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瘴気

 ナサニアは指を振り向け、光の矢を乱射する。



 教会のそこかしこに着弾し、派手な爆発を起こす。


 騎士や”革命軍”の連中は、こそこそと長椅子や壁の後ろなどに隠れているようだが、知ったことか。光の矢で、援護物ごとあの世に送ってやる。



 さあ、次はあそこだ―――。


 哀れにも、逃げ場が無くなった騎士の一団に、指先を向けた。




「ん……?」



 教皇室の方面から、莫大な魔力の奔流を感じた。


 次いで、水晶に流れ込む魔力の減少を感じる。


 これらの事から導かれる答えは―――。



「ちっ……教皇を殺られたか……?」


 騎士に向けた指先をふっと握り拳に変える。こうなれば、魔力の無駄遣いをしている場合ではない。


 もう少し教皇室の警備を厚くしておくべきだったか―――と思いつつ、改めて武装教徒たちに射撃命令を下す。



 傍に控えるルブラン司教が、そっと耳打ちをしてくる。


「シスター・ナサニア……。

 いくら武装教徒達に鉄の結束があるとは言え、相手は中央騎士団の精鋭と、戦慣れしている”革命軍”だ。少しばかり分が悪いように思えるが……?」


「……」


 ナサニアは黙っている。


 未だ、大量の魔力を秘める水晶。それをぎゅっと抱きしめた。





 降りしきる光の矢から逃げ回っていた騎士団、”革命軍”だったが、いつの頃からか、それが止んでいることに気付く。


 その代わり、弓の射撃量が増えていたが、光の矢に比べればどうという事は無い。



 ザンヴィルは、自らもクロスボウを取り、立ち上がり、矢を放ちつつ、叫んだ―――。


「敵の光の矢が止んだ!今のうちに反撃を行え!やられっぱなしで終わるなよ!!」


 放たれた矢は、正確に武装教徒を貫いた。



 ザンヴィルの一喝に奮起した”革命軍”は、勢い付いて射撃を開始する。



 それを見た中央騎士団指揮官・コンラートも、慌てて反撃命令を下す。


「”革命軍”に後れを取るな!我々も反撃を開始するんだ!」



 光の矢に気勢を削がれ、逃げる一方だった騎士団、”革命軍”は、指揮官たちの督戦に我を取り返し、気焔を上げる。



 教会の内部で、壮絶な射撃戦が開始される。



 騎士団の持ち込んだ矢の本数はたかが知れていた。


 矢を打ち尽くすと、その辺に散らばったり刺さっている矢を引っこ抜いてまで射ちまくる。



 オーク族の扱うクロスボウは、通常の長弓が使用する矢は流用することができない。


 従って、矢を打ち尽くした現状、近接戦を仕掛けるしかない。



 長椅子や瓦礫の破片を持ち上げ、盾にして突進する。


 騎士達の射撃に気をとられている教徒達を、叩き伏せてゆく。



 いかに訓練された武装教徒とは言え、結局は一般人である。


 専門の鍛練を積んだ騎士やオーク族とは、地力の違いは否めない。



 人数の上では拮抗か、教団有利であった当初より、戦況は徐々に傾いてくる。



 それに―――。


 エギンは、その違和感に気付く。


「あのシスターと司教……いつの間にか居なくなってやがる。()()()()()()んだ?」



 まさか逃げられたか。


 だが、そのお陰で、指揮官を失っている武装教徒達は、段々と瓦解してくる。



 次第と、その戦力差は歴然としたものに変わっていった。



「さあ……もう分ったろう!お前らは負けた!さっさと投降しろ!

 今ならば無為に殺したりはしないぞ!」



 ザンヴィルが叫ぶが、武装教徒達に投降の意志は見られない。



 よく観察すると、彼らは無表情で、その瞳はガラス玉のようだった。


 ザンヴィルは、背筋がうすら寒くなるのを感じた。


 こいつらは―――、自分の意志がないのか?

 又は―――奪われたのか。



 徐々に、戦況は騎士団と”革命軍”による一方的な虐殺の様相を呈してくる。


 それでも、武装教徒達は、まるで機械のように抵抗する。



 気味の悪さを感じながらも、一人ひとり倒してゆくしかなかった。




 ほぼ占拠が完了した礼拝堂で、騎士団と”革命軍”の主要メンバーが集まる。


 そこには、教皇室から戻ってきた三人の姿もあった。



「さて……。これで、雑魚共は制圧出来た。しかし、肝心のナサニアと司教を逃がしてしまったな……。

 それに、窓から様子を見るに、結界もまだ張られたままだ。どうする?」


 エギンが渋い顔をする。



 テレサが、それに答えた。


「いや……それやけどな。まだ、教会の中に魔力を感じるわ。恐らく、奴らはここに残っとる。

 魔力の気配は……あそこの先から漂っとるな」


 テレサが指差す。




 その先は、祭壇室。



 一同は、その扉を見つめる。




 気付いた。


 祭壇室の扉から、邪悪な瘴気が滲み出している。



 魔力の素養がない者にも、それが見えるようだった。




 思わず、唾を呑み込む。



 歴戦の猛者であるザンヴィルさえも、本能的に後退りして、僅かに身震いした。




「奴らは―――あそこに?」


 震える声でヴィクターが呟く。



 棍棒を構えて、チェチーリアが答える。


「……そうでしょうね。教会で迎える最終戦―――。

 運命の神が居るというのであれば、我々に味方してもらいたいものですね」




 ステンドグラスを通し、眩い光が教会内に散っている。


 その美しい光は、倒れ伏す死体、破壊された室内を芸術的に染めていた。




 薄汚い瘴気が祭壇室から漏れている―――。




 ()()()()()()()()()




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