第百三集 墓参り
9月20日 12:00 葉緑霊園 根元洋海墓前
「おまんらまで一緒に来んくても良かったじゃろうに…」
「根元先生の墓参りも行くんでしたら、俺達も行くのは当たり前ですよ。」
退院してから2日、俺達1年5組は根元先生の墓参りに来ていた。葉月先生の両親の墓もたまたまここだったみたいで、俺達も根元先生の墓参りに行かないとということで一緒に来ている。
「しゃーないのう、じゃが親の墓参りは1人で行かせてくれや、話すことが多いんじゃ。」
「はいはいわかってますって。」
そら家族との時間を邪魔するのは野暮ってもんだ。
「洋海、久しぶりじゃのう、わしじゃ。」
葉月先生は持っていた花を墓に置いて、しゃがんで話し始めた。
「まだ1ヶ月も経っとらんが、おまんのクラスを引き継いだ。ほんまにおもろいクラスじゃ、どう教育したらああなるんじゃ。」
どんな教育か…うーん、雑というかなんというか…
「ただおまんらしいクラスじゃ、引き継いだ甲斐があったっちゅうもんじゃ。それと聞いて驚けや、遥がおまんの力を使っとったんじゃ、まさかあの風神の姉貴がおまん以外に力を貸すなんて驚いたわ。」
風神の姉貴?風神様で女性だったの!?
「わしも親の仇討ちが出来た、文句無しじゃ。強いて言うなら、洛陽の時におまんの所に行けたらもっと文句無しじゃったな…」
葉月先生は空を見ながら、少し涙ぐんでいた。
「ほんじゃ、わしは両親の所に行って来る。冷残の時もありがとな、洋海…」
最後は少し意味深に話して、葉月先生は立ち上がった。
「あとはおまんらだ、報告とか嬉しい話とか全部洋海に聞かしちゃれ、わしは両親の所に行く。」
「はい、わかりました。こちらが終わったら外で葉月先生を待てばよろしいですか?」
五十鈴が俺達を代弁して話した。
「おう、そうしてくれると助かる。」
「では、また後ほど。」
五十鈴に合わせて葉月先生に一礼し、葉月先生は奥に歩いていった。
「もう2ヶ月も経つのですね、まだ任田祭の余韻が残ってるというのに…」
「そうだな、これから学校生活が始まるぞ!って時によぉ…」
五十鈴と夏は、任田祭の頃を思い返していた。
「根元先生いなかったら、俺は子浦なんかに勝てなかっただろうな…」
「助言もたくさん頂いたもんね…」
龍太郎と大谷は、根元先生からの言葉を思い出していた。
「母と弟を亡くした私を、何度も励ましてくれた…根元先生がいなかったら、みんなにも顔を合わせることが出来なかったよ。」
羽澤は、精神が安定していなかった頃を思い出していた。
「小戌丸さんのおかげでもあるけど、根元先生がいなかったら、にゃーちゃんと一緒に学校行けなかった。」
「にゃー…」
松永とにゃーちゃんは、お互いに一緒にいれることを感謝していた。
「私は自信を貰ったね、直接ではないけど、風神様の力を貸して貰えたんだ。根元先生も使っていた風神様の力を、私が一時的にとはいえ使えたんだ、前よりは1歩前進出来た気がする!」
南江は貸してくれた力を上手く扱えたことを喜んでいた。
班長達が代表して言ってくれたんだ、俺は口に出して言う必要は無いだろう。
でもな先生、俺は先生に助けられたよ。人間でも妖魔でもどっちでもいいんだって、みんなが助けてくれるんだって。ずっと悩んでた、妖魔の血が混ざってるけどみんなと上手くやっていけるのかって。みんなも先生も優しくしてくれるし、正直助けられてばっかだ…このクラスに入れて本当によかった…
俺頑張るから、頑張りますから!いつか妖魔のいない世の中を作ってみせるから!向こうで見ててくれよ、根元先生!
(カッカッカッ!言うようになったではないか、魁紀よ。)
なんでこの方頭で考えてる事までわかるんだよ。
(酒呑様、頭で考えてることまでわかるの…?)
(我を誰だと思うておる、容易いことよ。そんなことより、妖魔のいない世の中など大きく出たものよ!カッカッカッ!!)
(完全にいない世の中が作れなくとも、せめて皆が安心して暮らせる世の中くらい作ってみせるさ。)
(カッカッ、面白い!見届けてやろうではないか。)
(あぁ!)
12:10 葉緑霊園 葉月家墓前 葉月大地サイド
「来たで、おとん、おかん。しばらくぶりじゃのう。2人の仇討ちは出来た…ほんで藤原のクソジジイも貴族から下ろせた…2人は望んどらんかもしれんが、わしがそうしたかったんじゃ…」
来る度に思い出す、15年前の出来事を…あん時、わしにもっと力があれば、藤原のクソジジイさえいなけりゃ、おとんとおかんは死ぬこともなかったんじゃ…
じゃがもうおらんもんはおらん…今更たらればなんて言うても遅い…
「のうおとん、おかん、遂にわしにも生徒が出来たんじゃ。28にもなってやっと生徒が出来たんじゃ、まあ洋海の生徒を引き継いだだけじゃが…でもおもろいクラスじゃ、生徒は皆優秀で、技術面じゃ教えることがないくらい凄いんじゃ!1度見せてやりたかった…わしが教師してる所を…わしの生徒はこんなに凄いんじゃと…」
話していけばいくほど、涙が勝手に出てきてまう…ダメじゃ…わしゃ…
(よく出来とるで!大地!)
(よく頑張ってるよ!大地!)
「おとん!おかん!」
洋海の時みたいに、声が聞こえた。
「あぁ…そうか…そうなんじゃな…あり…がとう……」
ただただ泣いた、ひたすら、子供のように…
2人にそう言って貰えるなら…わしはもう満足じゃ…
12:50 葉緑霊園前 丑崎魁紀サイド
俺達は先に墓参りを終え、霊園外で待っていた。
「葉月先生大丈夫かな。」
それなりに時間が経っているから、さすがに心配になる。
「お話したいことがたくさんあるのでしょう、もう少し待ってみましょう。」
五十鈴の言うこともご最もだ、もう少し待とう。
「すまんのうおまんら、待たせたのう。」
噂をすればなんとやら、葉月先生が来た。
「葉月先生、めっちゃ目赤いですけど大丈夫ですか?」
だけどめっちゃくちゃ目を赤くして帰ってきたからつい聞いてしまった。
「目に砂が大量に入ってのう、心配すな。」
そんな砂ここにあるわけないでしょ…
察するにめっちゃ泣いたんだろな、わかりますよ、俺達だってめっちゃ根元先生の前で泣いたもん。
「まあそんなことはええじゃろ、ほんじゃ帰るで、おまんら。」
「「はい!」」
成長した姿を、果たして根元先生に見せれただろうか。でも根元先生ならきっと、よくやったぞお前ら!って言ってくれるような気がする。
みんなボロボロとはいえ、無事だし生きてる、今はそれを喜ぼう。
でも、一難去ってまた一難とはこういうことを言うんだろうな…ただまた一難が去ったのは確かだから、今度こそ始まる学校生活を楽しもう。
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