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干支十二家妖魔日記  作者: りちこ
貴族騒乱編
110/193

第百集 冷残 漆

  9月16日 12:50 鎌倉 藤原邸正面 丑崎魁紀サイド


  (魁紀よ、小娘を守ってやれ。もし小娘が祈祷をするのであれば守りが必要だ。)


  (守り?ていうか南江今まで祈祷なんて一言も言ったことないし本当にできるのかな。)


  殴ったり蹴ったりばっかりだったし。


  (我が知る限り、南江一族が祈祷の伝統を絶やすことはありえぬ。小娘に祈祷ができぬとすれば、祈祷の伝統がもう既に途絶えていたであろうな。)


  祈祷か、なんだかよくわかんないけど、そういうものが実は存在してたってことだな。


  酒呑様と話を交えていると、南江が動き出した。


  「おい南江、どうした急に正座しだして。」


  何をしだそうとしてるのかわからない。


  (魁紀よ、あれは祈祷の準備をしているところよ、守ってやれ。)


  (祈祷をするのに、まさに祈りが必要ってことね、ありがとう酒呑様!)


  (せいぜい頑張るがよい、我は寝るとしよう。)


  あいっ変わらず余裕だなこの人は、というよりこの妖魔は…俺が負けた時のこととか考えないのかな…


  「あらあら、祈祷を始めたようだね。それをやられるとさすがに厄介だ、君から潰させてもらうよ!!」


  って、そんな場合じゃねぇ。南江が祈祷を始めた瞬間冷残が南江に向けて鎌を振り上げて地面を凍結させてきた。


  「そうはさせるか!」


  大太刀を地面に叩きつけ、凍結の進行を止める。


  「南江!事情は酒呑様が説明してくれた、その祈祷とやらが終わるまで俺が守ってやる!」


  そんなわけだ、こっちも祈りを捧げてやるよ。


  「丑神(うしがみ)吽那迦(うなか)よ、我に力を与えたもう、捧げるは我が魂の祈り!」


  「あらあら、そちらも本気を出すだね!」


  「突っ走れ、丑気(ぎゅうき)!」


  丑気の発動と同時に、俺は童子切も抜いた。


  (魁紀よ、我は今から寝るところなんだが?)


  (わーってるよ、少し酒呑様の妖気を借りるだけだ。)


  (カッカッカッ!少しは成長したではないか、我と変わることはせずに妖気を借りるだけで留めるとは、良いぞ、もっと精進するがよい!)


  (いつかは酒呑様の力を借りずに戦えるようにはするさ、だから今はまだ甘えさせてくれ。)


  (カカッ、何を今更水臭いことを。勝ってこい、魁紀よ。)


  (おー!)


  「なんなのかな?その姿は?牛のようにも見えるけど、あの酒呑童子の姿をも彷彿させるとはねぇ。」


  丑気の発動だけだったら頭の横に角が2本追加で生えるけど、童子切を抜いた今は酒呑様の力も加わる。そのせいで少しいつもと違う見た目なのかもしれない。


  「うるせーよ、お前を止めるのにこの姿にならなきゃいけなかっただけだ。」


  「それがおまんの実力なんじゃな、魁紀。」


  葉月先生が少し驚いた声で後ろから俺に話しかける。


  「俺のというより酒呑様のですけどね、俺だけでしたら葉月先生にも全然及ばないですよ。」


  根元先生と特訓した時も結局勝ったことなかったしな。


  妖術血界も使えるわけじゃない、剣技がいい訳でもない、そんで妖術と陰陽もそこそこ、あれ?俺ってもしかして無能なんじゃね?


  「魁紀!遥のことはわしも守っちゃる!冷残に集中しちょれ!」


  「助かります!」


  さてと、やれるならこのままやっつけたいけど、サシでやる時にどれだけ戦力差があるのか。


  「じゃあ守ってみせてよ、それ!それ!」


  問答無用か、地面を走る凍結と黒い炎、避けたら後ろに行ってしまう、なら!


  「断朧(だんろう)!」


  童子切を振り下ろし、紫の刀身が現れて地面に突き刺し、凍結と黒い炎の進行を止める。


  「はは!やってくれるねぇ!!」


  笑いながら冷残は俺に向かって突進し、鎌を振り上げる。


  「忍妖術・雷遁稲妻(らいとんいなずま)!」


  「おっと、まだ元気なんだね大地。」


  「悪いがおまんを殺すまでは元気じゃ。」


  葉月先生が妖術で援護してくれたおかげで、冷残が止まった。


  「葉月先生!ありがとうございます!丑火損(ぎゅうかそん)!」


  「それはもうさっき見た!」


  地面に刻巡(こくじゅん)と童子切を叩きつけて発火させるが、冷残は軽々と避けた。


  「一牛吼地(いちぎゅうこうち)(そう)!」


  両方の刀を逆手に持ち、一瞬で冷残に近づいて切り込む。


  「速いけどそれもさっき見たよ!」


  結構速く切り込んだつもりだったけど、またしても避けられた。


  「魔妖術・氷炎爆鎌(ひょうえんばくれん)!」


  冷残は飛んだまま2つの鎌を俺に向けて、氷と黒炎の爆発を放った。


  「ちぃっ!丑火損(ぎゅうかそん)!!」


  避けられそうになかったから、相殺を選んだ。


  俺の発火と冷残の爆発が相殺され、煙が舞い上がる。


  「煙はまずいのう、魁紀!下がれ!忍妖術・雷遁霹靂(らいとんへきれき)!」


  「わかりました!」


  後ろに1歩下がると、煙に向かって激しい音とともに雷が落ちた。


  「さすがだね大地、あと少し遅かったら角の子の命はなかったよ。」


  煙の中から冷残が現れ、さっき俺が立ってた場所に鎌を突き刺していた。


  あっぶねぇな、葉月先生いなかった俺死んでたじゃん。


  「まだまだこんなんじゃ終わらないよ!君の血だけでも頂戴しないと、酒呑童子様の力を扱える君の血を!!」


  こいつ気付きやがったな、俺の血筋に。


  「さあ頂戴、君の血を!魔妖術・血飛沫氷炎鎌(ちしぶきひょうえんがま)!」


  冷残の2つの鎌が更に形を変え、より禍々しく、そして炎と冷気を纏って。


  「肉体をそのままに、身体中の血だけ全て抜かせてもらうよ!!」


  「魁紀下がれ!あとはわしが!」


  下がれるわけないじゃないですか!先生は体力消耗してるし、南江は祈祷の最中なんだ、だったら開き直って俺がここで踏ん張れば!


  「風神術(ふうじんじゅつ)風波(かざなみ)!」


  突然、後ろから暴風が吹き荒れる。


  「なんだこれは!」


  あまりにも強い風に、冷残は藤原邸の壁まで飛ばされた。


  「待たせてごめんね、魁紀君、葉月先生!」

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