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魔力の流れ

 結界内に閉じ込められた中央騎士団、および”革命軍”は、降りしきる酸の雨を避けるため、教会の内部に滑り込む。



 教徒達の矢に当たらないよう、姿勢を低くして進む。


 気をつけさえすれば、教会内部の長椅子は、逆にこちらの援護物となった。



 表にいた人員が、大体教会に侵入することができた。


 ヴィクターは改めて頭数をざっと数えたが、100人程度しか残っていなかった。

 これでは、教団側といい勝負だ。



 ナサニアは、教会の中へ舞い戻ったヴィクター達に微笑みかける。


 彼女は、白く輝いている水晶を持っていた。ヴィクター達が退却するまでは持っていなかったはずだが。



 長椅子の後ろに、数人の騎士が隠れていることを確認すると、ゆらりと指を動かし、そちらに振り向けた。


 すると、彼女の指先から、一陣の光の束が放たれる。



 長椅子へ到達した光の束は、一際眩しく輝いたかと思うと爆発した。


 それを予想だにしていなかった騎士達は、受け身をとることもできずに倒れる。

 そこへ武装教徒達の弓矢が襲い来る。瞬く間にハリネズミになった。



「そんな……あれは光魔術か!?

 周囲をぼんやり照らす程度ならともかく、あそこまで破壊力を伴ったもんは、現在では使える術師などおらんはずやが……」


 テレサが驚きの声を上げる。



 現在では魔術の系統は廃れ、ごく簡単な術式が残るのみである。


 一説には、一人が強力な力を持つことを恐れた時の権力者が、意図して廃れさせたとも言われているが……。



 ともかく、個人で使役できる魔術の力はたかが知れており、せいぜい物を温めたり、冷やしたりする程度のはずだ。


 ナサニアのようなエルフ族は、多少魔術の素質はあると言われる。

 しかしそれでも、常人ならば、破壊をもたらす程度のエネルギーは出力できないはずだ。



「普通ならば、か……」


 テレサは、乾いた唇を舐める。


 考えてみれば、ここは長きの歴史を誇るイラ・シムラシオン教の教会だ。どんなトンデモ魔術アイテムがあっても不思議ではない。現に今、ナサニアが持っている水晶はいかにも怪しい。



 テレサが物思いに耽っている間にも、ナサニアは次の光の矢を放つ。

 また長椅子に当たり、木っ端微塵に吹き飛ばす。



 このままでは、隠れる場所が無くなってしまう。



 彼女の放つ魔術によって、中央騎士団、”革命軍”は、その地点に釘付けになってしまった。


 定期的に放たれる光の矢のせいで、反撃のとっかかりを掴めないでいた。




「―――ん?」


 テレサは、不自然な魔力の流れを感じ、首を傾げた。



 ハーフゴブリンには珍しく、テレサには魔術の才能があった。


 マズトン戦争の序盤で、爆竹に着火したのも、彼女の魔術によってだった。



 ともかく、ナサニアが放つ光の矢だが、その元の魔力は、手元の水晶から発せられているようだ。


 しかし、その水晶も、どこからか魔力を受け取っているようなのだ。



(あの水晶は、中継器か何かって事か……?ならば、大元を断てば、ナサニアの魔術は使えなくなるはずやな)



 近くにいた、エルフ族の騎士を引っぱり込む。 


「な、何するんですか」


 急に連れてこられたその騎士は、困惑しているようだ。


「ああ、いきなりすまんな。あんた、エルフ族やろ?あのシスターが持っとる水晶に流れとる魔力を、何とか辿れんか?」


「ええっ!?いきなりそんな……」



 騎士が戸惑っていると、さらに次の光の矢が近くに着弾する。


 長椅子の破片が、テレサたちの背中にパラパラと落ちてくる。



「……頼むで。これ以上あの魔術の矢を放置できん」


「わ、分かりました。何とかやってみます」


「よし!よく言った……。あんた、名前はなんて言うんや?」


「わ、私はカートンと言います」


「そうか、カートン、よろしくな」


 震えながらがくがくと頷いたエルフの騎士・カートンを眺め、テレサはこの後の行動をシミュレートした。



 ナサニアが持つ、水晶へ流れている魔力の大元を探し、それを破壊する。


 そうすれば、彼女の操る魔術は機能停止するだろう。


 あの固定砲台のような矢がなくなれば、反撃の狼煙も上げられるはずだ。




 よし。それまで皆、耐えていてくれよ。



 教団側に動きを悟られないよう、少人数で行動することにする。

 カートンとテレサに、小柄で動きが機敏なギュナを加えた3人で、魔力の大元を探査に出た。



 一定の期間を置いて、光の矢が発射される。


 その際に揺らぎのように発せられる魔力の帯をたどり、教会内を這いながら進む。



 幸いにも、教会内の武装教徒達の注目は、中央礼拝堂に固まっている騎士や”革命軍”に集まっている。


 気づかれないように、後ろを通り抜けることができた。



 汗が噴き出した額をぬぐう。


 ギュナは涼しい顔をしていたが、僅かに汗は滲んでいた。


 カートンは、緊張で目が飛び出しそうになっている。口を開け、舌を突き出して浅い呼吸をしているが、なんとか声は立てず、静かに行動できていた。



 ―――礼拝堂から、爆発音が規則的に聞こえてくる。





「……あ、ここだと思います。ここの部屋から、強い魔力が流れ出しているのを感じます!」


 カートンは、興奮した面持ちでテレサに告げる。



 実のところ、この部屋に近づくにつれて、カートンは速足になり、テレサでも感じられるほどその魔力は濃くなっていた。



「しかしなあ……この部屋とは。少人数で来るのは早まったか?応援を呼ぶべきやろうか?」


 テレサは思案顔になる。




 その、強い魔力が流れ出してくる部屋には、こう書かれていた。




 『教皇室』




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