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フードの少女と疑念

 それから数日。ヴィクターにマズトンでの初めての非番が回ってきた。



 例の一件以降、キナ臭い出来事は無く、ごく普通の勤務を過ごしていた。

 ダドリーもその件には特に触れず、平和に過ごせたことが不気味に感じていた。



 寮の部屋に閉じこもっていると、気分も塞ぐので、午前のうちから外へ出ることにした。

 朝のマズトン大通りは、人でごった返し、賑やかな雰囲気だ。

 人波に紛れ、ぼーっと歩いている間は、何となく穏やかに過ごすことができた。



 しかし思考は、次第に数日前の出来事へ遡る。

 ひったくり犯から金品を巻き上げ見逃すなんて、どう考えても職務違反に他ならない。

 これは……上級騎士であるジェリコーに伝えるべきだろうか?

 またはバガンに?



 思考はそこへ向かうのだが、()()()()()()()が頭をもたげる。

 それはとても恐ろしいことで、もしそれが事実であれば……




 そんな考えを巡らせていたので、周囲への注意がおろそかになっていた。




 どん、と誰かにぶつかり、倒してしまったようだ。


「うわ、びっくりした……おい、兄ちゃん、気いつけて歩いてや!」

「あ、ごめんね……大丈夫?怪我しなかった?」


 ヴィクターは、倒れたフードの小柄な人に手を伸ばす。

 倒れた人は首を振り、ぴょんっと自分で起き上がる。


「手はええわ。子供やあるまいし。失礼なやっちゃなあ」

「え?あ、すみません。てっきり、あの」


 体格的にすっかり子供だと思っていた。失礼な態度をとってしまったかな、と焦っていると、


「まあうちはハーフゴブリンやさかい、分かりにくいわな、そない気にせんでええで」



 フードの人は、頭巾部分を外す。

 そこから、可愛らしい顔が現れた。薄茶の跳ねたショートヘアーから、小さな角が2本覗いている。

 にっとはにかんだ口の端から、少し尖った犬歯が見える。



 確かに、ハーフゴブリンの女性は、小柄な体型が多い、というのは話では聞いたことがあるが、実物を見るのはこれが初めてだった。


 しばし、ぼけーっと見とれていると、ハーフゴブリンの女性は不審げにこちらを見遣る。



「ん?なんや?うちの顔になんかついとるんか?」

「あ、いや、違います……ハーフゴブリンの方とお会いしたのは初めてでしたので、ちょっと面食らったというか……すみません」


 ヴィクターはぺこぺこと頭を下げる。



「は?この都市に住んどんのやったら、ハーフゴブリンごときそこら中におるやろ……」


 と、そこで値踏みするようにヴィクターを見ると、


「ん……よく見ると格好がこの都市の人間っぽくないな……旅行者か何かなんか?いや、でも、こんな都市に旅行にくるなんてなあ……?」


 ハーフゴブリンの女性は首をひねる。



「あ、えーと、仕事、で転勤してきまして……こちらは不勉強というか、不慣れというか、そんな感じなのです」

「あーそうなんか、なるほどなあ。仕事かあ。そりゃ大変やろ、こんなけったいな都市来てなあ」



 ハーフゴブリンの女性はうんうんと深く頷く。


「よっしゃ、昼飯もまだやろ。うちが奢りがてら、この都市について教えたるわ」


 薄い胸を張り、どん、と叩く。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――




「おっちゃん、肉とパン2つずつな。」


 ハーフゴブリンの女性に連れられ、テラス席のある軽食屋へやってきた。

 マズトンという立地を考えると、なかなか雰囲気のいい店だ。


 店主に注文を終えると、ハーフゴブリンの女性は、興味津々といった感じで、こちらに顔を向ける。


「名乗るのが遅れたな。うちは―――せやな、テスと呼んでもらえばええ」


 テスははにかみ、言葉を続ける。


「しかしなあ、知っとるかどうか知らんが、ここは物騒な都市やで。わざわざこんなところに来るなんて、いったい何の仕事なんや?」



 ヴィクターは、少し考えたが、自らの仕事を正直に明かすのはやめておいた。

 それこそ治安の悪いところで身分を明かして、変に敵視されてもつまらない。


「いや、大した仕事ではないのですが……確かにこう、多民族都市というのは初めてなので、どういう風に振る舞ったらいいのかは戸惑ってるところはありますね。」

「まあ、せやろな。今まで同じ……ヒト族の中だけで生きてきたなら、分からんところも多いやろう」

「ええ、そうですね……なんかこう、これだけは気を付けておいた方がいい!みたいなことって、ありますかね?」


 ヴィクターは、出された水をすすりつつ、質問する。

 冷やされている、というわけではないが、テラスを通り抜けるそよ風を感じながら飲む水は、なかなか悪くなかった。


 「まあな。ここは治安が悪いんはもうさんざ分かっとると思うけど……おそらく、他の都市とは違う、一番気をつけなあかん所があるんや」



 テスも水を一口飲む。唇を舐めて湿らせる。

 見た目少女であるテスのその仕草がいやに色っぽくて、どきりとした。




「この都市には、4()()()犯罪組織があるんや。」

「えっ、4つ……?」


 バガンに聞いたとき、犯罪組織は3つ存在するということだったが……?


「ああ、このどれもが危険やけど、中でも一番危険なのが……」



 テスは楽しそうに、目を細めて、内緒話でもするように囁いた。



「主にヒトによる犯罪組織、()()()()()()()や」

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