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夜警出立

 うつらうつらと、浅い眠りを微睡んでいると、頭を小突かれる。


「よう、おはようさん。良い夜だぜ。仕事にいくとしようか」


 寝ぼけまなこを擦り見上げると、支度を終えたケインが立っていた。


「あ、あい……了解です……」



 ふらふらと立ち上がり、チェーンメイルを着込む。

 ずっしりとした重みで、多少は目が冴える。



「ああ、どうやらまだ目が覚めきってねえようだな……

 コーヒーでも飲むか?」


 そういうと、ケインはコーヒーを汲み置きしているケトルに火をともした。


「あ、ありがとうございます……」


 ヴィクターは礼を言い、身支度の続きをする。

 チェーンメイルの上に軍衣を着込む―――目の前にある鏡で着衣を確認する、と、



 鏡に、背後でコーヒーを淹れるケインが映っていた。

 ケインは、コーヒーカップに()()()()()を入れていた。


 ヴィクターの背筋が総毛立った。

 砂糖だろうか?普通なら、コーヒーに入れる白い粉と言えばそうだ。



 だが―――



「よお、待たせたな」


 ケインが、柔らかに湯気を立てるコーヒーカップを手に、笑みを浮かべていた。


「さあ、飲めよ。()()()()()()



 その時、月光を雲が一部隠した。

 ケインの顔にも影が落ち、ケインの顔を不気味に彩った。



「あ、あの……」

「ん?どうした」


 ヴィクターは、一歩後ずさる。

 ケインが、追いかけるように一歩踏み出した。


 ドアはケイン側にある。ヴィクターの後ろに道はない。



「いや、あの、身支度してる間に目が冴えてしまいまして!」



 ヴィクターはわざとらしいほど元気にそう言い、ケインが何か答える前に、部屋から出ようと、脇をすり抜けて、ドアに向かう―――




 すんなりと、ケインは通してくれた。

 だが、ヴィクターは、恐ろしくて、その時のケインの表情を確認することができなかった。



 ヴィクターは雪崩れるように騎士団詰所を出ていった。



 残されたケインは、ヴィクターの去った後を見つめている。

 その表情は陰に遮られ、窺い知ることはできない。



 ケインは、ヴィクターに渡すはずだったカップを傾け、静かに口をつけた。




 ヴィクターは、動悸する胸を押さえ、騎士団詰所正面に立ち尽くしていた。


 果たして、ケインが自分に渡そうとしたモノは一体何だったのか?

 ソレを考えるのは、何かとても恐ろしいことのような気がして、うすら寒くなった。



 しばらくすると、詰所正面から、ケインが出てくる。


「よう、待たせたな。さあ、夜の見回りと行こうぜ」


 今さっきのことが、何もなかったかのように、笑顔で接してくる。

 それが逆に不気味に思えた。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 夜のマズトンを歩く。


 昼の陽気な雰囲気は身を潜め、危険な一面を覗かせている。

 路地には素性も知れぬ住人が、闇に溶け込みこちらを監視している。


 いつ襲い掛かられるかもしれない不安が沸く。


 光源はケインとヴィクターが持つランタンが主だ。

 路傍に設置された街燈は、全て破壊か盗難されており、その用を果たせていない。


 マズトンの目抜き通りは、賑わいもあり、眠らない町といった様相なのだが、一歩裏の方の路地に入ると、異世界に入ったような錯覚を抱かせる。



 ケインはそんな中、平気な様子で先を歩む。


 ヴィクターは喋るような気にもなれないまま、ケインの後ろをついて歩く。




 しばらく歩いたとき、ケインが足を止めた。

 路地裏に、鋭い視線を飛ばす。


「ん……おい、ヴィクター、早速捕り物かもしれねえぜ」


 ケインはにやりと笑い、路地裏に足を向ける。




「おい、動くんじゃねえ!マズトン騎士団だ!」


 ケインは、路地裏に向け、ランタンを突き上げる。



 果たして、そこには2人のゴブリンがこそこそと逃げようとしていた。


「あ?こんな夜更けに2人でこそこそ何してたんだ?どう見ても恋人の逢瀬ってわけではなさそうだが?」


 ゴブリンたちに詰問すると、慌てたように弁解を始める。


「い、嫌だなあ。特に疚しいことなんてしていませんぜ。

 仕事終わり、どっかに飲みに行くか、って相談をしてたんで……まさか、仕事終わりの一杯を取り締まるってわけじゃありませんやね?」


 ゴブリンたちは媚びたように上目遣いで窺う。



「けっ、しらばっくれやがって。さっさと出すもん出した方が利口だぜ。

 この都市でマズトン騎士団に逆らってどうなるか分からねえわけじゃねえだろう?」


 ケインの瞳に、凶暴な光が宿る。


 それを見て、ゴブリンたちは、諦めたように項垂れた。



 結局、ゴブリンたちの身体検査を行い、薬包を20包ほど押収した。



「持ってんじゃねえか。え?いいか?これからは手間かけさせんじゃねえぞ」


 ケインは薬包を手慣れた様子で数え終わると、懐に捻じ込んだ。


「これは押収するからな……さあ、薬物の違法所持と取引で、詰所まで来てもらうぜ」


 ゴブリンたちの両手を縛り上げる。

 ゴブリンたちは、恨みがましく視線を送りながら、大人しく従った。


 ケインは、満足げにヴィクターを振り返る。


「まあ、夜警ではこんなことがたまにあるってわけよ……こいつらぞろぞろ連れてこれ以上行けねえし、今日は詰所に戻るぜ」



 そう言うと、ゴブリンを従え、騎士団詰所への帰路をたどる。

 ヴィクターも慌ててそれを追う。

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