増援要請
ケインは、転がるように騎士団の屋外訓練所に駆け込んだ。
驚いたような表情でこちらを見る、上級騎士・有力騎士達に告げる。
「ご注進!!城門内広場を突破されました!!
城門守備部隊は瓦解!ダドリーさん率いる主力部隊は劣勢……。
現在主力部隊は後退、騎士団詰所で態勢を立て直し、反撃する予定です!
各地に散らばる戦力を詰所に集結願います!」
「ばっ、馬鹿な!あんな蛮族どもに、我らが騎士団が遅れをとったというのか!?
お前らは何をしていたんだ!!!」
ジェリコー上級騎士は、吐き捨てながら地団駄を踏んだ。
「くそっ!お前ら、何とかしろっ!」
癇癪を起こし、問題を他の騎士に放り投げる。
バガンは、渋い顔で引き継いだ。
「そうだな……。ケインの言う通り、皆さんは各地の戦力をまとめ、騎士団詰所の防衛を行って下さい。
とにかく戦力を集中させ、各個撃破を防ぎましょう。
あとは……そうですね。こうなれば、中央騎士団に応援を頼むほかないでしょう」
有力騎士たちはざわつく。
「中央騎士団に応援を……?
こんな告発のビラがバラ撒かれている状況だ。中央騎士団なんて呼んでしまったら、俺らは痛い腹を探られる事にはならないか?自力で対処できるなら、そちらの方が良いと思うが……」
現状をよく分かっていない騎士の一人が疑問を挟む。
「いえ。ケインの報告や、町の現状を見るに、恐らく我々は結構な劣勢です。増援が無ければ、早晩壊滅させられてしまうでしょう……。
それならば、前もって、我々と話がついている中央騎士団の聖騎士に連絡を取り、善後策を取った方がよいでしょうね」
いかに凶悪なマズトン騎士団とは言え、ある程度の後ろ盾がなければ、汚職を円滑に行うことは出来ない。
従って、中央騎士団の最上級騎士達である一部の『聖騎士』達に、定期的に貢物を送り、書類の改竄や武器の横流し、麻薬密輸の黙認、などのお目こぼしをしてもらっている。
今回は、その汚職聖騎士たちの手を借りようというのだ。
普段、大金を支払っているのだ。こういう時くらい手を貸してくれてもいいだろう。
もっとも、これで凌げたとして、今後莫大な代償を請求してくるのは目に見えているが……。
「なるほど、中央騎士団にチクられる前に、こっちから先んじて相談しておくということだな。
それも悪くないが……。ここから中央都市まで、普通に馬車で行くと、1週間はかかるぜ。往復だと2週間だ。そんなに耐えられるのか?」
「まあ、馬車ならそうでしょうが、早馬を飛ばせば半分以下でたどり着けるはずです。
―――いかがでしょう?」
バガンが周囲を見渡すと、特に反対意見は無いようだった。
ジェリコー上級騎士は、上機嫌でそれに乗る。
「ああ、それはいい考えだ……。向こうの汚職聖騎士共とは、俺が話し合いをつけに行く。
当然だろう?俺が責任者で、このマズトンの代表なんだからな」
早口で捲し立てる。
この場にいる全員が、「ここから逃げ出したいだけなのでは?」という視線でジェリコー上級騎士を見ていたが、実際、聖騎士との会談を行うとしたら、彼以外にはできない。
一応の承諾を全員から取り付けると、ジェリコー上級騎士は、隠していた馬を引っ張ってくると、全員に告げる。
「いいか。これから俺は、バガンの言う通り、中央都市へ赴き、応援の約束を取り付けてくる。
それまで、マズトンを全力で死守しろ!いいな!」
命令を下された騎士たちは、僅かに不満そうな素振りを見せたが、危機なのは間違いがない。
渋々と従った。
「あとバガン、お前は俺について来い。じゃあ、後は任せた!!」
そう叫ぶと、そそくさと馬を駆り、マズトンを飛び出していった。
バガンはため息をつくと、残された有力騎士達に改めて伝える。
「私はジェリコー上級騎士について、中央都市に向かいます。
あとは、先ほども申し上げました通り、各所に散らばった戦力をまとめ、騎士団詰所に向かってください。そこで、ダドリーと合流し、籠城戦を頼みます。
増援を引き連れてくるのに、1週間程度はかかるかもしれませんが……」
そのことを伝え、バガンも馬に飛び乗る。
腹を蹴り、マズトンを飛び出す。
あとに残された騎士たちは、しばらくの間お互い顔を見合わせ、愚痴を言い合っていたが、
市内での散発的な戦闘音を聞き、使命を遂行すべく、市内に散らばっていった。