戦争開幕
城壁に立つ騎士たちは、地平線よりこちらへ迫ってくるオーク族に、恐怖を感じていた。
まるで悪意そのものといった緑の塊が、見る間に大きくなってゆく。
守備隊長が、迎撃の指揮を執っている。
「いいか!射程圏内に入ったら、奴らにありったけ矢をぶち込んでやれ!
まず城壁に近づけるな!城壁に張り付かれたら岩と油壷で頭をカチ割ってやれ!
敵兵の数は約2万!迎撃は十分可能だ!焦るんじゃねえぞ!」
守備隊長の檄に、騎士たちは落ち着きを取り戻す。
いくら強靭なオーク族とはいえ、殴れば死ぬ。
それは先だってのキリレアでの戦いで証明されたばかりではないか。
また、敵の数は2万か、それに満たない程度だ。
最近、詳しく理由は知らないが、マズトン中心地に騎士が集められており、騎士だけで3万人程度兵力がある。防衛側でこの兵力差だ。そうそう後れを取ることもないだろう。
「……よし、オーク共が射程圏内に入ったな。みんな、撃てっ!!」
守備隊長が腕を振り下ろす。
それに呼応し、騎士たちは弓を絞り、矢を放つ。
放たれた矢は、緑の悪意の中へ吸い込まれてゆく。
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オーク達が高く掲げる盾へ、幾本かの矢が突き刺さる。
その膂力でもって、大きく、厚い盾を携帯しているため、守備力はなかなかのものだ。
先遣隊の先頭に立つオーク達は、守護兵の役割を持っている。
装備は大盾のみだ。後ろへ続く工作兵を体を張って守っている。
また、数本が体に食い込んでも、急所でもなければ怯むオーク族ではない。
先遣隊がある程度の戦列に着けると、盾持ち兵の後ろで、大きな木の板を運搬していた工作兵達が、地面にそれを突き立てる。
中央に銃眼が設えられたそれは、即席の防壁となる。
オーク族の主力遠隔武器はクロスボウであり、仰角で城壁上にいる敵兵へ撃ち込む場合、近くまで寄る必要があるため、この特攻じみた方法をとったのだ。
防壁を立てる間にも、無防備になったオークが数人撃ち倒される。
それに構わず、敷設を第一に行動する。
ある程度の規模に達すると、クロスボウの射手が防壁の後ろに滑り込む。
銃眼から城壁上の騎士を狙い、引き金を引く。
勢いよく飛び出た矢は、騎士の兜ごと頭を貫いた。
オーク族のクロスボウは、種族に合わせ張力が強めに設定されている。
一般騎士のつけているような兜では、紙のように貫かれてしまう。
矢の射ち合いが壮絶に続く。
仰角が大きいので、防壁の上から矢がたまに飛んでくる。
また、純粋な射ち合いでは、クロスボウはやはり通常の長弓と比べ、連射力に劣る。
オーク側の被害が徐々に拡大してきた。
それでも、城壁上の騎士は次第とその数を減らしていった。
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「くそっ、増援はどうした!今いる守備隊だけでは手数が足りん!」
守備隊長が叫ぶ。
伝令の騎士が焦りの表情で答える。
「報告です!都市内の騎士は、デモを起こしている市民団体の対応で混乱している模様!
沈静化させたのち、合流するとのことです!」
「何だと!?この厳しい時にデモの対応か……。
まあ、まだ城門への攻撃は無いが、このままではまずいかもしれん……ん?」
守備隊長は目を凝らす。
クロスボウの攻撃で、騎士側の射手を減らしたオーク族は、大きな丸太を運んできた。
それは丸太と周囲を覆う屋根がついている。
攻城兵器であることは確実だ。
「ま……まずい!みんな、あの攻城兵器……破城槌を近づけさせるな!屋根の隙間を狙って運び手を殺せ!近寄って来たら油壷をぶつけて燃やせ!」
オーク族の射手と撃ち合っていた騎士たちは、破城槌に目標を変える。
自らが的から外れたと感づいたオーク族の射手は、勢い付いて積極的に撃ってきた。
破城槌に気を取られた騎士側の射手は、オーク達に撃たれ、さらにその数を減らしてしまう。
その間に、破城槌はもう城壁の目前まで迫ってきていた。
「くっ……まずい!城門が破られてしまう!」
守備隊長が悲痛な叫び声を漏らした瞬間、一人の騎士が城壁へ駆け上ってきた。
ケインだ。
「待たせたな!増援だ……。戦況はどうなってる!」
その言葉を聞いた守備隊長は、目を輝かせる。
「増援か!助かった……オーク側の攻城兵器がすぐそこまで迫っている!
こっち側の射手は射ち合いで大分消耗してしまった……。今からでも敵を射ち殺してくれ!」
「ああ、分かった……。お前ら!倒れてる奴らから弓を取ってオークの奴らにお見舞いしてやれ!行くぞ!」
ケインはそう叫ぶと、自らも幕壁へ飛び出し、弓を取る。
後ろに続いた増援の騎士たちも同様にする。
増援を得て勢いを盛り返した騎士たちは、矢の雨をオーク族へ浴びせかける。
しかし、城門を間近にしたオーク族の勢いは止められない。
破城槌の運搬手も数人射ち倒されるが、すぐに次の運搬手がやってくる。
ついに破城槌が、マズトン城門へ到達する。
―――衝突する。腹の底まで響くような音が鳴り、その一撃で閂が歪み、門にヒビが入る。
油壷が投下され、破城槌は炎に包まれたが、それで止まるようなオーク族ではない。
炎に包まれたまま、何度も衝突を繰り返す。
燃えながら城門へ突撃する―――。まるでそれは、修羅のようだった。
そして何度目かの衝突で、ついに門が破壊される。
ついに地獄の門は開き、惨劇の宴は始まった。




