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捜索開始

 反教会派の筆頭聖騎士であるウジェーヌは、昂る気持ちを持て余していた。



 何せ、今から、あの憎き教会の化けの皮を引っ剥がしてやれるのだ。



 政治の面でも、騎士団内の序列から言っても、反教会派の派閥は大きくはなかった。



 一番大きな派閥が中道派ではあったが、それに次いで大きいのが教会派であった。


 また、真偽は不明だが、教会派の政治家や騎士達は、教会に何らかの便宜を図ってやっているという噂も、まことしやかに囁かれている。



 しかし、今回の”革命軍”騒動で、市井の世論は『反教会』に傾きつつあった。


 これを好機とし、政界・騎士団の反教会派は攻勢をかけることとした。



 中道派の主要騎士に対し、内密に声を掛けてみたところ、教会への家宅捜索については全面的に賛成の意を表した。


 どうやら、彼らも、最近の教会派の増長に対し、危機感を抱いていたらしい。そのまま、中道派の騎士・政治家を抱き込んで、裁判所への訴えを行った。



 国教である、イラ・シムラシオン教への家宅捜索―――それも反教会派による―――という事で、当初は家宅捜索の差押許可状の発行を渋っていた裁判所だったが、寄る世論には逆らえず、発行に至った。



 そして今日、ついに、教会に対し家宅捜索を行うのだ。



 当然、どこかで教団派の耳には入っているだろうから、何らかの対策はしてきているだろう。


 しかしだ。こちらとしても一世一代の大勝負だ。手ぶらで帰るわけにはいかない。場合によっては、仕込みを行ってでも、教団の悪事を―――、少なくとも捜査継続にまでは持って行かなくてはならない。


 大丈夫だ。こちらは中道派の騎士も味方につけたのだ、と、自らを奮い立たせる。



 武者震いを起こしている膝を無理やり動かし、捜査部隊が待つ場所へと移動する。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 ウジェーヌは、詰所の外へ出る。


 そこには、反教会派、中道派から選りすぐった精鋭たちが、家宅捜索の時を待っていた。


 もちろん、その中には、反教会派の有力騎士が雁首を揃えている。

 もし、この家宅捜索が空振りに終わってしまえば、今度は教会派から、どのような言いがかりをつけられるか分かったものではない。


 つまり、今回の家宅捜索は、成功させる以外の選択肢はないのだ。



 彼らの前に立ったウジェーヌは、捜査部隊を見渡す。

 今回の部隊規模は300人態勢となっている。


 これで、隅から隅まで不正の証拠を掘り返してやるのだ。



 万が一に備え、ポケットに麻薬の小包を3つねじ込んでおいてある。


 もし仮に、何も証拠が見つからないとなった場合は、これを置いて、自作自演するしかなくなる。当然、このような展開に陥るのは避けたい所だが……。



 ウジェーヌは、声を張り上げ、捜査騎士たちに発破をかけてから、教会へ向けて出発する―――。




 中央騎士団詰所から教会までは、そう距離は離れていない。


 程なく到着することができた。



 教会の正門へたどり着いたウジェーヌは、小刻みにノックを行う。


「中央騎士団です!家宅捜索に伺いました―――。

 この門を開けてください!」


 もし、開けるのを渋るのであれば、破壊してでも押し入ってやる、と意気込んでいたウジェーヌだったが、門はあっさりと開く。



「まあ、中央騎士団の騎士様。こんにちは。私たちの教会に……家宅捜索ですか?」


 門を開いたのは、美しいエルフの修道女だった。何度か姿を見たことがある。それなりの地位にいる人物なのだろう。



 あっけなく捜査部隊を受け入れたことに、若干の拍子抜けを覚えながら、ウジェーヌは告げる。


「ああ、ええ、そうです。私はウジェーヌ聖騎士です。昨今の”革命軍”騒ぎに鑑み、貴教会の家宅捜索を行う事となりました。いや、そう身構えないでください。何もなければ、特にお手を煩わせることはありませんよ―――」


 嘘だ。

 ウジェーヌは、今回の家宅捜索で、教会に再起不能なほどのダメージを与えようとしているが、そのようなことはおくびにも出さず、しれっと言ってのけた。



「まあ、そうなのですか。私はナサニアです……。

 構いませんよ。どうぞ、お入りください」


 ウジェーヌの思惑を知ってか知らずか、ナサニアは、笑顔を貼り着かせたまま招き入れようとする。



「ああ、教会の中に入る前に、少し調べさせていただきたい場所がありましてな」


「……というと?」


 ナサニアは、僅かに不快そうに顔を歪める。



「いえ……お宅の庭は立派ですな?さぞかし良い肥料でもお使いなのかと思いましてな……。

 前庭の隅を、掘らせて頂いて構いませんね?」


 ウジェーヌの目が光る。



 これは、ベル上級騎士らが取った調書に書かれていたことだ。


 自首してきたマズトン騎士が自供したところによると、教団の前庭には、マズトン騎士団の有力騎士の死体が埋められているとのことだった。



「……ええ、構いませんよ」


 ナサニアは、笑みを絶やさない。


 そのことに若干の気味悪さを感じたが、気にせず続けることにする。


「……そうですか。おい、シャベルを持て」



 捜査騎士5名にシャベルを持たせ、前庭の隅へ行く。


 調書の通りなら、隅の堀跡が新しいところに、埋められたとのことだが……。


「ここか。さあ、掘り返せ」


 それらしい箇所を見つけると、指示を下す。



 捜査騎士は、黙々と穴を掘る。


 それを、ナサニアと、ウジェーヌはじっと見つめていた。



 ちら、とナサニアの表情を窺うが、ニコニコとしているばかりで、動揺は見受けられない。



 しばらくの間、シャベルが地面を掘り返す音が続くが、一人の騎士が音を上げる。


「……駄目だ。

 ウジェーヌ様、これ以上は掘り返した後もありませんし、何も出てきません」


「何!?そ、そうか……」


 ウジェーヌは動揺する。



「どうされましたか?これで終わりでしょうか?」


 ナサニアが、笑顔のまま、聞いてくる。


「い、いえ。まだ、これは挨拶代わりというところで……教会の中も、改めさせていただきますよ」


 答えると、そそくさと教会の中へ入る。



 落ち着け、と、ウジェーヌは自分に言い聞かせる。


 教会の奴らは、教会派の騎士から、前もって家宅捜索の事を聞いていた可能性は十分にあるのだ。

 その間に、ある程度証拠を隠蔽した可能性は十二分にある。



 しかし、それも完璧に隠しきるなどは不可能なはずだ。


 絶対に、巨悪の尻尾を掴んでやる―――。



 ウジェーヌは、静かな闘志を燃やした。



 その後ろ姿を、ナサニアは、笑顔のまま見守っていた。

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