第九十五集 冷残 参
9月16日 11:15 鎌倉 藤原邸正面 丑崎魁紀サイド
「魔妖術・冷氷残月。」
冷残が氷の鎌から月の形をした斬撃を飛ばしてきた。
「全員散開じゃ!」
「「はい!」」
葉月先生の声に合わせてみんなが冷残を囲うように散開した。
「それじゃ冷氷残月は躱せないよ。」
冷残の言う通り、月の斬撃が追ってくるかのように曲がってきた。
これじゃ避け切れそうにねぇ!
「おまんら頭ぁ下げちょれ!忍妖術・火遁炎陽!」
葉月先生の声と共に俺たちは頭を下げると、俺たちごとを燃やす勢いで葉月先生が炎の波で斬撃を消してくれた。
「私の氷を溶かすなんてやるじゃん、君。」
「生徒も守れないようじゃこの仕事はやっていけんのでのう。」
炎が消えると、冷残は鎌で葉月先生に襲いかかっていた。だが葉月先生はすぐさま反応し、忍者刀で防いでいた。
「そんな短い刀で、どこまで防げるかな?魔妖術・氷雪崩。」
「ちぃっ!!」
冷残の鎌から氷が噴出された、葉月先生は忍者刀を手放して後ろへ飛ぶ。
この距離なら、届く!
「丑火損!」
俺は刻巡を地面に突き刺し、丑火損を放った。
地面を伝って攻撃する丑火損なら、多少離れてても届く!
「よっと。危ないね、角の君。」
「魁紀!助かった!」
丑火損は避けられたけど、葉月先生から離すこはできた。
さて、陣形的には俺らが散開したこともあって、冷残を囲うような立ち位置にいた。
なのに、まったくこれで勝てるなんて思えない。
「また囲まれてしまったね。」
余裕がありそうなのは相変わらずだ。
「みんな!今だよ!炎で一斉攻撃!!」
南江が大きな声を上げる。
盤面的に、それが最適解なのは間違いないな。
「「了解!!」」
「丑火損!!」
「対妖魔剣術・火剣!」
「忍妖術・火遁炎銃!」
「炎呪符・乱!」
「対妖魔投擲術・紫雨火!」
俺、梁、葉月先生、松田、健太の5人での炎による遠距離攻撃。
俺と梁は炎の斬撃、葉月先生、松田と健太は炎の弾による広範囲攻撃、これなら少なからず傷はおってくれるはず!
「お見事だよ、でもまだ届かないよ。」
冷残の足元から氷の柱が湧き出てきて、一気に冷残を空中に運んだ。
「そ、そう来ると、思ってました!断空の盾!」
通が冷残の行先の上空に断空の盾を張る。
「お、押しつぶします!!」
「くっ!」
断空の盾が動き出し、冷残を氷の柱ごと地面に押しつぶした。
「でかした通君!対妖魔格闘術・排山倒海!!」
南江の排山倒海が落ちてきた冷残を吹き飛ばし、屋敷の壁に衝突する。
「終いじゃ、忍妖術・火遁炎結!」
葉月先生の両手から火の糸が現れ、冷残に向かって伸びて行く。
そして、冷残は火の糸に縛られる。
「なにかな、これは。」
「説明しちゃる義理はねぇ。」
「ははっ、冷たいね。」
「もう黙れ。忍妖術・火遁炎結大炎上!」
葉月先生が手を交差させて、火の糸を引っ張ると、冷残は文字通り炎に包まれ炎上した。
「やったぁ!!先生強い!!」
「遥が吹っ飛ばしてくれたおかげじゃ、わしだけじゃと不可能じゃった。」
「南江も先生も待ってくれ、水を差すようで悪いがそういうことを話すと…」
敵をやっつけた時に「やったか!」とかもう勝った感を出すと希望を消す勢いで敵が蘇っちゃうから!
「南江!先生!冷残の妖気がまだ消えてない!」
健太の声で南江も先生ももう一度戦闘態勢を取った。ありがとう健太…
「ギリギリで冷気を出してなかったら死んでいたよ、やるね君たち。」
「しぶといやつじゃ、とっととくたばってればよかったものを。」
「君たちこそ、私に血をくれるか逃がしてくれればよかったのに。」
冷残の話し方からすると、まだまだ冷残は余裕そうだ。
「さあ、第二回戦と行こう。」
「これで本当に終いにしちゃる。」
俺も大太刀を握りしめ、戦いの続きに向けて構えた。
11:30 鎌倉 藤原邸西の森 五十鈴琴里サイド
「くそ!どんだけたたっ斬っても手応えがねぇ!」
「……」
「おまけにずっと無言とか、ナメてんのかオラァ!」
「翠…いつも以上に口が悪い…」
長い時間戦っていますが、未だに進展がありません。どうにかして突破口を見つけなければ…
「ねぇ五十鈴さん、確か丑崎君が1度この分身と戦ったんだよね?なにか聞いてないかな。」
鳴宮さんが1度こちらに下がって聞きました。
「そうですね、丑崎さんから聞いた話ですが、怒った羽澤さんが一瞬で倒したそうです。」
「全く参考にならない…」
それもそうです、羽澤さんが倒したとの話でしたら納得です。なにせ私たちのクラスでは1番の陰陽使いなんですから。
「それじゃ頑張るしかないね。」
「そうですね、こちらが先に倒れなければ、チャンスはきっと訪れます。」
今は耐えるしかありませんね。
11:30 鎌倉 藤原邸東 松永茉己サイド
「キャハ!対妖魔剣術二刀流・狂切!」
柿原くんが引き付けてくれてる間に陰陽を。
「北方さん、水間くん、中田さん、陰陽をお願い。」
「「了解!氷呪符・乱!!」」
足が止まった、あとは追い詰めるだけ。
「東海くん、柿原くんと一緒に追い詰めて!」
「ラジャー!レッツゴーだぜ狂夜!」
「キャハ!行くぜ輝憲!」
「対妖魔剣術・電光石火!」
「対妖魔剣術二刀流・速狂切!」
早業の剣技、さすがは私の班員だ。
「にゃーちゃん、仕上げるよ。」
「にゃー!」
「猫又変化・獅子王!」
「オォォォォーー!!!」
ただのライオンとは違う、ライオンキングよ!
※松永班班員はいずれのタイミングで紹介します。
12:00 鎌倉 藤原邸正面 丑崎魁紀サイド
クソ、これが冷残の本気か…
「どうしたの?さっきまでの勢いはどこに行ったのかな?」
松田、梁、健太、通は意識を失って倒れた。南江と俺は立ってるのがやっとで、葉月先生はボロボロだけど、殺気を絶やすことなく立っていた。
「クソが、なんじゃあの8本の鎌は!」
確か魔妖術・八氷鎌晶と言ってたか…ただの鎌じゃねぇ、冷残を中心に8本の氷結晶の鎌が浮いて回ってる。
こっちの動きに合わせて自分を守ったり、攻めてきたりする。
倒れた4人はみんな攻めてきた4本の鎌にやられた。1本の鎌が1人分の実力があるってことだ、だったら8本の状態で俺たち3人は…
「さあ、絶望した顔で私に血をちょうだい、ね?」