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干支十二家妖魔日記  作者: りちこ
貴族騒乱編
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第九十六集 冷残 肆

  9月16日 12:00 鎌倉 藤原邸正面


  絶望した顔、か。今まさに俺はそんな顔になっているんだろうか。


  いやまだだな、こんなの茨木童子の時と比べたら屁でもない。


  「まだだ、まだこんなんじゃ終われねぇ。」


  少し辛いが、膝に手をつき息を整える。


  「そうだよ、みんながやられてるのに、何もしないで終われるかっての!」


  南江もまた同じように、踏ん張って体勢を起こす。


  「魁紀!遥!まだ行けるか!」


  「「はい!!」」


  葉月先生の言葉に全力で返事をする俺と南江。


  「よし、なら構えるんじゃ。倒れてるみんなは心配するな、気配はまだ生きちょる。」


  それはよかった…冷残に集中できる。


  「じゃが放置するのは危険じゃ、どこか安全なところに運ばなければ…」


  「ではその役目、私に任させてもらいます。」


  後ろから聞き覚えのある女性の声がした。


  「おまんは、藤原蓮火!」


  まさかの校長先生だった、それと何人かの護衛を連れている。


  「いつも1度は学校に顔を出すのに、今日は最初から来なかったと聞いたので参りました。」


  「き、貴様!蓮火ではないか!は、早くわしを助けよ!!」


  そういえば居たな藤原のじいさん、尻もちついて足が震えてるけど。


  「いいえお父様、もうあなたを助けたとしても助かりません。」


  校長先生は意味深に語る。


  「貴族でありながら妖魔を使役し、その上私の学校の先生や生徒達を危険に晒しました。あとはそこの妖魔を捕縛すれば、あなたは今の立場を失うでしょう。」


  「な、なんだと!?」


  そらそうだろうな、三大貴族筆頭の藤原家当主がこんなざまじゃそうなるよな。


  「貴様!誰のおかげで今の立場にいると思っておる!」


  「お父様のおかげです、ですがもうそんな立場に甘えません。こんな腐りきった貴族でいるくらいなら、私は立場を捨てて普通の市民になります。」


  もとより、校長先生もそのために葉月先生を誘ったんだったな。


  腐り果てた貴族よりも、ごく一般的な、普通の生活を望んだんだろう。


  「そ、そんなものはいくらでも塗り替えられる!冷残が死のうがこいつらが死のうが、わしの力で何もかも塗り替えられるのだ!そしたらその時には、貴様が望んでいた普通の市民なぞならせはせんぞ!」


  藤原のじいさんは徐々に立ち上がり、声を大きくしていく。


  「貴様が貴族じゃなくなろうがどうでもよい!わしさえ生きておれば全てわしの思い通りになるのだ!」


  「黙れ。」


  冷残の今までにないくらいの一言に、藤原のじいさんが悲鳴を上げてまた尻もちをついた。


  「妖魔の私が言うのもおかしいことだけど、なんなんだ君は?自分の家族に対してもそんなことをいうのか?」


  「そ、それがなんだ!わしは貴族なのだぞ!何をしても許されるのだ!」


  どんな状況に置かれても、性根だけは変わらずに叫ぶ藤原のじいさん。


  「ねぇ、蓮火だったかな?君はこのじいさんをどうするつもり?」


  「私は、いいえ、私たち藤原家は今回の事件をもって、三大貴族から抜けさせていただくつもりです。そして最終的な目的は、貴族制度の完全撤廃でございます。」


  藤原のじいさんの身柄さえ確保すれば、校長先生と葉月先生の計画は完遂する。ついに大詰めってところか。


  「なるほどね、だけどそれは無理かな。せっかくこんなに人が集まったんだから、血を貰っていかないと損だね。」


  余計にとは言えないけど、人が少し集まりすぎたか。これじゃみんなを逃がせねぇ…


  「それこそ無理じゃ。」


  「どういうことかな?」


  「こういう事じゃ。」


  葉月先生は左手で忍者刀を正面に、右手を祈るように構えた。


  「藤原蓮火、みんなを頼む。」


  葉月先生は校長先生にそう言い残した。


  「妖術血界(ようじゅつけっかい)天盟轟雷庭(てんめいごうらいてい)!!」


  「「葉月先生ぇぇ!!!」」


  光轟く稲妻が、葉月先生と冷残を包んでいく。


  俺と南江はいつしかと同じ光景を前にして、叫んだ。


  まただ…またこうなっちゃうのかよ…


  「丑崎さん、南江さん、今のうちに。葉月先生が作ってくれたチャンスなのです。」


  校長先生は少し急ぐように俺と南江を連れていこうとした。それと同時に、護衛の人らは倒れたみんなを運んでいった。ついでに藤原のじいさんは拘束された。


  このままじゃまた根元先生みたいに、葉月先生も…


  「魁紀君、行こう。」


  南江は俺の腕を引っ張りながら、葉月先生の方へ行こうとする。


  「今行かなきゃ、ダメだと思う。」


  南江の握る力が一層強くなる。言いたいことはわかるし、俺もそのつもりだ。ていうか痛い…


  「わかってる、わかってるから離してくれ、痛いから。」


  「あーごめんごめん。」


  南江は笑いながら俺の腕を離した。


  「すみません校長先生、倒れてるみんなをお願いします。俺らのことは心配しないでください。」


  「よろしいので…わかりました、学校で無事に帰ってくるのを待っています。」


  校長先生は俺たちに軽く頭を下げ、立ち去って行った。


  「行こうか南江。」


  「うん、行こう!」


  さてさて、勢いよく言ったのはいいけど、どうやってあの中に入るのか。


  見た感じ入る隙がない、根元先生の時と同じだ。光轟く稲妻のドーム、触ったら感電しそうだ。


  ダメだ、何も分からない…分からない…よし、分からないことがあった時は分かりそうな人に聞けばいいんだ。


  童子切を握ってっと。


  (酒呑様、妖術血界に入る方法ってなんかないか?)


  (ん?カカッ、久しぶりに声をかけてきたと思えばそんな話か。簡単なことぞ、同等の妖気をぶつければ穴が空く、さすれば入れる。)


  (簡単にいうけど、あの妖術血界と同等の妖気なんて俺にできるの?)


  (カッカッカッ!!なんだそんなに自信が無いのか魁紀よ!ならば我が代わろうか?)


  (確かにそっちのが上手く行くんだろうけど、なんだかなめられてる気がするから俺がやる。)


  (そうだ、それでよい。)


  酒呑様になめられても仕方ないかもしれないけど、なめられた上に素直に話聞くのはダメだ。


  (ありがとう、酒呑様。)


  (何を今更、早く行かんか、我は眠いのだ。)


  (あっはいお邪魔しました…)


  今更だけどなんだよ眠いって、童子切の中で寝れるもんなのか?


  まあそんなことは今はいいや。


  「南江、あの血界と同等の妖気をぶつければ穴が空くらしい、一緒にやるぞ。」


  「え、ええ!?私遠距離攻撃出来ないよ!?」


  うっそだろこいつ、夏レベルで脳筋だったの??


  「根元先生が教えてくれてただろ!頭の中で呪符の紋章を思い浮かべて、そしたら放つ。ほらやるぞ!」


  「えぇ…ええと…こう!!」


  南江はとりあえず両手を前に構えて、何かを放った。うん、なんなのかもよく分からない何かを放った。


  「なんだそれは?」


  「え?炎呪符・(しょう)だけど?」


  うっそだろ…


  炎呪符・照ってのは要するに炎の光線のようなもんだけど、今南江が出したのは明らかに黒くてピリピリ電撃が纏った弾だったんだけど…


  「よくわからんが、とりあえずもっと出力を上げろ、じゃないと穴は簡単に空けられない。」


  「わかった、もっとだね!」


  南江はもう一度構えた。これは俺も合わせてやらないと手遅れになりそうだ。


  「行くぞ南江、せーの!」


  「「炎呪符・(しょう)!!」」


  俺の通常の炎呪符・照と、南江の黒光りする炎呪符・照が血界に当たった。


  すると血界の壁が少し歪み始め、穴が空いた。


  「よし!これで入れる!」


  「待っててね、葉月先生!」


  穴が空いたところから葉月先生と冷残の姿が見えた。


  葉月先生も血界に穴が空いたことに気づいたのか、驚いた顔でこちらを見た。


  「おまんら!何しちょるんじゃ!」


  「凄いね、妖術血界に穴を空けるなんて。」


  「「葉月先生、今行きます!!」」


  俺と南江はそう叫び、血界の穴に向かって走った。

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