第九十八集 冷残 陸
9月16日 12:40 鎌倉 藤原邸正面
雷の轟音、そして一閃。冷残に雷の柱が降り注いだ。
照射というのも何か違うし、とにかく言葉での表現が難しいくらいの雷が落ちた。
「これで…終いじゃ…」
力を使い果たしたのか、葉月先生は膝に手をついた。
そして徐々に血界も消えていく。
「凄かったですよ先生!」
南江は嬉しそうに葉月先生を起こした。
「雷神様の力を授かっとるんじゃ、あれくらいなんちゅうことはない…じゃがさすがに疲れたのう…」
妖術血界に雷神の力まで使ったからな。さて、俺も葉月先生に肩貸さないと。
「すごいじゃないか…大地…」
「なんじゃと…!」
冷残がまだ生きていた。あの雷を受けてなおまた立ち上がってきた。
「おまん、どんだけしつこいんじゃ…」
「すごい雷だったよ、私の氷を溶かすほどにね…だけど、炎で守れば雷も軽減される…」
よく見れば、冷残の両腕に黒い炎が纏っている。
「どこかで魔が一つ、そして今に二つへ帰る。やはり君たちには、人間には、血濡れの姿が相応しい!」
冷残は立ち上がり、ぶつぶつ話した。何言ってんだこいつ、魔が1つで二に帰る?何の話だ。
テンションも明らかにさっきと違うし、むしろこっちが本性なのか。
「魔妖術・黒炎双鎌!」
今度は冷残の両手にに黒炎の鎌が現れた。氷でも厄介だったのに黒炎まで出てくるとは。
「さあ、最終局面だ!」
冷残を中心に黒炎が爆発し、煙が舞い上がった。まだ奥の手を残してたのかよ!
「南江!とりあえず先生を安全なところへ!」
さすがにこのままじゃ葉月先生が危ねぇ。南江には悪いけど、まだ力がある俺が残って足止めしないと全滅コースだ。
「何言ってんの!2人で葉月先生を守るよ!1人でかっこつけるなんてこの班長が許さないからね!」
これはこれはお叱りの言葉を受けてしまった…かっこつけるつもりなんてなかったけど、まあいいか。
「じゃあ葉月先生をとりあえずどっか近くて安全そうな所に連れて行ってくれ!」
「心配すんな…わしはまだやれる…」
葉月先生は俺と南江を少し押しのけた。
「ふん!!」
押された南江は少しむっとした顔で腕で葉月先生の首を締めた。おいおいそれだと死んじゃうだろ!
「わかった!わかった遥!わかったから腕を離してくれ…本当に死んじまう…」
「あー!すみません!つい…」
ついやることじゃねぇだろそれ…
「こんな形になっちゃ申し訳ない…援護はわしに任せろ、あとは…おまんらに頼む…!」
「「お任せ下さい!」」
敵討ちを代わりにやる訳では無いけど、妖魔を前にして放置出来ますか?って話だ。
「良い子達だねぇ!どうやって血をいただこうかなー!燃やしてかな、凍らしてかな!」
煙が消え、ローブが黒くなった冷残が出てきた。そしてやっぱ別人みたいにテンションがおかしい。
「まあそれはあとで考えよう!とにかく君達には黙ってもらうねー!藤原さんも追いかけなきゃだし、他に12人も君たちの友達がいたんだよね?その子達もちゃんと血を貰わなきゃねー!」
「あいつらは大丈夫だ、お前なんかにはやられねぇよ。任田高校1年5組、なめんじゃねぇぞ。」
そう言って、俺は刻巡を冷残に向けた。
12:40 鎌倉 藤原邸西の森 五十鈴琴里サイド
「おいおい、消えたぞあいつ!」
「ちっくしょおおおおお!!大将がさっき攻撃外したからぁ!」
「俺のせい!?」
唐突にローブの女性が消えてしまいました…一体なにが…
12:40 鎌倉 藤原邸東 松永茉己サイド
「にゃーちゃん、あいつを抑えて!」
「オォォォォォーー!!オオォォォ!?!?」
「なに!」
急にいなくなった!どうして!
12:45 鎌倉 藤原邸正面 丑崎魁紀サイド
「丑火損!!」
「対妖魔格闘術・排山倒海!!」
「魁紀!あいつは今黒炎を使っちょる、火の攻撃じゃ無駄じゃ。」
はい、ごもっともです。
「あと遥!格闘術は今はやめるんじゃ、武器を持つ相手に素手は無謀すぎる。」
「でも私遠距離攻撃出来ないんですもん!」
無謀と言われたのが気に食わなかったのか、南江は少し駄々をこねていた。
「ほらほら!手を止める暇はないよ!」
冷残は鎌を両手に襲いかかってくる。
「南江!2人で挟むぞ!」
「わかった!」
「おまんら、いけぇ!援呪符・攻!」
葉月先生が援護の陰陽をかけてくれた、これならさっきより力が出る!
「一牛吼地!」
「なんか出てきてぇ!!」
なっ…
俺は刻巡を逆手に持ち、冷残に斬りかかったが。南江はなんと両手を正面に構えてそう適当に叫んだ。
俺のは速さのある斬撃だけど、南江はさっきの炎呪符・照?のような黒い弾を放った。
「おっと、これはこれは、そちらの女の子の君、良い技だね!」
「それってどういう…」
俺の斬撃を軽く躱し、続けて飛んできた南江の黒い弾は大きめに体を動かして躱した。
そして南江は言われたことに対して疑問を抱いていた。
確かに見たことないタイプの陰陽だ、だけどと言って特に変っていう感じもしないんだよな。
「お嬢さん?名前はなんていうの?」
「南江、遥。」
「へぇ、南江、か。」
「私の名字の何が変なの!」
そこ怒るとこなの!?
改めて考えると、南江って名字は滅多に見ないな。佐藤さん鈴木さんほどではないとしても、俺ら十二家に並ぶくらいには少ないんじゃないかな。
(そうであったか、思い出したぞ魁紀よ。)
眠いと言ってたはずの酒呑様が声をかけてきた。
(酒呑様、何かわかるの?)
(今の時代には伝わっておらぬが、南江一族ははるか昔に中国から日の本に渡ってきた祈祷師の一族よ。)
(祈祷師の一族?)
(左様、忌々しいあの天皇家を古くから支えた数ある家系の内の1つよ。)
(めちゃくちゃ凄いじゃん。)
(人間だとそうであろうな、南江一族の特徴である祈祷師という役職だが、己の信じる神に祈りを捧げることで自分の想像する力を発揮することが出来るという。)