おじいさんのいたずらしおり
カンダおじいさんは、日の当たる縁側で、ゆったりとしたいすに座って本を読むのが、一番の幸せでした。少し窓を開けておくと、外の庭から、さわやかな風がふきこんできて、よりいっそうお話の世界を楽しむことができるのです。でも、カンダおじいさんは老眼鏡をつけて、ゆっくりゆっくり本を読むので、いつもしおりを本にはさんでいるのでした。でも、このしおりがくせものでした。
「さぁて、今日はここらへんでやめておくかのぉ」
日がかげってきたあたりで、カンダおじいさんはゆっくりとのびをしました。老眼鏡を外して、それからふぅっと小さく息をはきます。
「それじゃあそろそろしおりをさしておこうかのぉ」
分厚い本に、カンダおじいさんはテントウムシの絵が描かれた、かわいらしいしおりをはさみこみました。
その夜です。カンダおじいさんが寝静まったころ、先ほどの本のすきまから、スススーッとしおりが抜け出てきたのです。あのテントウムシのしおりでした。
「ふぅー、まったく、カンダのじいさん、読むの遅いから、全然遊べないじゃないか。それに本のすきまって、重くてせまくて大変なんだよなぁ」
ようやく本のページから抜け出すと、しおりはポンッとけむりにつつまれて、本当のテントウムシへとすがたを変えたのです。
「ふぅっ、やっぱりこのすがただと楽だなぁ。さ、おいらも外の世界を楽しんでくるとするか」
テントウムシは、窓のすきまからするりと庭にぬけだして、草木のにおいをからだじゅうに受けて飛び回るのでした。
「あぁ、楽しかった。さて、それじゃあそろそろ戻らないとだな。えーっと、カンダのじいさんが読んでたのは……」
遊びまわってつかれたのか、ようやくテントウムシは縁側の、本のそばへと飛んで戻ってきました。カンダおじいさんがはさみこんでくれたページを、その細い足で探します。
「どこだったっけ……。うーん、ここらへんだったかなぁ、いや、それとも、ここかなぁ……」
においをたよりに、自分がはさまっていたページを探すテントウムシですが、小さなからだなので、どうにも見つけられません。細い足をページのあいだに入れこみ、なんとかにおいをかぎながら、ようやくそれらしいページを見つけました。
「あぁ、ここだ、ここだ。よかった、見つかったぞ。さ、あとは……」
細い足をグイーッとページのあいだに差し入れると、ポンッとけむりにつつまれて、テントウムシは元のしおりへと戻ったのです。
「あぁ、よかった。それにしてもつかれたなぁ、おやすみなさい」
しおりに戻ったテントウムシは、本のページのあいだでぐっすり眠るのでした。
「……ふぅむ、ここは確か読んだ気がするんじゃがなぁ。もう年かのぅ」
カンダおじいさんは、頭をぽりぽりかきながら、小さくため息をつきました。それを聞いて、テントウムシのしおりはぎくりとわずかにふるえます。
――しまった、おいらもしかして、元のページより、もっと前に戻っちゃったんじゃないだろうか――
テントウムシのしおりは、いたずらがばれたときのように、ドキドキしながらカンダおじいさんを見あげましたが、カンダおじいさんは気にした様子もなく、本を読み進めていきました。
――ふぅ、危なかった。でも、カンダのじいさんに悪いことしちまったなぁ。とうぶん外に遊びに行くのはやめておくかな――
カンダおじいさんの一番の幸せは、日の当たる縁側で、ゆったりとしたいすに座って本を読むことでした。ですが、ときどき前に読んだことがあるページに戻ってしまうことがありました。そんなときは、決まっていたずらっ子のしおりが、びくっとゆれてふるえるのでした。