第百四集 乙女心
10月13日 17:00 月産スタジアム
「♪数え切れない君との思い出」
冷残の事件から約1ヶ月、まともな学生生活が戻ってきたこの頃。
「♪君が欲しい、君が好き、君を愛してる」
「恵ちゃーーーーん!!!!」
やっと普通に戻れると思ったらこの状況である。
「ごめんね魁紀君、鬼寅さん、2人まで着いてきてもらっちゃって…」
「いや…あの時興味本位で話を聞いた俺が悪かった…」
「勘違いしないで、私は魁紀に着いてきただけよ。」
謝らないでくれ大谷、お前は何も悪くないんだ…
数日前、龍太郎と夏が教室で何やら熱弁していたから、興味本位で話を聞きに行ったら。
「なんだ魁紀!お前も恵ちゃんの歌が聞きたいのか!そうかそうか!!じゃあ一緒に行こう!チケットは俺が用意するからさ!!」
と熱く勧誘されてしまい、今ここにいるという訳だ。
じゃあ夏は何故いないかと言うと、空気を察して気づいたらいなくなった。絶対許さないからなあいつ。
鬼寅に関しては俺が心配だからとのことだが、ライブにまでついてくる必要なかったと思うんだけど…
にしても、歌手のライブに来るのは初めてだな。この人口密度、歓声、観客の統一感、嫌いってわけじゃないけど、混ざれるもんでもないな。
「ほらほら!朋実も魁紀も鬼寅も!もっとノってノって!!」
そういえばここ入る前にサイリウムとかいう物を渡されてたな、唯一感心したのが最初光ってなかったのに軽く折ったら光ったことだ。どういう仕組みだこれ?
「龍太郎に合わせて振ればいいのかこれ?」
「ああそうだ!最初はそれくらいでいい!恵ちゃぁぁあんんん!!可愛いいいい!!!」
熱狂的ファンすぎて逆に怖くなってきた。
19:00 新横浜駅
「あああ恵ちゃん可愛かったあああああ!!」
悶絶してる人が1名。
「それで今日来たのって誰のライブなのかしら、私知らないわ。」
そうだった、俺もちゃんとは知らないんだった。
「ほうほう、ならば説明しよう!相馬恵、通称歌姫、日本で1番の女性歌手だ!どこでライブを開催してもチケットは即完売、その人気は今でもうなぎ登り!」
簡潔で分かりやすいけど龍太郎がかなりのファンだということはよくわかった。
「ふーん、そうだったのね。」
鬼寅は鬼寅ですごい興味無さそうだった。いや聞いたのお前だろ…
「どうだ、少しは恵ちゃんに興味が湧いたか!ならば次のライブも行こう!」
「はーい!その恵ちゃんの話になると強引になる癖治そうね。ごめんね2人とも、龍太郎は私がしつけておくから、先帰っちゃって大丈夫だよ。」
龍太郎が話してるところに大谷のグーパンが入った。なんか珍しいなこんな2人を見るの。
「そうさせてもらうわ、帰るわよ魁紀。」
「そうだな、じゃあまた明日。」
「うん!また明日!」
「おー…待てぇ…まだ恵ちゃんの…」
「あんたは今から私にしつけられながら帰るの!」
「そんな…」
まだ布教し足りない龍太郎だったが、大谷がいる前では何も出来なかった。
20:00 自宅
家に帰り、風呂を済ませた。
「2人ともお疲れ様、無理やり連れてかれたらしいけどどうだった?」
「いい…ライブだったよ…」
羽澤とは旅館での1件で完全に目を合わせて話せなくなってしまっている。いやだって、ほっぺに、ちゅーをしたんたぞ?俺だって年頃の男の子だ、そんなことされたらいろいろ考えるだろ!
「言い方からして良くないね…なんかあったの?」
「いや、なにもなかったよ…」
頼む羽澤、顔を寄せないでくれ、思い出しちゃうから!
「顔をそんなに近づけて何してるのかしら、2人とも。」
「き、鬼寅!?」
鬼寅が鬼の形相でこちらを見ていた。
「ライブで何かあったのか聞いてるだけだよ。」
「あらそう、じゃあそんなに顔を近づける必要があるのかしら?」
「魁紀が顔色悪そうに答えから心配になちゃってね。」
女子同士のこんな話し合い初めて見たかも、てか鬼寅も羽澤も怖いんだけど…
「魁紀、ライブで何かあったのかしら?私ずっと一緒だったけど何も無かったわ。それとも他に気になったことでもあったかしら?」
「だから何も無いって、龍太郎はガチファンだったしライブは楽しかったし、他に何もねぇって。」
「あっそう。」
なんなんだよマジで、これが乙女心だってならもうわかる気しないぞ。
「ほらほら喧嘩しないの、何も無かったならよかったじゃない。」
「そうね、悪かったわ、魁紀。」
もうなんなんだこれ、怒ったり謝ったりで、情緒不安定かツンデレかなんかか?
「俺も悪かった、ついかっとなった。」
俺も俺で言い方が悪かった、そこは謝る。
「はい、私もごめんね、真由ちゃんに誤解させるようなことしちゃって。」
「ご、誤解ってなによ。」
「なんでもないよ、気にしないで!」
凄いよな羽澤のやつ、こうも簡単に鬼寅のことをなだめた。羽澤いなかったらまた鬼寅と喧嘩始めるところだったのかもしれない。
「それよりもうすぐ文化祭だね、私屋台とかやってみたいなぁ。」
そういえばもうそんな頃か、確か10月30日と31日のハロウィンにやるんだっけ。
「文化祭…」
鬼寅がなにやら考えているようだ。
「文化祭ねぇ、うちのクラスなにやるんだろ。正直めんどくさいのは嫌だから楽なやつがいいんだけど。」
「ええ、年に1回しかないんだから楽しいやつやろうよ!」
年に1回で卒業まであと3回もあるじゃん、十分いろいろ出来ると思うけどな。
「魁紀!ぶ、文化祭、一緒に…まわっ…」
「ん?なんだって?」
徐々に声小さくなると聞きたくても聞こえないって。
「ううう!!私と一緒に文化祭を回る権利を与えるわ!感謝しなさい!」
えぇ…