4話 裏と表
ディーN「人間には裏と表がある、このコインと一緒だ、気まぐれにトスをして表か裏か…どちらかの面を見せる…嘘と真実、本音と建前…人間はそれを使い分ける、そんなもんだ、人間なんて、見えなきゃ良い面もあるって事だ」
ラックN「だから僕は願ってしまったんだと思う…見えてしまったからこそ」
ディー「よぉ、おはよう」
ラック「おはよう」
ディー「気分は?」
ラック「わからない」
ディー「そうか、じゃあ行くか」
ラック「うん」
ラックN「ディーは僕を両親の墓の前まで連れて来た…あの日、僕はこの男に殺される筈だったんだ」
ラック「ねぇ、ディー…あの時、どうして僕をやらなかったの?」
ディー「さぁな…ただの気まぐれ…いや、少し話すか…」
ディーN「それは6年前、昔仕事を頼まれた女に誘われた演奏会から始まった」
リパル「どうかしら?私のダッキーちゃんは!」
ディー「はぁ…まぁ上手かったんじゃないですかね、あの歳の割には」
リパル「そうなのよ!うちの子は天才なんざます!おほほ!」
ディー「じゃあ帰ります、貴方の息子さんの演奏も終わったので」
リパル「ダメよ、本題はここからなんざます」
ディー「はぁ…」
リパル「彼の演奏を聴いて」
ディー「はい」
ディーN
「リパル婦人の息子ダッキーの後に出てきた少年、それがラック・フィーライングを初めて目にした時だった、彼の演奏は感情が溢れていて、ダッキーとは比べようもなかった…」
リパル「……」
ディー「…天才だ」
リパル「貴方、今なんて?」
ディー「いや、あ…」
リパル「気遣わないでいいわ、正直に」
ディー「…彼の演奏を聴いて…天才だと…」
リパル「そう、彼は天才……消してちょうだい…私のダッキーちゃんが1番じゃなきゃ、天才じゃなきゃ、ダメでしょ?お分かり?」
ディー「…わかった…で、報酬は?」
リパル「このくらいでどうかしら?あ、あの子を消すだけじゃダメよ?あれを生み出したママとパパも消してあげないと、また産まれちゃ困るし、そうだわ、先に両親を殺しなさい、あの子には絶望の上で死んでもらわなきゃ…なんせウチの子の邪魔したんだから」
ディー「…つくづくだな…アンタも」
リパル「なんとでも仰ってくれて構わないざます」
ディー「…わかった、受けよう…その金で充分だ、後からの請求はしない、期間は10日間貰おう、完了の連絡はしない、成功の確認は嫌でもできるはずだ、それでいいか?」
リパル「わかったわ、期待してるざます、D」
ディーN「殺し屋D、それが当時の名前だった、今でも大して変わらんが…死を意味するdeathの頭文字を取ってD…ミドルスクールのガキが考えるような安直さだ…俺は婦人の依頼をこなすべくホールを後にした、そこでバッタリと少年に出会ってしまったのだ」
ラック「ふぅ…疲れた…なんでこんな力あるんだろう…」
ディー「やぁ」
ラック「ど、どうも」
ディー「君の演奏に感動した、それを伝えたくてね、あ、握手してくれるか?」
ラック「……はい、よろこんで」
ディー「ありがとう、次の演奏会を楽しみにしてるよ」
ラックN「僕には聞こえてた、ディーの本当の声…頭の中でディーはこう考えてた」
ディーM「標的にバッタリと会ってしまった、何故俺は声をかけた?彼に惹かれたか…わからん…はぁ…この子を消すのか…俺の息子と同じくらいか…まぁ仕方ない…依頼だ、生きてく為だ…」
ラックN
「僕にはその人の心を感じ取ってしまう、凄い、天才だ!素晴らしい!称賛の声、煩い、邪魔、嫌い、アイツさえいなければ…嫌悪の声…ピアノを弾いてない時は行き交う所に様々な心の声が僕は急に聴けるようになってしまったんだ…煩いよ…そして僕は殺される運命というのを聞いてしまった」
ディー「ふぅ…暫くは観察させてもらおう」
ラック「ただいま」
フィリア「はい、おかえり、貴方ただいま」
ジョージ「うん。おかえり、2人とも腹減ったろ?今日はご馳走だ、案外早く仕事が片付いたんで、久々に我が家で腕を奮ってみた」
フィリア「まぁ素敵、流石コック長、ね!ラック」.
ラック「うん…」
フィリア「あら、どうしたの?元気ないわね」
ジョージ「なんだ?ピアノ上手く出来なかったか?」
ラック「いや…疲れてるだけだよ、料理ありがと、美味しそうだね」
ジョージ「美味しそうじゃなくて美味しいぞ」
フィリア「パパだからね、私なんかと格が違うわよ」
ジョージ「そんなこと言うなよ…俺は家じゃ嫁の手料理が食べたいんだから」
フィリア「あら嬉しい」
ジョージ「ほら、早くお食べ」
フィリア「はーい、ラックいただきましょ」
ラック「うん」
ラックN「ここに嘘はない、もしあったとしても、それは相手を想ってる優しい嘘だ…ごめんなさい、父さん、母さん…相手の考えがわかる…自分が殺されるなんて…素直に打ち明けるなんて僕にはできない…親子なら信じてくれるかもしれないけど…もう嫌なんだ怖がれられるのは…だからごめんなさい」
フィリア「おはよう」
ラック「おはよう、父さんは?」
フィリア「まだ寝てる、休みだとだらしないんだから」
ラック「ふふ」
フィリア「ご飯できるから起こしてきて」
ラック「はーい」
ラックN「いつもと変わらない日常、聞きたくない人の内心…そこに死という恐怖が足される…みんな煩い…うるさい、ウルサイ…嫌だ…殺されるのは…聞きたくなかった…あんな事…僕はふと口にしてた」
ラック「…らない…感情なんて…要らない…感じなければラクなんだ、こんなのもうやだよ…助けてよ、神様」
ディー「あれから9日か…早いもんだな…水曜日、ラックはピアノの稽古で家には居ない、両親は家だ、今日、決行する」
ジョージ「.ぐーぐー」
フィリア「ジョージ休みだからっていつまで寝てるの!」
ジョージ「んーいいだろ、休みの日くらい」
ディー「すいませーん、お届けものでーす!」
フィリア「あら、何かしら、はーい、今行きまーす」
ディー「こんにちは」
フィリア「きゃっ」
ディー「おやすみ」
フィリア「すーすー」
ディー「パパの方は寝てるか…まぁ追加で盛らせてもらう、ずっと寝てな、さて仕事だ、なるべく悲劇的に仕上げないとな…なら惨殺か…」
ディーN「俺は眠るラック両親の心臓を一突きし殺害した後、四肢をズタズタに切り裂いた、現場は大量の血に染まった…そして俺はラックの帰りを待った」
ラック「ただいま」
ディー「おかえりラック」
ラック「…誰?」
ディー「誰って…お前これを見て何も思わないのか!?」
ラック「…父さんと母さんが死んでる…切り裂かれてる」
ディー「それだけか?悲しいとか辛いとか!そいつらは俺が殺した、自分も殺されるかもしれない、怖いとかあるだろ?」
ラック「悲しいはずなんだ、あんなに大好きだった父さんと母さんが殺されて…でも何にも感じないんだ、わからないけど、きっと叶ったんだ、願ったから」
ディー「願った?」
ラック「うん、僕はみんなの心がわかってしまう、嫌なっちゃったんだ、だから願ったんだ、何も思いたくない、感情なんていらないって…神様に、おじさんが僕を殺すってこと聞こえてた、いつだろうって怖かった…でも今は何感じない」
ディー「……だからって易々と殺されるか?」
ラック「わかんない、きっと怖いし嫌だと思える、そう考えれるけど、そう感じないんだ、だから殺されても思考するだけで感情は動かない…いいよ、殺して」
ディー「………やめだ」
ラック「どうして?」
ディー「殺しなんてもう終わらせようと想ってたんだ…あの日から…」
ラック「あの日?」
ディー「知らなくて…いいさ…さて、三つ仕事を終わらせるとしよう」
ラック「僕を殺すの?」
ディー「いや、別の仕事だ…先ずはお前のパパとママを埋葬する、後二つはすぐわかる、着いてきな」
ラック「うん」
ラックN「そうしてディーは僕を連れ、両親を街の墓地へと埋葬した、その後、リパルさんの所へ訪れたんだ」
リパル「なんざます、いきなり!」
ディー「リパル、いや、ザマス婦人」
リパル「リパルざます!」
ディー「アンタにはうんざりだ」
リパル「ま、待つざます、そ、それを下ろすざます!」
ディー「逝きな」
リパル「なっ!!」
ディー「二つ目、終わり…最後の仕事だラック、あばよ、達者で暮らせ」
ラック「??」
ディー「…今逝くよ、エリーゼ、グレイ…」
ラック「頭を撃った…死んだ…うん、多分死んだ」
ディー「……っ!!はぁはぁ…なんだ?俺は死んだはずじゃ!?」
ラック「生き返った?」
ディー「頭をぶっ放して…はぁはぁ…
ナイフ…ふんっ!」
ラック「喉を刺した…倒れた」
ディー「…がはっ!げほっ!…死ねない…はは…なんだよ…これ、クソ」
ラック「……きっと僕らは神様に奪われたんだよ」
ディー「奪われた…それは、その…奪ったって!お前は…感情…で、俺は…死…だって言うのか!?」
ラック「うん」
ディー「…はは、ははは…家族を失って…死すら失った?はははははは!!はは…笑えねぇよ!!笑え…ねぇよ…とんだ負け犬だ…俺ァ」
ラック「敗者、Losers…損失者、遺失者とも言うらしいね、失ったもん同士だね、僕達」
ディー「なんだよ、励ましてるのかそれ?」
ラック「わからない」
ディー「そうか…Losers…か…行くかラック」
ラック「うん」
ディー「両親に挨拶できたか?」
ラック「と思う」
ディー「よし、帰るか、Losersへ」