第一集 高校入学
神奈川県立任田高等学校、一見すると普通の公立高校のようだが、その実態は全くの別物だ。任田高校は、妖魔と対峙するために作られた特殊な教育機関であり、妖術を体系的に学べる数少ない場所の一つである。そして、この学校の最大の特徴は、全国で唯一「妖術科クラス」を設置している点だ。
他の同様の学校には、陰陽科や武術科といった専門分野のクラスが存在し、それらも入学するだけで相当の実力が必要とされる。しかし、任田高校の妖術科クラスは別格で、入学を許された者はすでにエリートの証とされている。そして、そのクラスに入った者たちの中でも、特に卓越した者たちが集まるのが妖術科クラスだ。
任田高校の学生たちは、表向きは普通の高校生だが、裏では妖術の修練に励み、実践的な戦いを通じて妖魔との対決に備える日々を送っている。
妖術科クラスは、各学年に一組ずつ存在し、1年生から3年生まで合わせてたったの3クラスしかない。しかし、そこに所属する生徒たちは、全員が極めて高い実力を持ち、干支十二家と肩を並べるほどの力を誇っている。
干支十二家、通称「十二家」とは、古代に存在した12匹の干支神獣に由来する名家である。これらの神獣たちは、人々を守るために、選ばれた12人の人間に力と名前を授け、妖魔を滅ぼす使命を与えた。その際、神獣にちなんだ名前を授かったことから、その血統を「干支十二家」と呼ぶようになった。十二家の子孫たちは、代々神獣の力を受け継ぎ、妖魔に対抗する強大な力を持ち続けている。
そこで俺登場、干支十二家丑崎家の一人息子、丑崎魁紀だ。
希望と夢を胸に抱き、制服の袖にそっと腕を通す。新たな一歩を踏み出すその瞬間、未知の世界へ向かう決意が湧き上がる。さあ、いざ、高校へ向かおう。これから始まる日々に、どんな出会いと試練が待ち受けているのか—その全てを楽しみにして。
4月1日 8:00 任田駅前
「君、少し話を聞かせてもらってもいいかな。」
職質された…嘘でしょ、そんなに怪しいかこの格好。
「いえ、あの、俺こういうものです…」
学生証を見せた、さすがにこれで信じてもらえるだろ。
「なんと!大変失礼致しました!」
警察は驚きながらも、丑崎に頭を下げて謝罪をした。
学校行く最中でこれとか、もう終わってるでしょ…
8:05 通学路
「なにあの格好、不審者?」
「初日であんな格好は勇気あるね。」
「あとなにあれ、剣?大きすぎない?」
周りの声が俺に刺さる。おいおいたかがパーカーだろ、角隠すためにフード被ったくらいでそんなに不審者扱いするかよ、俺がそんなやつ見たら絶対不審者扱いするけどな。
てか武器とか別にいいじゃんなんでも、逆にあれ見てくれよあれ、ちょっと前にいる髪の毛がオレンジのあの子とか中華包丁2本持ってんぞ、なに捌くんだよあれ。
まだ登校中だってのにもう疲れたわ…
8:15 任田高校 校門前
駅から歩いて20分程で学校に着いた。すげえな、めっちゃデカいじゃん。
建物がかなり多く、高さもある。奥に見えるあれは体育館とか剣道場だと思うけど普通そんなに大きくないだろってレベルで大きい、てか3階まであるじゃんあれ。
8:20 1年5組教室前
1年5組、見つけた。入るの怖いなぁ、またなんか言われそうで入りたくねぇ。てか早く来すぎたかもしれない、どうしよ、まあいいや、とりあえず入ろ。
ドアを開けて中に入ると、6人しかいなかった。
ドアを開けた音で全員の視線が俺に集まったが、すぐに視線が元に戻っていった。よかった、またなんか言われたらどうしようかと思った。
黒板に座席表が貼ってあったから、それに従って自分の席に座った。席は壁側だ、やったね、これで授業中に寝れるってもんだ。
席には色んな書類が置いてあった、先生が来るまで見てろってことか。なになに、任田高校について、妖術の基本についてなどなど。うん、妖術の事しか書かれていない。
「あら、まさかこんな所であなたに出会うとはね、吐き気がするわ。」
声がした教室の入口の方を見ると、お嬢様っぽい人が入ってきた。短めのショートでオレンジ色の髪の毛、小柄だけど態度が大きいのはもう伝わった。制服は普通の制服だけど着こなしが完全にお嬢様のそれ。てか誰?
「あなた、私のことを知らないのかしら?って、あなたのことよ!あ!な!た!」
「えっ、あ、俺?」
吐き気がするとか言われる筋合いはないから無視していたら、どうやら俺に声をかけていたらしい。
「そうよ、あなた以外に誰がいるっていうの?」
「ちゃんと見ろよ、他に6人いるでしょ。」
「あっそ、でも見て吐き気がするのはあなただけよ。」
「失礼なやつだなお前、初対面の人に対していきなり見て吐き気がするってどうかと思うぞ。」
てか本当にこいつ誰だ、マジでわからないんだけど。
「するに決まってるでしょ、角生えてる上にその歪な形をした童子切を持ってる時点で吐き気がしない方がおかしいわ。」
「ひっどいことベラベラ言ってくれるなあ、でなんで俺のこと知ってんだよ。」
「そんなの名前を見ればわかるわよ、黒板に座席表があるでしょ。あと、あんたの事なんて十二家の中で知らない人間はいないわ。」
あぁ、そんなもんあ貼ってたなぁ。あとやっぱり十二家のやつか、どこの家のもんだろ。
「その言い方ならお前も十二家のもんだろ、同じ十二家なら仲良くやろうぜ。」
俺は全く仲良くするつもりはないんだけどね、だいたいこういうタイプのお嬢様は大の苦手だ、正直もう関わりたくない。
「よくわかったわね、褒めてあげるわ。ただあんたなんかと仲良くするつもりは無いわ。」
あーはいはい、どうもどうも。ってかあれ?あのオレンジ色の髪、よく見たら所々黒い所もあるけど、それよりもあの中華包丁…
「聞いておきなさい、私の名前は鬼寅真由、十二家鬼寅家の…」
「おいおい、さっき見かけた中華包丁2本持ってたやつってお前だったのかよ!!」
思い出し笑いでつい爆笑してしまった。
「なにがおかしいのよ!人の話は最後まで聞きなさいよ!」
「いいや中華包丁か、こんなお嬢様が中華包丁って!!」
こんなに大爆笑したのは久しぶりだ、人は見かけで判断してはいけない、自分の常識で他人を測ってはならないとは言うけど、これはさすがに笑ってしまう。
「うぅぅ…ううぅ…」
とか言ってるとお嬢様が泣きそうになった、やばい、流石にやりすぎた、謝らなきゃ。
「ここで殺す!」
お嬢様は殺意の波動満載の眼差しで俺を睨んできた。
「待て待て待て待て!!悪かったって!初めて見るからつい笑っちゃったけど許して!」
「問答無用!!猛虎!!!」
2本の中華包丁を腰から抜き、走る虎が繰り出された。
俺の席は壁側、このまま避けたらいきなり校舎がぶっ壊れて学校生活どころじゃない。だからと言って受けるのも痛そうだし、仕方ない。
「や、やめて、ください!!」
背中の大太刀に手をかけた所、目の前に盾を構えた男が立っていた。
「にゅ、入学当日な、なんですから…みんな仲良くやりましょうよ…な、なんで入学当日にこ、こんなことするんですか…」
「そこのお嬢様に聞いてくれ。」
「そこの妖魔に聞きなさい。」
「俺は妖魔じゃねぇ。」
「妖魔の血が混ざってるんでしょ?なら変わらないわよ。」
変わるぞ、妖魔とこんなに意思疎通出来ると思うなよ?
「も、もう…その辺で…」
男は声と足を震わせながらも、俺とお嬢様を止めようと間に入った。
「足震えてるぞ、大丈夫か?」
「だ、大丈夫…です…」
大丈夫じゃないのはよくわかった。
「ありがとな、助けてくれて。」
「い、いえ、大丈夫です…だからもう、争わないでください…」
「もとより争うつもりなんてないって、心配かけた。それよりも自己紹介が遅れたな、俺は丑崎魁紀、よろしくね。」
助けてくれたついでに名乗っておこう、今後同じクラスで過ごすしね。
「ぼ、僕は細矢通です、こちらこそ、よろしくお願いします…」
「細矢?細矢って確か…」
お嬢様がなにやら疑問に思ってるようだが、気にする必要は無いか。
「さっきのは凄かったね、よくあの攻撃を防いだな、結構鍛えてたりするの?」
「い、いえ、大したことはしてません。こ、この盾のおかげです。」
「嘘よ、そんな盾じゃ私の猛虎を止められるはずが無いわ。」
お嬢様ご機嫌ななめだなぁ。ただ言ってることは間違いない、十二家の技を受けてなんともないんだからね。
「って言われましても、ぼ、僕は特になにも…」
「あっそう、まあいいわ。」
やっと落ち着いたか、もう関わりたくないし、先生来るまで自分の席で寝てよ。
「あと丑崎、今回はこれで勘弁してあげる、感謝しなさい。その代わり、もう二度と私に関わらないでちょうだい、いいわね?」
めんどくせぇ…関わりたくねぇのはこっちだっての。
「はーい、わかりましたー。」
「次同じようなことがあったら今度こそ殺す。」
こっわ、女子高生の発言とは思えねぇ。
なんやかんやあってお嬢様は落ち着いてくれた、細矢君除いて他の5人の生徒はだいぶ引いてたっぽいがまあ気にしないでおこう。
そういえばあのお嬢様鬼寅って言ってたな、やっぱりか。鬼寅のおやっさんにはお世話になってるけどこいつにはお世話になりたくねぇな。まあいいや、もう関わることないし。
8:40 1年5組教室前廊下
「というわけでお前たち3人、何があったか聞かせてもらおうか。」
あの後担任であろう男の人が来て、3人揃って怒られることになった。
「入学初日だから規則は知らないだろうけど、いきなり教室でやり合い始めるとはいい度胸だな、丑崎さん、鬼寅さん、細矢さん。」
「そこに妖魔がいたのでやっつけようとしただけです。」
「だから俺は人間だ。」
「も、もうやめましょうよ、せ、先生の前なんですから…」
大体これに関しては俺は悪くない、いや笑ったのは悪いけど、殴られる程ではないじゃん?女子ってわからんわ。
「今年も面倒な生徒達が入ってきたなぁ…いいかお前ら、細矢さんはともかく、丑崎さんと鬼寅さん、お前らは十二家のもんなんだから、少しはみんなの模範になるように学生生活を過ごせ。」
模範って言われてもなぁ、そういう教育受けてないからなぁ…
「よし、説教は終わりだ、教室に戻れ、ホームルームを始めるぞ。」
こうして、最悪な形で高校生活を始めることになった。マジで、なんで鬼寅突っかかってきたの、俺そんなに嫌われてんの?
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