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ダドリー

 ダドリーは、激変する戦況を理解できずに、苛立っていた。



 ケインの話では、ジェリコー上級騎士達が、中央騎士団に応援を頼みに行く、と言っていたそうだ。

 しかし、蓋を開けてみると、応援としてやって来たのは中央騎士団ではなく、イラ・シムラシオン教の武装教徒達だった。



 しかも、当の出掛けて行ったジェリコー達は戻ってきていない。

 まあ、あのおっさんであれば、日和(ひよ)って戦場に戻りたくない、と言い出しかねないのも確かだが。



 まあ、実際のところ、教団は防衛を手伝ってはくれている。


 それはありがたいのだが、なぜ、中央騎士団ではなく、教団が来たのか?

 そこが分からない以上、一抹の不気味さを感じずにはいられなかった。



 詰所内に篭っている部下や”窮者の腕”の面々に指示を出す。


 どうやら、戦場ではまたオーク族の勢いが盛り上がっているらしい。


 どんだけ叩いても起き上がって攻めてくる。まるで虫みたいなしぶとさだ。



 ”窮者の腕”の代表者、アセナはこの場に居なかった。どうせ外様なので期待はしていなかったが、危ないと見て逃げ出したのだろうか。舌打ちをする。



 (ん……?ケインが居ないな)


 詰所西側方面への伝令を頼もうとケインを探すが、見当たらない。

 何か用事を頼もうとした際には、たいてい近くに控えていてくれたものだが。



 きょろきょろと見回していると、書庫の方から、修道女が現れた。


 ダドリーに向かって会釈をする。そのまま話しかけてきた。



「こんにちは。

 私は、この度マズトン騎士団へ増援に参りました。イラ・シムラシオン教のシスター、ナサニアと申します。”革命軍”に手を焼いておいでだという事で、誠心誠意お手伝いいたします」


 すっと頭を下げる。


「あ、これはどうも。私はダドリーです。増援感謝いたします。

 ……ところで、中央騎士団の方々は、派兵してくれなかったのですか?」


 ダドリーは、疑問をそのままぶつけてみた。



 ナサニアと名乗るシスターは、少しだけ止まり、ゆっくりと話しだした。


「……そうですね。汚職派聖騎士は居るとは言え、やはり、中央騎士団を動かすとなれば、それ相応の理由が求められます。その意思決定の時間すら惜しんで、まだフットワークの軽い、我々に出陣命令が下った……というわけです」


「ほお。なるほど……確かに、汚職の相手には、教団さんも噛んでましたからな。助け合いってところですか」


 ダドリーは一応納得した。



 ナサニアは頷くと、ダドリーに問いかける。


「失礼ながら質問です……

 我々と行っていた汚職の履歴について、どこに保管されておいででしょうか?ご教示願いたいのですが」


「ん?何故ですか?」


「いえ……仮に、中央騎士団が監査に来た場合、証拠が見つかってはまずいことになります。つきまして、一時的にでも、私共に預けて頂けないかと考えております」


「ふむ。まあ、一理あるか。我々より、教団の方に渡した方が安全かもしれませんな。

 ―――分かりました。ついて来て下さい」



 ダドリーは、詰所内の地下牢に向けて歩き出す。

 ナサニアは、ダドリーの背後でほくそ笑んだ。




 湿っぽい階段を下りる。


 地下牢に繋がれていた”窮者の腕”の囚人は、戦力確保のため早々に釈放したので、今は牢屋は空だ。


 廊下の突き当りにあるレンガの1つを掴んで引っ張る。

 この1つだけ、壁に固定されておらず、小物入れのようになっている。


 ぽっかりと空いた穴の中に手を突っ込んで、書類を抜き出した。



「あったあった。これが書類で―――」



 汚職の証拠書類を渡そうとしたダドリーだったが、受け取ろうとしたナサニアの袖口に気が付いた。



 ―――彼女の袖口には、血が飛び散っている。


 はっと気が付き、彼女の修道服をよく観察する。



 黒を基調とした修道服だったので、パッと見は気付かなかったが―――


 ()()()()()()()()()()()()()



 急に、血腥(ちなまぐさ)い臭いが立ち昇ってくる。



 彼女の表情は笑顔のまま変わらない。



「どうしたんですか?ダドリーさん?


 さあ、()()()()()()()()()()()()()()



 ナサニアは、一歩一歩、両手を広げてゆっくりと近づいてくる。



 ダドリーは、思わず後退(あとじさ)る。




 しかし、ここは廊下の終点だ。


 すぐに背中が壁にぶつかった。




 後がない。しかし―――。


 ダドリーは頭を振って気を取り直す。



 何を雰囲気に押されてるんだ。


 どれだけ薄気味悪かろうと、こいつはただの女だ。とりあえず、落ち着かなければ。



 ダドリーは、腰から片手剣を抜き、下段に構えた。



 それを見たナサニアは、歩を止める。



「あら?どうしたのですか?私はただ、不正の書類を受け取ろうとしているだけなのですよ?」


「へへ、あんたの服が血だらけじゃなきゃ、渡したかもな。その血は一体どうしたんだ?」


「ああ……ここに来るまでに一戦交えましてね。”革命軍”を血祭りにあげただけですよ」


「そうかい?じゃあ全部脱いで、武器を隠し持ってないことを証明してもらおうか?」


「……ええ、それで、貴方が納得するのであれば」



 ナサニアは、蒼い瞳を燃えるように光らせ、焦らすようにゆっくりと修道服に手を掛ける。



 首に手をやり、胸元をそっと緩める。


 血に濡れた黒い修道服と、抜けるような白い肌が、グロテスクなほどよく映えた。


 その間も、ナサニアはダドリーを見つめ、目を離さない。


 ダドリーは、その蒼く燃える瞳に取り込まれてしまったように感じた。



 ―――美しい。


 場違いにもダドリーは、ナサニアに見とれていた。





 その時、騎士団詰所で大声が響く。


 思わず、二人とも階上を見上げる。



「中央だ―――中央騎士団がやって来たぞ!!」




 今、このタイミングで中央騎士団が到着する?



 果たして敵か味方か―――。

 ダドリーの注意が逸れた一瞬、銀の一閃が彼を襲った。

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