第百九集 ライブとダンス
10月15日 9:50 1年5組専用体育館
「どちら様ですか!私から魁紀を奪うなんて許さないですよ!それにあなた達は魁紀のなんなんですか!」
「同居人だよ。」
「同居人よ。」
いいのか?間違ってないけどストレートに言っちゃってよかったのか!?
「真由ちゃん、私の意図がわかってるなら、一時休戦しない?」
「幽奈…わかったわ、一時休戦するわ。」
なにやらぼそぼそ話してるが全く聞こえない。
「あーーー!!なにそれ!!魁紀女の子2人と同じ屋根の下で暮らしてるの!?ずーるーいー!!私も一緒に住みたいー!!」
「ダメだよ。」
「ダメよ。」
俺に発言の権利はもうないらしい。ただこれに関しては2人に同意だ、これ以上増えられても困る。
「ふーん、じゃあ李英さんに相談して住ませてもらうようにしてやるもーん!」
「「え?」」
そうだ、そうだった。あいつうちのお母さんと仲良かったんだった…
「今日は邪魔が入っちゃったから勝負はお預け。また明日ね!かーいき!」
鷹取は俺に手を振りながら体育館を後にした。
うーん、視線が痛い。俺のメンタルが壊れそうになるくらい痛い。
「魁紀、なんで彼女李英さんのこと知ってるのかな?」
「いやぁ、俺がストーカーされてた時にうちのお母さんと仲良くなっててね、あはははは。」
「あははじゃない!」
「あははじゃないわ!」
今日はやけに仲良いなこいつら…
「ともかく、私も真由ちゃんみたいに魁紀に同行するからね!」
「えぇ…」
周りからなぜかひゅーひゅーって言われてるけど、そういうわけじゃないからな!
もういいや、教室戻ろ…
10:00 1年5組教室
「なあお前ら、そんな近くにいなくてもいいだろ…てか羽澤はともかく、なんで鬼寅までうちの教室にいるんだよ。」
「魁紀がいつも心配かけさせるからよ。前は死にそうになるし、今回は変な女に絡まれてるしもう頭がはち切れそうだわ!」
前は悪かったけど今回のは違うでしょ…
「だから私霧雨先生に5組にいてもいいって許可を取ったわ、もう魁紀が何を言っても無駄よ。」
完全に詰みだ、毎日女の子2人に囲まれるの一般男子なら喜ぶところだけど、これに関しては完全に監視だから全くもって嬉しくない…
「琴里さーん!行きましょーよ!」
「私は遠慮させていただきます、夏と行けば良いと思うのですが。」
「あのバカ兄貴に恵ちゃんの良さが分かるわけねぇじゃん。」
どうやら新井妹が五十鈴を何かに誘っているな。恵ちゃんって言ってるなら、また相馬恵のことか…最近やたらその人の名前聞くなぁ。
「ほう?夏の妹、恵ちゃんの良さがわかるのか。」
そうだよな、恵ちゃんって単語聞いたら龍太郎が動かないわけないもんな。
「なんだよお前、軽々しく恵ちゃんって呼んでんじゃねぇよにわか。」
「この俺をにわか呼ばわりするとはいい度胸だな。この恵ちゃんファン歴6年の俺を!にわかと言ったな!」
6年ってお前、小学校の頃からファンだったのかよ。
「なっ!?これは失礼したっす!パイセン!」
「分かればよい!あっはっはっ!!」
新井妹は龍太郎の言ったことを聞くと、直ぐに頭を下げて謝った。
なんだあれ、相馬恵ファンの間だとそういうやり取りなのか?
「まさかデビュー当時からのパイセンファンだったとは、あーし感服したっす!あーしはまだファン歴3年だから、あーしのがにわかっすね…」
「気にするな、みんな最初はにわかだからな。これからもっと恵ちゃんを応援すれば、いずれ熟練のファンになれる!」
なんだよ熟練のファンって、ファンに熟練も未熟もあんのかよ。
「わかりました!あーし頑張ります!」
「なら今度のライブ、もちろん行くよな?」
「あったりまえじゃないすか!もちろん行くっすよ!」
なんだろ、これが根強いファン同士の会話なんだろうね、きっと。
「よーし!じゃあ一緒に行こうか!朋実!魁紀!お前らも一緒に行ってくれるよな!大丈夫、チケットなら俺が用意しておく!」
「おい待て、誰も行くなんて。」
「行くよ。」
「行くわ。」
お前らが行くのかよ…
「だから魁紀。」
「あんたも来なさい。」
えぇ…
「拒否権は…」
「ないよ。」
「ないわ。」
「はい…」
「魁紀君、大変だね…」
大谷に憐れみの目で見られてしまった…もういやだ…
「ほほう、みんな恵ちゃんの良さに気づいたのか!よーし!時間は18日の夕方17時、場所は東京ドームだ!」
多分そういうことじゃないと思うし場所東京かよ、だいぶ遠いな。
「魁紀、当日は一緒に行くから、他の約束はしないでね。」
「ライブすっぽかしたら、どうなるか分かってるわね?」
「はい…ちゃんと行きます…」
この2人どうしたんだ、鷹取のせいでなんか変なスイッチでも押されたんか?
「みなさん、ライブに行くのはいいのですが、文化祭でのダンスの練習もちゃんとしてくださいね。なんなら今からでも始めましょうか。」
「ダンスの練習なら、あーしは手ぇ抜かないっすよ。覚悟しろっすよ、お前ら。」
ダンスの単語を聞く途端、新井妹の目の色が変わった。俗に言う鬼教官的な感じ。
「まず全員座れっす、やる気があんのかどうかあーしが確かめてやるっす。」
新井妹は教壇に立ち、俺たちに席につかせる。鬼寅は興味がないのか、教室を出ていった。
「ダンスとは身体全部使って表現する芸術っす、お前らにその芸術を作る覚悟はあるんすか?ないならあーしはこの練習の担当を降りるっす。」
「冬奈さん、それですと話が。」
「いくら琴里さんのお願いでもこれは別です、やる気と覚悟がないやつらに教えることなんてないです。」
思ったよりもスパルタっつーか熱血っつーか、これだけは譲れないプライドってやつか。
「僕らは根元先生が見たかったものを、根元先生に届くように精一杯やるだけだ。そのためなら覚悟とかやる気とか、あるに決まってるじゃん。たぶん、きっと…そう…」
新谷が席を立ち、新井妹に言い返した。だがその自信の無くなり様はどう捉えられるのか…
「へぇ、あんたダンスやってた人っしょ、あーしにはわかるっす。制服越しでもわかるダンスするための体っすね、あんたみたいなのがこのクラスにもいたとは驚いたっすよ。」
「それほどでもないよ、うんないよ…ただ僕達ならできるよ、僕が保証する。やっぱやめとこうかな…」
最後の一言小声でよかったな新谷、聞かれてたらダンス教室お終いだったと思うぞ。
「いいっすね!亡き先生のためにやろうってことっすね。いい理由じゃないすか、決まりっす!明日からお前らをビシビシ鍛えてやるっす、言われた通りに動いてくれっすよ!」
「いよ!さすが我が妹よ!」
「あんたは黙れバカ兄貴。」
夏だけ扱い酷くて笑っちゃうな。
そんなこんなんで、ライブに行くはめになるし、熱血のダンス教室も始まろうとしてるし、こんな学校生活があってたまるかって話だけど、他の学校でもきっとこんな学校生活を送っているって信じてる。信じてるからな?