第百十二集 ファン
10月16日 11:20 新横浜警察署対妖魔科
警察に情報提供してもらうって、マジで直接に警察署に来る必要なかっただろうに…
あのあと、佐曽利さんの車で警察署まで運んでもらった。今は佐曽利さんが警察の方と話をしているところだ。
「みなさん、お待たせしました。こちらが被害者の資料です。」
佐曽利さんは何枚かの紙を俺たちに渡した。
1人目、谷岡亜弥。遺体発見場所は大阪京セリドーム付近。
2人目、渡瀬寛太。遺体発見場所は静岡ふとももっぱら付近。
3人目、霜田美冬。遺体発見場所は東京味の外スタジアム付近。
4人目、角谷翔也。遺体発見場所は神奈川月産スタジアム付近。
見てわかる共通点は、全部相馬恵が最近ライブを開催した会場だったことだ。そのことから、4人ともファンなのは間違いないだろう。
「ライブを開催した場所で、必ず1人亡くなっています。遺族に情報を頂いたところ、全員恵のライブに行った後に亡くなっているようです…」
もらった紙には特にこの4人が何かしたとは書いてないから、無差別に殺されたと考えてもおかしくない。ただやっぱりなんでこの4人なんだろ。
「使いたくない手ではありますが、次のライブでお客様が狙われる瞬間に手を打てればと考えております。」
「さすがにそれは危険すぎるわ。」
「うん、人の命を犠牲にするかもしれないならやる必要はないです。」
鬼寅と羽澤は反対のようだ。正直わざわざ観客囮にして妖魔引っ張り出すのはプロデューサーとしてどうなんだ?
「じゃあ私が観客全員守る!それで文句ないよね!」
「んなことできんのかよ。」
さすがに天才と言えどそれはちょっと無理があると思う。
「できるとも!私をだーれだと思っているんだ!天才鷹取天音だよ!」
「それではさすがに無理かと思います。次のライブ会場は東京ドームですので、かなり広い範囲での守りになってしまいます。」
ただ鷹取の案が却下されたら佐曽利さんの観客を囮にする案になってしまう。
「1人じゃ無理だから私が手伝ってやるわ、感謝しなさい。」
まさかの鬼寅が鷹取を手伝うと言った。あんだけ仲悪そうにしてたのに。
「2人でも無理でしょ、私も手伝うよ。私の陰陽だったら広範囲でも守れるから。」
羽澤も乗り気だった。
「まゆちんとゆなゆなは来なくても大丈夫だよ!魁紀が一緒に来てくれたらいいもん!」
「行くなんて言ってねぇよ。」
「魁紀は来なきゃダメだよ。」
「そういう約束だったはずよ?約束を破るなんて私が許さないわ。」
そうだそうだった…脅されて行く羽目になったんだ…
「わかった、わかった…」
大事なことなので2回言いました。
「みなさんありがとうございます。では当日は先程渡した無料券でいらしてください、任務はまた追ってお知らせしますので、今日はもう帰宅していただいて結構です。」
さっき佐曽利さんが考えた案はともかく、どこまでも丁寧な人だ。そんな人がプロデュースした相馬恵はきっともっと優しい人なんだろうな、知らんけど。
「では帰りまーす!かえろーかえろー!」
こいつもこいつでテンション高ぇ…うるせぇ…
「さあ帰るわよ魁紀。」
「帰ろうか、魁紀。」
何だこの違和感、羽澤は普段言ってるからいいんだけど、鬼寅が言うとこんなにも違和感があるのか。いや羽澤からもなんか違和感がするけどね。
「全員同じ家だろ…いやでも同じ道で帰るんだから…」
「鷹取さん、李英さんに許可をもらったなら特に言うことはないけど、あなたは1番端っこの部屋に住んでもらうね。余ってる部屋もう両端しかないから。」
うちもうそんなに部屋ないのかよ…むしろ5部屋もあったのか、そう考えたらなかなかの豪邸だな。
「気にしないで!私魁紀と同じ部屋に住むから!」
「ダメだよ!」
「ダメだわ!」
「1人で寝ろ1人で。」
さすがにこれは2人に同意せざるを得ない。
「えーーー!!それじゃ李英さんに許可とった意味ないじゃーん!!いやだいやだ!魁紀と一緒に住むの!!」
「ふふふっ、みなさん仲がよろしいようで、見てるこちらも微笑んでしまいますね。」
そういえばまだ佐曽利さんいたんだった、恥ずかしい…
「では私は今度のライブの準備がありますので、これで失礼させていただきます。またライブ当日にお会いしましょう。」
佐曽利さんはそう言い残して警察署を出ていった。
さてと、早いとこ帰るか。もうこいつらに構ってるのもバカバカしいや。
いや、その前に学校に戻ろうかな。龍太郎にこの無料券自慢したいし、今度の任務のことを言えば着いてきてくれそうだし、言うだけ言ってみよう。
「お前ら帰るなら先帰っててくれ、ちょっと学校に用があるから。」
「わかったー!ちょうどいいし荷物を魁紀の部屋に持ってくね!」
「だーかーらーあんたは端の部屋だって言ってるでしょ!」
「まだそんなこと言うなら晩御飯抜きだからね!」
「ふふーん!私作れるからいいもーん!」
なんでもいいから帰るなら早く帰ってくれ…警察の人ら見てんぞ…
「じゃあ俺は先行ってるぞー。」
俺の話を聞かずにまだなんかごちゃごちゃ言ってるよ…もうしーらね。
12:15 1年5組専用体育館
「な、なにがあったんだ…これ…」
学校に戻ってきて、教室に入ると誰もいなかった。そういえばダンスの練習が始まったとか言ってたから体育館でやってんのかなと思って来てみれば…
「ちょっと男子、なんなんすかこのザマは、全然なってねぇっすけど?本当に運動してるんすか?」
女子たちはそれなりにぴんぴんしてるが、男子勢は新谷以外倒れてた。どんな練習したらこうなるんだよ…
「魁紀…助けてくれ…」
「こいつ…俺の妹じゃねぇ気がしてきた…」
龍太郎と夏が死にかけてた。
「バカ兄貴は筋肉鍛えすぎなんだよ、だから細かい動きになると体が動かなくなる。」
「お前こそそんなガリガリなのに良くそんだけ動けるよな…」
「だからいつも言ってるっしょ、バカ兄貴とあーしは全然似てねぇって。」
うん、本当に全然似てねぇ。
「あんたも帰ってきたんすね、ほら、元気そうならダンスの練習してけっすよ。」
いかん、目を付けられてしまった、これはめんどくさくなる前に退散しなければ。あ、そうだ、龍太郎に伝えるついでに新井妹にも伝えておこう。
「龍太郎と夏の妹に話があるんだけどさ、ちょっと来てくんね?ちょうどみんな疲れてるし休憩入れるのもいいだろ?」
「あん?まーそうっすね、休憩も必要だ。話が終わるまでお前ら休憩っす。あとで続きやるっすよ。」
よかった…
「龍太郎、いい話だ。起きてちょっとこっち来てくれ。」
「ほほぉ、いい話ならば聞かないわけにはいかないな!」
倒れていた龍太郎だが、すぐに元気になって起き上がった。
2人を体育館の端っこに連れていき、任務の件を話し始めた。
「今度の相馬恵のライブあるだろ?実は最近ライブの後に事件が何件かあってな、相馬恵のファンがライブ会場外で4人も死んでる。」
「なんだその話、聞いてねぇぞ。」
「そんくらいの話があんならとっくにニュースになってるはずっすよ。」
この2人相馬恵の話になるとすごいちゃんと聞いてくれるから助かる。
「プロデューサーの佐曽利さんが情報を抑えていたからね、関係者しか知らないことだ。」
「「佐曽利さんだと!?」」
2人が同時に叫んだ、やっぱファンだとプロデューサーもみんな知ってるのか。
「魁紀、お前ま、まさか、佐曽利さんに会ったのか!」
「な、なんてことだ、恵ちゃんのプロデューサーに会えるなんて羨ましいっすよぉ!」
おーこれはこれは気持ちがいい、この優越感、実にいい。じゃあおまけにあの券も見せびらかしてやろう。
「そう、今日の任務の依頼主が佐曽利さんでね、事件に関わった妖魔を1体倒したから、報酬としてこんなのを貰った。」
「なんだこれは?」
「聞いて驚け、相馬恵のライブの永久無料券だ。」
「「はぁぁぁ!?!?」」
実にいい反応だ、期待通りである!
「魁紀、その任務俺にも同伴させてくれ!永久無料券は要らないけど恵ちゃんのために何か出来るなら、俺行きてぇ!」
「あーしもぜひ連れてってくれっす!いや連れてってください魁紀さん!!新井冬奈、絶対役に立ってみせます!」
よーし作戦成功だ、2人を連れて行けるならもう少しはライブ会場の守りも固くなるだろ。
「じゃあまた今度のライブでな。それはそうと、なんで龍太郎永久無料券要らないんだ?俺が持ってるこれあげてもいいくらいなのに。」
少し気になった、ファンにとって好きな歌手のライブにただで行けるなら喉から手が出るほど欲しいものだと思うんだけど。
「わかってないな魁紀、ファンってのはお金を使ってこそのファンだ。お金を使ってライブ券を買ったりグッズ買ったりして応援して、そんでそのお金でまたライブを開いてもらえれれば、俺たちはまた応援ができる。この循環こそが俺たちファンにとって1番重要なことだ。だからそれがタダでできるようになっちまうと、応援してる気分になれねぇんだ、すまねぇな。」
「そうなんですよねぇ、やっぱりお金を使わないと手に入らない物もありますからねぇ。タダで手に入るライブでの感動とか思い出なんて、絶対心に残らないですからねぇ。」
なるほどな、俺はタダで何か手に入ったりできたりすれば困ることなくていいんだけど、そういう考えもあるんだな、覚えておこ。
「2人ともありがとう、ちょっと勉強になった。じゃあ俺は帰るから、またな!」
「おー!」
「ライブの日よろしくお願いします!ってあーーー!ダンスの練習終わってねぇんすよ!帰るのはまだ早いっす魁紀さん!」
気付かれては仕方ない、全力帰宅だ!