第7話【誰が為に歌う】
ニアN「私は私のために歌ってる、それは歌えなくなった今でもそれは変わらない想いだ…でも少しモヤモヤした何かが私を取り囲む」
ラック「いらっしゃい!あ、ニア!」
ニア「ホント変わったわね、いい笑顔よラック」
ラック「ありがとう」
ディー「で、何にするんだ、ニア」
ニア「あら居たの?」
ディー「居ちゃ悪いか」
ニア「冗談よ、ジンライム頂戴」
ディー「かしこまりました」
ルシア「うへー!ひへー!やっべやべ」
ラック「ルシア!?どうしたの?びちょびちょだけど」
ルシア「いや急に雨よ雨!もうザーザーでやべーのなんのって!ディー!タオル」
ディー「はいよ、ジンライム」
ニア「ありがとう」
ルシア「ディー、タ!オ!ル!」
ディー「……ふんっ!」
ルシア「ぶへっ!いきなし投げんな!こちとらお客様だぞ!」
ディー「こちとら店主様だぞ?嫌いな客追い出すのもできるぞ?」
ルシア「嫌いなの?」
ディー「そーでもねーよ」
ルシア「じゃあ好き?」
ディー「……」
ルシア「ねぇ、どうなのさ!!」
ディー「はいはい好き好き」
ルシア「適当だな、おい!」
ラック「あはは!相変わらず仲良いね、ルシア、はい」
ルシア「おおミルク!サンキュー、ラック!グッジョブ!」
ディー「本当に変わったな、ラック…いや、戻ったのか」
ラック「変わったで合ってるよディー、感情は戻ったけど、もう心を感じ取れたり聴こえたりしないよ」
ルシア「心を感じ取る?」
ニア「それって相手が何考えてるかわかるってこと?」
ラック「うん」
ルシア「エスパーかよ」
ニア「心を読まれるのは怖いわね」
ディー「でも、もうないんだろ、ラック」
ラック「うん、みんなが何考えてるかわかんないよ」
ディー「普通の男の子になったって訳だな」
ラック「どうなんだろうね?」
ニア「ラック、ピアノ弾いてくれる?」
ラック「いいよ、何がいい?」
ニア「外は雨よ、こんな時に聴きたいのは?」
ラック「そうだね、あ」
ルシア「雨に唄えば!だろ?」
ニア「あらルシア、知ってるの?」
ルシア「有名どころはおさえてるぜ!」
ディー「ミーハーだもんな、お前」
ルシア「うるへー」
ディー「ラック、準備いいか」
ラック「いいよ」
ニアN「ラックがピアノを弾き始める、雨に唄えば…雨を題材にしてるのに陽気な曲…思わず踊り出しそうなほどの…以前の彼とは全く違う…心のある音だった」
ルシア「いやぁ!いいね!最高!」
ラック「ふぅ」
ディー「お疲れ」
ラック「どうだった?ニア」
ニア「最高よ、楽しい雨に唄えばだったわ、ラック、貴方のピアノ素敵よ、もう心無い酷い音なんて言えないわ、ごめんね、あの時の私も私よね、歌えないのに弾いてくれたピアニストに文句垂れて、歌ってからモノ言えって感じだったわよね」
ラック「うーん、そうだね」
ニア「え?う…ご、ごめんなさい」
ラック「冗談だよニア、気にしてないよ」
ニア「…んもぅ」
ラック「はは、ねぇ、ニアまだ歌えそうにない?」
ニア「うん、歌おうとすると声が出ないの」
ラック「そっか、ニア、一言いい?」
ニア「ええ、何?」
ラック「音楽は魔法だよ」
ニア「…そうね」
ラック「思い出して…初めて音楽の魔法にかかった時を」
ニア「初めて…音楽の魔法に…」
ディー「音楽が魔法ねぇ…俺もそう感じた事があるんかねぇ…」
ルシア「アンタはなさそうだなぁ、ファンタジックな事は皆無って感じだし」
ディー「うるせーよ」
ルシア「俺ちゃんはあるぜ!それはニア!初めて聴いた時ビビッと稲妻が走ったさ!もう恋の魔法って感じ?ニア!愛してるぜ!」
ニア「ルシア、うるさい」
ルシア「はい、ごめんなさい!」
ニア「…子守唄…」
ディー「子守唄?」
ニア「ええ、子守唄…そう、子守唄よ、私が小さい頃、寝れなかった時にママが歌ってくれたわ、ママが歌うと必ず寝ちゃうから、ママの歌は魔法だなんて言ってた」
ディー「なるほど」
ルシア「女神を生み出したママン…創造神!!」
ラック「ルシアうるさい」
ルシア「うい」
ラック「ママがニアの為に歌ってた歌、それがニアにかかる魔法、ねぇ…ニア」
ニア「何?」
ラック「ニアは誰の為に歌ってた?自分の為?本当にそう?」
ニア「自分の為よ、私が歌う事で皆んなが私を崇める、賞賛するから、それに浸る為に私は…」
ディーN「ラックが突然鳴らした一音が店内に響き渡る…素人の俺でも分かるくらい色々な感情が乗った音だった」
ラック「ある日、神様は自分の可愛がっていた天使を天界から冥界へ突き落としました…」
ニア「ルシファーのことね、傲慢で堕天した天使」
ラック「うん、きっと、それと同じ…ニア…初めて歌った時のこと覚えてる…」
ニア「……そう、そうね…初めて歌ったのはママに聴いて欲しかった、いつも歌ってくれるから私もって…それで上手いね…って…褒められて…嬉しくて…歌って楽しいなって…もっと…上手くって…あれ?私なんで…」
ラック「ニア、涙を流したって事は…わかったんだね…」
ニア「…ええ、私は私の為に歌ってる…傲慢ね…きっとママが怒ったのかしらね、反省しなさいって…私は歌が楽しくて、それで誰かを喜ばせたくて、それを見るのが好きで、それが私の喜び、私の為になってたのに、私が歌う事で皆んなの心を動かせる、それを私は私の為に歌ってる、勝手に喜んだり悲しんだりしなさい…って馬鹿馬鹿しいわね」
ラック「うん、そうだね、でも、もう大丈夫でしょ?」
ニア「うん」
ラック「じゃあ、いくよ、歌ってニア」
ルシア「おいおい、いきなり!」
ニア「平気よ」
ルシア「でも」
ルシアN「俺が話そうとした瞬間、ニアは人差し指で俺の口を押さえた、その次に言った一言と表情は永遠に忘れないだろう」
ニア「Listen to my song」
ルシア「……か、かっこいい…惚れそう…」
ニア「惚れてる…でしょ?」
ルシア「…お、おう」
ニア「いつでもいいわよ、ラック」
ラック「うん、ご要望通りに」
ディー「なにをやるんだ?打ち合わせも何も」
ラック「問題ないよ」
ニア「ええ」
ディーN「そう言うとラックはピアノを弾いた、すぐにわかった、Listen to my songだ…歌えるのか?そんな心配はすぐに吹き飛んだ…綺麗な澄んだ声、天使の歌声、女神の歌声、色々と形容される彼女の声が俺達に響く」
ラックN「そう、それだよニア…音楽は楽しいんだよ、それを聴いてもらった人にも楽しんで喜んで貰えたら幸せでしょ?実はね、僕、ニアの曲嫌いだったんだ、支配されそうで…でも今は好き、はっきり言えるよ、だからもっと楽しもう」
ルシアN「知ってるけど知らないニアがそこに居た、心奪われてからずっと好きだったニア、私の歌を聴け!そんなんじゃない、私の歌を聴いて…そう健気な少女が言ってるようだった…初めて人間のニアの歌を聴いた気がした…」
ニア「ふぅ…」
ルシア「……」
ディー「……」
ニア「あれ?2人ともどうしたの?」
ルシア「はっ!?余韻に浸って声が出なかった…ブラーボ!ニア!感動した!」
ディー「同じくだ、ありがとうニア」
ニア「こちらこそありがとう」
ラック「ニア!」
ニア「ラック!ありがと!」
ルシア「ハイタッチ…羨ましい」
ニア「する?」
ルシア「お、おう」
ニア「はい、ふふ」
ラック「楽しかったね!」
ニア「うん!」
ルシア「か、可愛い…に、ニア!!」
ニア「な、何?」
ルシア「俺と付き合ってくれ!!」
ニア「……か、考えとくわ」
ラック「え?」
ディー「あ?」
ルシア「マジで?」
ニア「ええ」
ルシア「よっしゃあ!!」
ラック「付き合えてないのに…ふふ、やっぱりルシアは面白いや」
ディー「あの馬鹿になんか弾いてやれ、踊り出すぞ」
ラック「結婚ソングでも弾いた方がいい?どうするニア」
ニア「気が早いわよ」
ラック「だね」
ディー「ニアが歌いたい曲メドレーでもするか?」
ニア「それいいわね!ラック」
ラック「仰せのままに、お姫様」
ニアN「私は歌いに歌った、喜怒哀楽が溢れる、そんな曲達を…音楽は楽しい…そんな当たり前で分かりきった事を今更感じてる、私は天使でも女神でもない、崇める必要なんてない、ただ私の歌を聴いて欲しい、私の音楽の楽しさを聴いて欲しい、それで喜んでくれたら嬉しいな…私の歌は私の為で誰かの為に…」