表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/94

混戦

 ついに、城郭都市、マズトンの門は開かれた。


 オーク達が雪崩れ込む。



 門前で信じられないという顔をして、立ち尽くしている騎士の頭を殴り飛ばす。

 首は半回転し、有り得ない方向へ捻じくれた。


 門に殺到するオーク達に対し、霰のように矢が降り注ぎ、次々と射ち倒される。


 だが勢いは止まらない。



 そのうち、楼門の2階部分に駆け上がるオーク達が出始めた。


 そこに守備隊長がいるはずだ。


 隊長さえ潰せば、指揮系統は混乱し、一気に戦況は傾くだろう。



 だがその狙いは騎士側も分かっている。隊長を殺させるまいと、守備に就いている騎士たちが集まってくる。


 楼門内は狭い螺旋階段になっている。

 一気に駆け上ることは出来ない。また、その狭さもあって思うように武器を振るうことができない。


 一方、騎士たちは盾持ちが前に出て、オークの攻撃をいなし、その後ろから短弓を持った騎士が、確実に必中矢を浴びせかけてくる。



 楼門内の攻め手は停滞した。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 城門で激戦が繰り広げられているその後方。


 マズトン城門を正面に見る陣に、エギン、ギュナ、チェチーリアにヴィクターが戦いの行方を見守っていた。



「ふむ。無事城門を破れたか……。こちらの被害と騎士団の被害はどうなっている?」


 隠密部隊の一人に、エギンが尋ねる。


「はっ。こちらの被害は2千人程度です。対する騎士団ですが……死体は城内がほとんどであり、詳しくは確認できませんが、数百人は倒せたでしょう」


「なるほど。まあ、その程度の被害で城門を破れたのなら、及第点といったところだろうな」


 エギンが呟く。


 城門は破れたが、ここからが本番だ。

 都市の中は、それこそ敵の縄張りだ。これから、虎口に入り、そのまま臓腑を喰い破ってやらねばならない。



 これで、メラムトオーク族の兵力は1万と4千人程度になった。


 どうやら揺動作戦が成功し、城門に詰めている騎士の数が少なかったため、城門の攻撃は上手くいったようだが、市民のデモが鎮圧されれば、散らばっていた騎士がまた集まりだすはずだ。


 そうなると、まだマズトン内には、騎士が3万弱、”窮者の腕”が4万人程度いるはず。

 さすがに、この人数差では、勝機は無い。しかし―――。


 目を瞑り、祈る―――。

 それはエギンが滅多に見せない姿だった。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 デモを起こしている市民団体の対応に向かったダドリーは、拳を振り上げ怒号を上げる市民たちの前で顔をしかめていた。


 何だってこいつらはこんな文句を言ってきやがるのだ。


 しかし、自分たち騎士は、こんな奴らを守り、そこから甘い汁を吸うのが仕事だ。

 ―――やれやれ、これも仕方ないか。と、市民たちに声を掛ける。



「はいはい。いいですか。ビラに書いてある誹謗中傷は、我らマズトン騎士団とは一切無関係です。賢明なる市民の皆さんは、どうぞ虚言に惑わされず、冷静になって、ご自宅へお戻りください―――」


 気だるげに声を張り上げるダドリーだが、そこで、城門の方から凄まじい音が響いてきた。



 思わず振り返る。

 ほどなくして、伝令の騎士がダドリーの方へ駆けてくる。


 肩にはクロスボウの矢が突き刺さり、血が軍衣の袖を濡らしている。

 市民団体の面々は、血を見て騒ぎだした。


「だ、ダドリー様に伝令!オーク族が城門を破り、マズトン内に侵入!そのままの勢いで楼門に駆け上がり、守備隊長を殺害せんとしております!」


 伝令の騎士は、ほぼ悲鳴のような声で告げる。



 一瞬で冷酷な貌に変わったダドリーは、喚き続けている市民団体に向けて、静かな声で言い放つ。


「いいか?()()()()()()()()()()()()()()()()()()




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 マズトン中心部が見下せる、小高い丘。

 その頂上に、”融解連盟”代表のテレサが立っていた。


 そのそばには、古参幹部のコーと、弟のピエールもいる。



 テレサの視界には、城門付近で争う、騎士団とオーク族の姿が見えた。



 今は一進一退といった感じだが、攻城で兵力を削がれている上に、今は散らばっている騎士団が集合し、さらに”窮者の腕”によって増援が送られれば、いかにオーク族と言え、敗色濃厚だろう。



「……どうなさるのですか?」


 コーが、そっとテレサに問う。


「分かっとるやろ?もう、うちらは戻れへんのや」


 小さく答える。




 さらば、今までの、私たちのマズトン。


 そして―――。ようこそ、新しいマズトン。



 テレサは、手にした大型の爆竹に、魔術で火をつける。

 発火点まで温度を上昇させるのは、難度の高い技術ではあったが、テレサはそれを行うことができた。


 導火線が音を立てて短くなってゆく。



 それを勢いをつけて、思いっきり宙に放り投げる―――。



 ゆっくりと放物線を描き、爆竹は飛んでゆく。




 そして、炸裂する。



 けたたましい音がマズトン中に響き渡る。




 戦闘中の騎士たちは、何事かと宙を見た。


 一方、オーク達は意に介せず、余所見をした騎士の頭を叩き潰した。




「行くで……みんな」



 テレサは、フードを深く被りなおし、両手に短剣を携える。


 コーは短剣を逆手に持ち、テレサの後に続く。


 ピエールは、大型のクロスボウを取り出し、その場に伏せた。自身の体を保護色の布で覆う。





 爆竹の音を合図に、マズトンの町中から”融解連盟”構成員が飛び出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ