蛇蝎相搏つ
白い閃光は夜空を切り裂き、静謐な空気を激しく揺さぶる。
衝撃と轟音は、離れた位置で偵察しているエギンたちにも伝わってきた。
ついに、逆賊と騎士団の激突が始まったのだ。
激しく燃え盛る炎で、集落の様子がよく見える。
自分たちも見つかりやすくなっているはずなので、もう少し下がった位置に移動し、監視を続けることにした。
「ははは!暴虐を誇るオーク族もこんなもんか?あっさりと伏兵に掛かるとは……」
ジョゼは、高らかに笑う。
騎士団の武器庫にあった火薬を持てるだけ持ってきて仕込んだのだ。
案の定、相当な爆発になった。全滅はしないかもしれないが、与えたダメージは大きなものになるだろう。
まだ、もうもうと煙が舞っている。
さて、どれだけの損害を与えたのか、と、目を凝らす―――。
すると、立ち込める煙を振り払い、オーク達が、てんでバラバラではあるが、包囲網へ向かって突進してきた。
その数は数十人……、いや、百人は越しているだろう。
「ばっ……馬鹿な!?あれだけの爆発を食らい、なお突進してくるだと!?
くそっ……、おい、ぼーっとするな!さっさと射ち殺せ!!」
ジョゼは、慌てて命令を下す。
配下の兵は慌てて弓を引き絞り、向かってくるオークに向かって矢を放つ。
素早いスピードで移動するオーク達は補足しづらく、命中率はいまいちだったが、弾幕の濃さで数本は目標に命中した。
しかし―――、爆発で手負いになったオーク族は脳内麻薬が垂れ流し状態になっており、多少の傷ではもはや止められない状態になっていた。
それでなくても、オーク族の中でも粗暴な者たちの集まりなのだ。これしきの傷を気にする者たちではない。
悲劇なのは、その事実を連合軍は知らなかったということだ。
体中に矢を生やした状態で、ついに一部のオークは包囲網の端へ到達する。
本能のままに棍棒を振りかざし、弓を構えていた騎士に振り下ろす―――。
騎士の頭がスイカのように弾け飛ぶ。
頭蓋骨の骨片と、脳髄や脳漿が、放射状に飛び散った。
オークの一撃の前には、ちんけな兜は紙切れ同然だった。
それを目にした連合軍は、恐慌をきたす。
弓を捨てて、逃げようとする者も出始める。
「なっ……、おい!貴様ら、逃げるんじゃねえ!殺せ!射ち殺せ!!」
ジョゼの目は恐怖で飛び出し、今にも零れ落ちそうだ。
その叫びも虚しく、包囲網に亀裂が生じ始める。
手負いで理性を失ったオーク族は、有り得ないほどの耐久力と打撃力で連合軍を破壊してゆく。
「くそっ!近寄られたら剣に持ち替えろ!怯むんじゃねえ!」
ジョゼは檄を飛ばすが、一応、自分らの意志でやって来た騎士団と違い、”窮者の腕”の士気低下は著しいものがあった。
一部の”窮者の腕”組員に、弓を放り出して逃走を始める者が現れる。
「ま、待て!敵前逃亡は重罪だぞ!おい!射ち殺せ!!!」
当然ながら、この逼迫した状況で、逃亡した味方に弓を向ける余裕などあろうはずもない。
連合軍は、じりじりとその数を減らしてゆく。
しかし、さすがのオーク達とは言え、無敵ではない。爆発の怪我や、弓矢の蓄積ダメージなどで、少しずつ、確実に仕留められてゆく。
そのころになって、ようやく火薬の白煙が薄れてきた。
ジョゼは、周囲に慌ただしく指示を飛ばしながら、戦場の詳細を確認する。
当然ながら集落の中心部が一番爆発の影響が大きいようだ。
数百人のオークが、ボロ切れのように倒れている。中には、四肢が吹っ飛び、原形を留めていない者もいた。
しかし、それから百数十メートルも離れた位置になると、死体の数は目に見えて減る。
結局、中心部近くの数百人以外は仕留められず、仕留めきれなかった分は手負いとなり殴りかかって来たということになる。
「ちっ……、化け物みたいな体力の奴らだな」
現在生き残っている戦力を見る。
オーク族の戦力は、残り2千人を下回った程度だろうか?弱ってきている兵士も多いはずだ。
また、バラバラに突撃してきたので、今は各個で連合軍に囲まれている状況だ。
それに対し、連合軍の兵力も減ってはいるが、まだ3千人と少しはいるだろう。しかし、こちらも士気の減退が認められる。
ジョゼは舌打ちをする。
まさか、不意打ちをかまして、成功させたのにここまで苦戦するとは思わなかった。
ここまで来た以上、オーク族を壊滅させないと帰るに帰れない。
なに、まだ兵力の差は千人以上あるのだ、押し潰してやればいい―――、と、気を取り直す。
「さあ、気持ちで負けるな!囲んで叩け!一人づつ確実に殺せ!」
連合軍の真ん中に突っ込んできたオーク族をあえて引き込み、四方から囲み、剣や槍で突き殺す。
戦術が確立し、オーク族を徐々に押し返し始めたことで、恐慌が起こっていた連合軍は、少しの落ち着きを取り戻していた。
「よし……行けるぜ、このままオークをぶちのめせば、俺の評価も立場も上がるってもんだ。
俺もさっさと上級騎士になって、甘い汁を吸いたいもんだな……」
ジョゼは、引き攣りながらも無理に笑みを浮かべる。
―――キリレアの中心部。
数多くのオークの死体が転がる中、瓦礫がひくり、と震える。
上の方のレンガの欠片が、ころころと転げ落ちる。
次第に、大きい瓦礫も動き出した。
果たして、灰色の瓦礫の中から、血に染まった巨体が、のそりと起き上がる。
ダラードだ。
彼の瞳からは、既に知性の光は露と消え、正気を失っているのが見て取れた。




