれるように頑張るから!)
つい一昨日の話じゃねぇか…
「鷹取さんのせいでだいぶ予定が狂っちゃったよ…」
「へへー、それほどでも!」
「褒めてない!あぁもう疲れちゃった、魁紀何食べたい?」
「カップ麺で…」
いろいろありすぎて、飯どころじゃないや…
「いいの?それで。」
「うん…」
なるほどね…鬼寅がうちに来たのも、たぶんそういうことだったんだろうね…やっとわかったよ…あんま人に好かれると思ってなかったからいろいろ避けてきたけど、こうも直球で言われると逃げるにも逃げれねぇな…
はぁ…もうどうすりゃいいんだ…
10月18日 17:00 東京ドーム前
そして迎えたライブ当日、東京ドーム前に集まったのはいいが。
「どうしたんだ魁紀、顔色悪いぞ。」
「なんかあったんですか?魁紀さん?」
龍太郎と新井妹に心配されるくらいには調子が悪かった。
「お前ら、なんか知らないのか?」
龍太郎は俺の後ろの3人に問いかける。
「知らないよ。」
「知らないわ。」
「知ーらない!」
お前らのせい…って言いたいところだが、今となっては鈍感な俺が悪い気がする…
「もしかして前に遥ちゃんが言ってたことかな、その調子だと進展してるみたいでよかった。」
「なんだ朋実知ってるのか?」
「うん、前に遥ちゃんが呆れながら魁紀君の話をね。」
「大谷それ以上はやめるんだ…」
「あっ、ごめんごめん!」
それ以上言ってしまうと俺が死んでしまう…
あぁ…自分の鈍感さに呆れる時が来るとは思わなかったよ…
「何があったかは知らんが、ライブ楽しもうぜ!恵ちゃーーーん!!今会いに行くよー!!!」
「龍太郎!ちゃんと武器隠してってば!」
龍太郎がドーム内に向かって走っていき、大谷はそれを追いかけていった。
「ま、なんとかなりますよ魁紀さん!行きましょ!」
「お、おう…」
やめろ新井妹、俺を憐れむな…
「行こ、魁紀。」
「早くしないと置いてくわよ。」
「私相馬さんのライブ初めてだけど楽しみ!ちゃんと手繋いで行こうね魁紀!」
「ちょおま!」
ぼーっとしてたら鷹取に左手を握られた、振り払おうとしてもなかなか強い握力で握られてるからできない。なんだよこいつ、無理やりにも程があるだろ。
「ほら、行こ行こ!」
鷹取は俺の手を握りながら、先に行った5人を追い抜く勢いで走った。
「おいバカ!そんな強く手握って走るな!」
「だってライブ楽しみなんだもん!」
もういいや…どうにでもなれ…