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事情聴取

「さて、落ち着いたところでこいつの話でも聞いておくか」

 ゴブリンを担いだダドリーは、人目を避け路地裏に回った。


 建物の角、死角に当たる場所で、担いでいるゴブリンを地面に投げ出した。


 そこそこの高さから投げ出されたゴブリンは、どさっと地面に落ちると苦しげな声を漏らす。

 さすがに、石畳ではなく、土が剥き出しのところに投げたようだ。



「い、いてぇ。もう少し手心を加えてほしいもんですな」


 ゴブリンがしわがれた声を上げる。


「ん?お前は……まあいい、名乗りな」

「けっ、手荒に扱いやがって……って、あ、旦那は……ダドリーの旦那じゃないですか!あ、どうもお久しぶりです。嫌だなあ。旦那に見られているとは、とんだへまをしちまった。いや、お見苦しいものを見せてしまって、申し訳ないですぜ。ええ、へへへ」


 ゴブリンは、ダドリーを認めると急にへつらうように両手をこすり始めた。


「え?ダドリーさん、知り合いなんですか?」

「ああ?何だこの小僧は。ダドリーの旦那にはもっと敬意をこめて話さんか!!これだから最近の若い者は……」


 ヴィクターは、ひったくり犯のゴブリンに逆に説教を食らって驚いた。

 なんでこのひったくり犯こんな態度でかいの?


「まあ、このゴブリンはアマルカってやつだ。この辺でのさばってる軽犯罪の累犯者だな」

「いやあ、ダドリーの旦那に名前を憶えて頂いてるってのは光栄だなあ。いや、ありがたいっ!」

「えっ、軽犯罪の累犯者って……えっ、逮捕とか収監とかは……」


 ダドリーは肩を竦める。


「何言ってんだ。この犯罪都市で一々こんな雑魚まで収監してたらいくら牢獄があっても足りねえだろ。事情だけ聴いて釈放だよ……まあ内容にもよるがな」

「そうだそうだ、この都市ならではのルールってのを覚えておくんだな小僧……ってか、このクソ餓鬼は何なんですか?ダドリーの旦那」


 アマルカと呼ばれたゴブリンは、ヴィクターの鼻面に指を突き付けてダドリーに尋ねた。


「あー、中央都市から異動してきた騎士だ。まあ、よろしくやってくれ」

「ああっ!?中央都市から!?ええっ!?この辺境の犯罪都市に!?」


 アマルカは大げさに両手を上げて驚いた。


「いやー、てことは兄ちゃん、これは明らかに降格人事だな、ええ?そんなお前、よっぽど出来が悪かったんだな?ああ?」


 急に愛想がよくなったアマルカは、ヴィクターの肩に手を回し、バンバンと手で叩く。

 事実だとはいえ、犯罪者にこうも馴れ馴れしく絡まれていい気分ではない。


「いや、ダドリーさん、この人犯罪者ですよね……?何らかの罰は必要では……」

「まあ、それはそうだ。おい、財布出せ」

「へ、へへ、お手柔らかに頼みますぜ」


 アマルカは卑屈に笑いながら、財布を差し出す。

 ダドリーは財布を開くと、


「しけてやがんな」


 と呟き、中から数枚の銅貨を引っ張り出すと、軽くなった財布を投げ返した。


 アマルカは、ペコペコと頭を下げつつ去っていった。




 ヴィクターは慌ててダドリーに言う。


「は、犯罪者から金品を受け取って見過ごすって、これ、職務違反……」

「ほい、これ半分な」


 ダドリーは、ヴィクターの手のひらに、数枚の銅貨を捻じ込んだ。


「え、これは……」


 手のひらの銅貨を唖然と見つめるヴィクターだったが、恐る恐るダドリーの方に顔を向けると、




 そこには背筋が凍るほど、今まで見せていたものとは異質の能面のような顔がそこにはあった。


「これで半分だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()




 ヴィクターの背筋を脂汗が伝い、喉がひりつく。時が凍り付いたように動かない。

 目を閉じることができない。開いたままの瞼はひきつり、角膜が乾いてゆく。


 ダドリーの瞳孔は底なしの洞穴のように深く開き、それを見つめていると雁字搦めに囚われてしまう錯覚を感じた。



 ヴィクターの呼吸は早く、浅くなる。まだ午後で日は高く上がっているはずなのに、ヴィクターの視界から光が消え去ってしまったように感じた。周囲の雑踏は消え、うるさい位の静寂が鼓膜を叩いている。




 闇がダドリーの顔を覆う。


 ―――靄のように闇が去ったあと、そこには今まで通りのダドリーの顔があった。



「さあ、いい時間だな。そろそろ詰所に戻って、今日一日の報告書を書いて終わりだ。帰ろうぜ」


 ダドリーは気さくに言うと、明るい笑顔をヴィクターに向けた。




 いったいこれは何だったのだ?俺の錯覚か?


 ヴィクターは今起こったことが信じられなかった。





 しかし、その思いと裏腹に、彼の手のひらには、手汗で禍々しく光る数枚の銅貨が握られているのだった。

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