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中央騎士団との会談

 中央騎士団詰所の立哨騎士は、我が目を疑った。



 何せ、信じられないくらい大きい猪に、3人もの人間が乗って、こちらにやって来たのだ。


「ちょ、ちょっと、そこの猪、止まりなさい!一体何をしに来たんだ!?」



 立哨騎士が叫ぶと、意外にもその猪は大人しく歩みを止めた。



 その上に乗っていた、騎士団の軍衣を着た2人が地面に降りる。


「……?」


 その内の一人に、何となく見覚えがあった。

 誰だったかな?と頭をひねっていると、その見覚えのある騎士は、丁寧な言葉づかいで、立哨騎士に話しかけた。


「お久しぶりです、ダルランさん。……ヴィクターです」




「―――っ!ヴィクター、お前が……」


 立哨騎士・ダルランは、思わず言葉を失う。



 目の前にいる騎士は、辺境都市へ異動させられ、その後、マズトンの不正をぶちまけ、反乱を起こした……ヴィクターだった。



 ダルランとヴィクターの事務机は近く、よく顔を合わせていたのだが、どうしてすぐに気づかなかったのか?と自問したが、すぐに理由は判明した。


 顔つきが、ここから異動して去っていった時と比べ、幾分か凛々しくなっていたからだ。

 あの、卑屈で覇気のない顔ではなかった。



 ダルランは、驚きの顔のまま、ヴィクターに話しかける。


「お前、何てことしてくれたんだ……。


 騎士団の不正を、あんな形で市民にブチ撒けてしまったから、俺ら騎士の信頼は地に落ちちまった。

 正式な監査も経ないまま戦闘が行われているんで、騎士団内でも対応をどうしていいのか、議論が紛糾してるんだぜ」


 ヴィクターは、素直に頭を下げる。


「その件については、誠に申し訳ございません。

 ……ですので、今回、中央騎士団の皆様に、事の経緯を説明しに参りました」



「……そうか。分かった。取り次いでくるから、少し待ってろ」


 ダルランは、詰所の中に戻ってゆく。



 バガンは、その間黙っていたが、ダルランがこの場を去ると、ヴィクターに話しかけた。


「経緯を説明、ねえ……。

 事と次第によっては、裁判にかけられて、俺もお前も、反逆罪で縛り首かもしれねえぜ」


「かもしれません。しかし……。自らが発端となって起こしてしまった騒動です。

 ここで、見ないふりをしてうずくまることだけは……したくありません」


「そうか?まあ、俺もここまで来たら、最後まで見届けてやるかな」


 バガンは、首の後ろを掻いた。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 中央騎士団詰所の会議室。



 円卓には、中央騎士団の有力騎士が、十数人座っていた。


 その中には、政治家クラスの聖騎士もいれば、元直属の上司、懐かしいベル上級騎士もいた。



 ヴィクター達が会議室内に入ると、数多の視線が突き刺さる。

 当然ながら、それは歓迎とは程遠いものだった。


 ベル上級騎士は、ヴィクターを睨め付けながら、会議の始まりを告げる。



「ええ……、皆さん、急なところ、お集まりいただきありがとうございます。

 この度、例の反乱を起こした騎士、ヴィクターが出頭して参りましたので、取り調べ……というか、聞き取りを行おうと思います」


 ヴィクターは、深く頭を下げる。

 隣にいたチェチーリア、バガンも同様にした。



「では、早速だが……」


 モノクルをかけた上級騎士が、記録をとりつつ、質問を行った。



 ヴィクターは、この反乱劇に至った経緯やマズトンの実情について、順を追って答えた。



 しばらくの間、ヴィクターの独白と、羽ペンが走る音だけが会議室に響く。

 誰も、物音を立てたりはしなかった。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――




「……なるほど」


 調書を一通り取り終った騎士は、モノクルを外し、目頭を揉みつつ答える。



「つまり……、

 汚職に狂ったマズトン騎士団は、そこを突かれ、オーク族の侵略を許した。


 この際、オーク族は、騎士を拉致して情報を得た。それがヴィクターだった。

 得た情報は、マズトン内の犯罪組織によりビラにされ、マズトン市内と、中央市内にバラ撒かれ、陽動として使われた。


 そして、汚職の内容を広く暴露されると、それの証拠を消す為に、イラ・シムラシオン教が進軍を開始した……という事か」



「ええ。その通りです。このまま教団を放置すると、汚職の証拠が消されるばかりか、証人すら消してしまいかねません……。


 実例として、既に、マズトンの上級騎士の一人が、教会の敷地内に殺されて埋められています……」



「な、何い!?」


 会議室内がざわめく。



「ええ。ヴィクターの言った事は事実です。教会の庭の隅……。まだ掘り返した跡が新しいはずです。そこを掘り返せば、ジェリコー上級騎士の遺体が出てくるかと」


 バガンが言葉を引き継いだ。


「何てことだ……。それより、君は誰なんだ?」



 上級騎士の疑問に、バガンが答える。


「はい。私は、マズトン騎士の一員です。

 ―――マズトン騎士団が犯した汚職の証拠について、いくつかは保有しております」


 そう言いつつ、軍衣の懐から小袋を出して見せる。



「ほお……しかし、なぜ、わざわざ自首をしてきたのか?罪を軽減してほしい、と、そういう事か?」



「いえ……これはお願いになるのですが……。

 今、マズトン騎士団の面々は、オーク族と教団に襲われ、その命は風前の灯火です。

 ですので……、中央騎士団に派兵して頂き、公平な裁きを下して頂きたい。そう思う次第で参りました」


 バガンは、頭を下げる。


 ヴィクターも頭を下げた。


「オーク族に情報を漏らし、マズトンへ侵略の口実を与えた。自分にも罪はあると分かっています。

 しかし……、汚職をしておきながら、証拠を握り潰し、のうのうと生き残る……教団に裁きが必要なことも、また事実だと思います。


 なにとぞ、中央騎士団から、マズトン鎮圧のために、応援をよろしくお願いします」




 ―――有力騎士達は、額を突き合わせ、相談をしていた。



 まとまったのか、ベル上級騎士は、こちらに顔を向け、真剣な表情で告げる。



「了承した。此度の動乱に関わった者の裁判は後で行うとして―――、喫緊の対応として、中央騎士団を2個師団派兵する。

 そこにいる3人は、此度の動乱が終わるまでは逮捕しない。その代わりに、先導をしてくれ」



「―――承知しました」



 ヴィクターは、改めて頭を下げた。




 これで、中央騎士団からの派兵が叶うこととなった。


 はたして、マズトンの混戦を治めることができるのか―――。



 手のひらに滲んだ汗をそっと拭った。

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