6話【見えぬから見えるもの】
ニアN「見えざる物を見よ、そんなの無理に決まってるじゃない、人間なんて自分の目に入る物しか見えない、そんな当たり前な答えを私は持っていた、でもそれは気付いてないだけだった」
ルシア「いらっしゃーい」
ニア「あれ?ルシア、ディーは?」
ルシア「買い出し、どーせ暇だからって店番させられてるって訳、客来たら適当によろしく、その内ラックが起きてくるから安心しろ…って感じでこーなの、酷くない?」
ニア「信用されてるんじゃない?」
ルシア「それはそれで嬉しいけど俺ちゃん片腕よ?」
ニア「じゃあジントニックでも貰おうかしら」
ルシア「聞いてた?俺ちゃん片腕」
ニア「ええ、お願いね」
ルシア「…ぐっ…可愛い顔して…意地悪…」
ニア「ふふ」
ルシア「…すーはー…ラァアアック!!」
ニア「びっ…くりしたぁ」
ルシア「わりわり」
ラック「呼んだ?」
ルシア「おう」
ラック「なんでカウンター内に居るの?」
ルシア「ディー買い出し、俺ちゃん店番、オーケー?」
ラック「オーケー」
ルシア「俺ちゃん、客席、戻る、お前働く、オーケー?」
ラック「オーケー」
ルシア「よし、えーっとニアにはジントニック、俺ちゃんはミルクな」
ラック「了解…はい」
ニア「ありがとう」
ルシア「サンキュー、ニア、乾杯」
ニア「ええ、乾杯」
ラックN「扉が開いた、店の扉についたベルが鳴る、今思うと、それは僕にとっての救いの鐘だったのかもしれない」
ラック「いらっしゃい」
ルシア「あら?新顔、めっずらし」
ニア「そうなの?」
ルシア「お姉さん、いらっしゃい、俺ちゃん、ここの常連、ルシアってんだ」
キャシー「ああ、よろしく…ふーん、アンタも大変だったんだね」
ルシア「あん?何がだ?」
キャシー「まぁいいや、席までエスコートしてくれるかい?目が見えないんだ」
ルシア「あ、ああ!悪ぃ!気づかんかった…さっ、お手を、お姫様」
キャシー「つまらないよ、でもよろしく」
ルシア「勿論」
キャシー「ふぅ…ありがとう」
ラック「何にします?」
ニア「ラック、それじゃわからないわよ、えっと…」
キャシー「キャシーよ」
ニア「キャシーね、ありがとう、私はニア、ここは BAR、Losers、ドリンクは大抵の物ならあるわよ」
キャシー「親切にどうも、じゃあブラックルシアンでもくれるかい?」
ラック「はい」
キャシー「ありがとうニア、助かったよ」
ニア「礼なんていいわよ、ところで目の見えない貴方がどうしてここへ?」
キャシー「ちょっとね、感じたものがあってね」
ニア「感じたもの?」
キャシー「ええ、ニアって言ったね……えっと、もしかしてアンタ、ニア・カリオペイアかい?」
ニア「ええ、そうだけど…なんでわかったの?」
キャシー「ちょっと見させてもらったよ、綺麗な声で歌ってた、紛れもなく誰もが知ってる歌姫様だったよ、私ね、目が見えなくなってから見えるんだ、霊視ってやつ?」
ルシア「霊!?オバケ?ぎゃあ怖ーい!」
ニア「…ルシア、セクハラで訴えてもいいのよ?」
ルシア「…ご、ごめんなさい、つい出来心で…」
ニア「次はないわよ」
ルシア「うい…」
キャシー「はは!中々面白いじゃないかアンタ、まぁアンタは色々あったけど、もう平気だよ、また飛べるようなったんだろ?」
ルシア「おお!凄え、やっぱり、わかるんだな、見せてやりてぇな、俺のフライトテク!あー目が見えりゃなぁ!」
ニア「こら!」
ルシア「あ、わりぃ…」
キャシー「いいんだよ、ルシアだっけ?似たようなもんだろ、アンタも私も、ねぇ…」
る
ルシア「お、おお…」
キャシー「少し昔話をするよ、私のこの目は奪われたのよ、昔の男に、それは酷い暴力を振るわれたさ、でも嫌いになれなかった…だけど日に日にエスカレートしていった、で、ある日突然目が見えなくなった…男は障害抱えた女なんて面倒くさいって私をゴミのように簡単に捨てたよ、医者はストレスによる、一過性の失明と言ってるけど、この状態でもう半年も経つんだ」
ルシア「…お、おう」
ニア「……」
ルシア「なんか、わりぃ…」
キャシー「いいさ、昔のことさ、過ぎたことを気にしてたら前に進めない、アンタいいこと言うね」
ルシア「あ!勝手に俺のこと見たなぁ!」
キャシー「あはっ!悪い悪い、許せ!」
ルシア「しゃあねーなぁ」
き
キャシー「ニア」
ニア「何?」
キャシー「一つだけ言っておく、子供の頃のアンタ、楽しそうに歌ってたよ」
ニア「???」
キャシー「まぁそんだけさ」
ニア「そう?」
キャシー「さて、本題はそこの坊やさ」
ラック「僕?」
キャシー「ああ、ピアノの前に座ってみな」
ラック「…??座ったけど何?」
キャシー「お前が切り離したものがそこにある、見えないんじゃない、見ようとしてないだけだ、聞こえないんじゃない聞かないだけだ、感じないんじゃない、感じないようにしただけだ」
ラック「………そんなの言われたってわからないです」
ルシア「これってもしかしてラックに感情復活チャンス?」
キャシー「もしかしてじゃないよ、坊やが気づけば戻るはずだよ」
ルシア「マジでか!おい、ラック!この姉さん言うこと素直に聞いてみろ!」
ラック「そんなこと言われても」
ルシア「お前、ジョンさんとイザベラさんの時、なんで泣いた?何か感じたんだろ?」
ラック「わかんない」
キャシー「わかんないんじゃなくわからないようにしてるんだよ」
ラック「そんなのわからない」
ルシア「ラック!また笑えるようなるんだろ?俺ちゃんにニッコリスマイルでいらっしゃい言えるようなんだろ!なったらウイスキーのボトル空けてやる!!」
ニア「ルシア飲めないのに無茶言わないでよ!」
キャシー「はっは!バカの強がり方は面白いね」
ルシア「俺はバカでいいからラックがちゃんと笑えるようなればいい、姐さん、よろしくお願いします」
キャシー「見えなくてもわかるよ、ルシア、顔上げな、ラック次第だけど手解きはさせてもらうよ」
ルシア「あざす!」
キャシー「ラック、目を閉じて」
ラック「はい」
キャシー「見える、聞こえる、感じれる、そう思うんだ、置いてきたところに戻ってやるんだ、ただいま、そう言って、目を開けな」
ラック「見える…聞こえる…感じれる……ただいま…」
ラック(裏)「おかえり」
ラック「!?」
ラック(裏)「驚きすぎだって!」
ラック「…僕?」
ラック(裏)「そう僕、君は僕、僕は君、君が置いてった君だよ、ピアノを弾いてみて」
ラック「うん……」
ラック(裏)「つまらなそうだね」
ラック「わかんないよ、なんも感じないし」
ラック(裏)「そんなことないよ、君は知ってる筈だよ、音が喜ばしくて、怒りたいし悲しいこともあるけど楽しいってことに、僕と一緒に一音ずつ鳴らしていって」
ラックN
「もう1人の僕と指を重ねてピアノを鳴らしてく、もう1人の僕は音を鳴らす度に喜んだり悲しんだりした、それに釣られて僕もそうなってってた」
ニア「ラックが笑ってる?」
ルシア「今度は泣いた?」
ニア「どうなってるの?」
キャシー「もう1人の自分と対話してるよ、自分と、置いてきた自分とね、面白い音色だよ、対話が終わって一つに
なった時、彼は心から笑えるようなるよ」
ルシア「なるほど」
ラック「ははっ!」
ラック(裏)「ね?楽しいでしょ?」
ラック「うん!」
ラック(裏)「もう一人で平気?」
ラック「…多分」
ラック(裏)「ふふ、僕らしいや、じゃあそろそろ」
ラック「うん…」
ルシア「音が止んだ」
キャシー「終わったみたいだね」
ニア「どうなったの?」
ラック「…おかえり」
キャシー「やぁ、気分はどうだい?」
ラック「うん、とってもいいよ、ありがとう!」
ルシア「ラックがフリじゃなく笑ってる」
キャシー「見えないけど良い顔してるね」
ラック「ふふ、ねぇ、お礼に一曲贈らせてよ、キャシーさん」
キャシー「お、そりゃありがたい」
ラック「ありがとう、一つお願いがあるんだけど、目を閉じて聴いてもらえる?」
キャシー「ああ、構わないけど、開いても閉じても見えないしな」
ラック「それじゃいくよ」
ニアN「これが本来の彼なんだと思い知らされる演奏だった、色んな感情が穏やかなメロディーに乗って飛んでくる、心が震えた…少し、いや大分悔しいと思った…また歌いたい、私も誰かの心を震わせる歌を届けたいと思ってしまった」
ラック「ふぅ…」
キャシー「良い演奏だったよ、思わず涙が出たよ、あ、目はもう開けて良いよな」
ラック「うん、開けて良いよ」
キャシー「……はは…お前は魔法使いか?」
ラック「ううん、ただのピアニストだよ、でも音楽は魔法みたいなパワーがあるって思ってるの思い出したんだ」
キャシー「…ほんとっ…だな…」
ルシア「アンタもしかして…」
ニア「え?嘘…」
キャシー「ああ、見える…見えるよ……凄いな…音楽って…深い闇をかき消してくれた…ありがとう…」
ラック「…うん、こちらこそ…ありがとう…」
ニアN「音楽は魔法だ、誰かが言ってた気がする、確かに私の歌にもそんなパワーがあったのかもしれない、ラックの演奏は奇跡を起こした、目の見えない女性の目を見えるようにしたんだ、近い将来、世界がほっとかないだろう、そんな彼は今日も普通に働いてる、このLosersで」
ルシア「よーっす!俺ちゃん登場!」
ラック「いらっしゃい!」
ルシア「おー!ラック!ニッコリスマイルで俺ちゃんハッピーだ!サンキュー!」
ラック「ありがとう」