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冬童話2021 『さがしもの』

おじいさんのいたずらしおり

作者: 小畠愛子

 カンダおじいさんは、日の当たる縁側で、ゆったりとしたいすに座って本を読むのが、一番の幸せでした。少し窓を開けておくと、外の庭から、さわやかな風がふきこんできて、よりいっそうお話の世界を楽しむことができるのです。でも、カンダおじいさんは老眼鏡をつけて、ゆっくりゆっくり本を読むので、いつもしおりを本にはさんでいるのでした。でも、このしおりがくせものでした。


「さぁて、今日はここらへんでやめておくかのぉ」


 日がかげってきたあたりで、カンダおじいさんはゆっくりとのびをしました。老眼鏡を外して、それからふぅっと小さく息をはきます。


「それじゃあそろそろしおりをさしておこうかのぉ」


 分厚い本に、カンダおじいさんはテントウムシの絵が描かれた、かわいらしいしおりをはさみこみました。




 その夜です。カンダおじいさんが寝静まったころ、先ほどの本のすきまから、スススーッとしおりが抜け出てきたのです。あのテントウムシのしおりでした。


「ふぅー、まったく、カンダのじいさん、読むの遅いから、全然遊べないじゃないか。それに本のすきまって、重くてせまくて大変なんだよなぁ」


 ようやく本のページから抜け出すと、しおりはポンッとけむりにつつまれて、本当のテントウムシへとすがたを変えたのです。


「ふぅっ、やっぱりこのすがただと楽だなぁ。さ、おいらも外の世界を楽しんでくるとするか」


 テントウムシは、窓のすきまからするりと庭にぬけだして、草木のにおいをからだじゅうに受けて飛び回るのでした。




「あぁ、楽しかった。さて、それじゃあそろそろ戻らないとだな。えーっと、カンダのじいさんが読んでたのは……」


 遊びまわってつかれたのか、ようやくテントウムシは縁側の、本のそばへと飛んで戻ってきました。カンダおじいさんがはさみこんでくれたページを、その細い足で探します。


「どこだったっけ……。うーん、ここらへんだったかなぁ、いや、それとも、ここかなぁ……」


 においをたよりに、自分がはさまっていたページを探すテントウムシですが、小さなからだなので、どうにも見つけられません。細い足をページのあいだに入れこみ、なんとかにおいをかぎながら、ようやくそれらしいページを見つけました。


「あぁ、ここだ、ここだ。よかった、見つかったぞ。さ、あとは……」


 細い足をグイーッとページのあいだに差し入れると、ポンッとけむりにつつまれて、テントウムシは元のしおりへと戻ったのです。


「あぁ、よかった。それにしてもつかれたなぁ、おやすみなさい」


 しおりに戻ったテントウムシは、本のページのあいだでぐっすり眠るのでした。




「……ふぅむ、ここは確か読んだ気がするんじゃがなぁ。もう年かのぅ」


 カンダおじいさんは、頭をぽりぽりかきながら、小さくため息をつきました。それを聞いて、テントウムシのしおりはぎくりとわずかにふるえます。


 ――しまった、おいらもしかして、元のページより、もっと前に戻っちゃったんじゃないだろうか――


 テントウムシのしおりは、いたずらがばれたときのように、ドキドキしながらカンダおじいさんを見あげましたが、カンダおじいさんは気にした様子もなく、本を読み進めていきました。


 ――ふぅ、危なかった。でも、カンダのじいさんに悪いことしちまったなぁ。とうぶん外に遊びに行くのはやめておくかな――




 カンダおじいさんの一番の幸せは、日の当たる縁側で、ゆったりとしたいすに座って本を読むことでした。ですが、ときどき前に読んだことがあるページに戻ってしまうことがありました。そんなときは、決まっていたずらっ子のしおりが、びくっとゆれてふるえるのでした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 文字通り、羽を伸ばしに行くテントウムシの栞が可愛らしいですね。 栞やブックマーカー、そして紙の本を用いた読書の時間が愛おしくなってきます。 [一言] デザイン性の高い栞も素敵ですが、新刊書…
[良い点] 可愛らしいお話にほっこりしました。 栞、おじいさんのステキなパートナーですね。 不思議で優しい世界を描き上げるのが、本当に上手だなぁ、と感心してしまいます。 私の頭の中では、しっかり『絵…
[良い点] とにかくかわいい!テントウムシ君もおじいさんも、かわいい! [一言] 本屋の栞、今でもありますよ。 図書券のキャンペーン季節には、柴犬くんのがあるし、お城や単なる広告や、本を買ったら必ず貰…
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