表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/94

初戦の行方

 戦いは続き、空は明るんできた。


 時が経つにつれ、出血の激しいオーク族の動きは鈍っていった。

 思いがけない反撃に狼狽えていた連合軍ではあったが、この機を逃さず、攻勢を強める。


 戦いの趨勢は固まりつつあるように見えた。



 指示を出しているジョゼの顔に、微かに安堵の表情が浮かぶ。

 まるで亡者のようにオークが突っ込んできたときは焦ったが、奴らもやはり生き物だったということだ。このまま攻撃を加え続ければ、必ず倒しきることができる。


 動きが鈍るオーク族に対し、容赦ない殲滅の指示を出す。

 連合軍は、犠牲を出しつつも、オーク族を順調に撃滅してゆく。




 動けるオーク族が残り数百人まで減少した。

 そいつらの動きも、もはや緩慢だ。


 連合軍側の人数も2千人程度まで減ったが、恐らく、これで勝ちは決まっただろう―――。



 ジョゼが胸を撫で下ろしかけた、その時。



 集落の中心に近い場所で、()()()が巻き起こった。



 はて……?まだ火薬が残っていたのか?

 と、ジョゼは懸念に感じてそちらに視線を向ける。



 だが、そこにあったのは、爆煙ではなく、()()だった。



 何が起こっているのか、分からなかった。



 爆音の中心にいたのは、異様な化け物だった。

 いや……よく見ると、それはオーク族の男だと分かるのだが、それが纏う雰囲気は、人のそれではなく、知性の一切を捨て去った、暴力そのものの化身に思えた。



 体中が血に染まっている。体のあちこちに傷を負っており、失血死していても不思議ではないほどだ。

 目は不気味な光を放ち、体毛はオオカミのように逆立っている。

 純粋な殺意が、瘴気のように彼の周りに纏わりついている。



 そして、それが握っている肉片が、人の姿のなれの果てだということに、しばらく気づかなかった。



 まさか、とジョゼの背筋が凍る。


 もう爆薬は残っていないはずだ。とすると……。


 あの爆音は、()()()()()()()()()()()()だとでもいうのか?



 そのオークは、雄叫び―――と言うより、もはや咆哮―――を上げ、近くにいた騎士へ襲い掛かる。


 その騎士は、抵抗をする間もなく、二つに裂かれた。それも()()()だ。



 思わず、呆然とその様子を見つめる。

 動くことは出来なかった。



 その間に、そのオークは、近くの兵士を手当たり次第殺戮し始めた。


 それも、敵味方問わずだ。



 騎士だろうがゴブリンだろうがコボルトだろうがオークだろうが、どれにも等しく死をバラ撒いてゆく。


 ジョゼは、本能的に危機を感じる。あれは、()()()()()()()()()()()()



 思わず、叫ぶ。


「皆……最優先であのオークを殺せ!」


 連合軍は、その命令に従い、弓を振り向けたが、そのオークのあまりの気迫に、たじろいでしまっている。弓を取り落とし、頭を抱えてうずくまる者もいた。



 そして、そのオークは、叫び声を上げたジョゼの方を、ぐるりと首をひねって見つめる。


「ひぃっ……」


 ジョゼは、情けない声を漏らし、その場にへたり込む。


 そのオークは、全力でジョゼの方に駆けてくる。誰も道を阻む者はいなかった。


「た、助け、助けて……」


 腰が抜けたまま、逃げようと肘を使って動き出すが、当然逃げ切れるものではない。



 そのオークは一瞬でジョゼの元に走りつくと、そのままの勢いでジョゼの頭を()()()()()


 熟れた果実が割れるように、ジョゼの頭が四散する。



 周囲の騎士たちが悲鳴を上げる。


 それを聞き、そちらに顔を向けたオークだったが、すぐに顔を顰めると、近くの森へと駆け去った。


 長いように感じたが、このオークが現れてから立ち去るまで、3分も経っていなかった。





 その後、指揮官を失い、一時統率を失いかけた連合軍だったが、副官が指揮を引き継いで執り行ない、無事にオーク族の殲滅に成功した。


 4千人のオーク族に5千人の連合軍で奇襲を仕掛けたものの、指揮官であるジョゼが死に、最終的に連合軍の兵士は千人以下まで減っていた。


 生き残った者も満身創痍で、立っているのがやっとといった様相だ。



 副官は、戦果を報告すべく、連合軍を再編している。


 真夜中に始まった戦闘だったが、すっかり夜は明けていた。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 エギンは、深く溜息をつく。


 一晩中続いた戦闘が、ようやく終わりを告げた。


 結果として、騎士団へ大損害を与えた挙句、逆賊は壊滅したということになる。



 しかし―――、

 ダラードだけは、逃げ延びたのだな、とエギンは思い返す。


 瓦礫から這い出し、辺りを殺戮して回っていたダラードは、明らかに狂気に取り憑かれていた。


 奴が今後どうするつもりかさっぱり分からないが、警戒が必要だろう。



「エギン様、それで、どういたしましょうか?

 集落へ報告に戻りましょうか?」


 配下の隠密部隊員が伺いを立てる。


「ああ、そうだな。お前たちは、集落の皆に、この戦いの報告に行ってくれ。俺は、マズトンの”融解連盟”の元へ行って、今後の対応を協議してくる」


 承知、と呟き、隠密部隊員は消える。



 エギンは、首を回し、一息ついた。



 ついに、運命の歯車は回りだした。しからば、立ち止まっている暇はない。


 運命の女神に微笑んでもらうよう、全力で動くのみだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ