計画合意
「ああ……同意がとれてよかった。また直前になったら使いの者を送るわ。
その時になったら、うちも動ける状況やないやろから、弟のピエールを行かせると思う。ギュナは見たことあるはずやが、顔は分かるか?」
テレサが尋ねると、ギュナは頷く。
「よし。あ、それとやけど……
あんたらオーク族は、抗争を行う際、ほぼ必ず暴行―――まあ、有り体に言えば……、略奪を行うそうやが、今回の戦闘に関しては、それを一切禁じてもらう……ええな?」
「な、なにぃ!?」
ザンヴィルは驚きのあまり腰を抜かし、椅子から転がり落ちそうになる。
「我々オーク族にとって、暴力の解放と略奪の執行こそが抗争の原動力だ……。それを禁ずるとは、本末転倒だ!」
拳を机に叩き付け、力説する。
それに対し、テレサは険しい目つきでザンヴィルを睨み据える。
「そうか?……なら、今まで通り周囲の小さい集落でも虐めとけばええやろ。
……マズトン規模になると、そんなちんけな話では通らんくなるんや。
ええか、”革命軍”は、悪逆非道な騎士団を退治し、清浄なマズトンへ戻したからこそ、新たな支配者層に居座ることができるはずや。
蹴落とす最中に、略奪を一般市民に見られでもすれば―――そもそも一般市民に手を出す可能性もあるのか―――、民衆は騎士団の代わりに、オークの恐怖政治が始まるだけやと認識するやろう。
むしろ市民に直接的な害が見えにくかった分、騎士団の方が良かったと言われかねん。そうなったらオークの天下はそこで終わりや。また、中央騎士団も本気になって潰しにくるやろうしな。
あんたらが本当にマズトンを手に入れたい、と言うんなら……、紳士であれ。
それが出来んなら……、悪いが今からでも降りさせてもらう。これはそこまで重要な話や」
ザンヴィルは、じっとテレサの話を聞いていた―――
彼は、伝統的なオークではあったが、人一倍、名誉欲や権力欲が強かった。
それゆえ、直接的な欲求よりも、マズトンを手中に収める方を選んだ。
「……ふむ、それも一理ある……か。よかろう。戦士の皆には、そう伝えよう。
今回の戦闘では、略奪は一切無しだ」
テレサは、ほっとした顔を見せる。
「ほんまか?安心したわ……。じゃあ、それで行くってことで、細かいところを詰めよか」
テレサやザンヴィルを始め、エギンやギュナ、チェチーリアも加わり、当日の細かい打ち合わせが始まった。
その間、ヴィクターは机に座り、とりあえず話を聞いているだけの置物状態となっていた。
1時間程度話し合いは続いた。
話がまとまると、テレサは大きく伸びをした。
「よし……これで、当日の流れは決まったな。うちは早速戻って準備を始める。
あんたらも抜かりが無いよう、しっかり準備してや。じゃあ、頼むで」
テレサが帰ろうとすると、ザンヴィルが引き止める。
「まあまあ。話がまとまったんだから、前祝の酒宴と行こうぜ!こういう時は士気を上げんとな!」
テレサは呆れて言葉を返す。
「アホ抜かさんといてや。馬で帰るのも半日かかるんや……準備の時間もギリギリやし……
まあじゃあ一口だけもらうわ。何の酒なんや?」
「うむ。ギラースの酒だ。これがまあ、まろやかで美味いのだ。チェチーリアが特に好物なんだぜ」
ギュナが、運んできた陶器のゴブレットを一人一人に手渡す。
「へえ。可愛らしいもんを飲むんやな……。」
テレサは一息で飲み干すと、ギュナへゴブレットを返す。
「悪いな。本当は付き合いたいところなんやが、準備を急がなきゃいかんのも本当や。
祝杯はまた、全てのカタがついたらあげようや」
「まあ、それもそうか……おい、ギュナ。テレサ女史をマズトンの近くまで送ってやってくれ」
ギュナは頷き、テレサを先導し、会議室から立ち去った。
それを見届け、ザンヴィルはため息をつく。
「ふむ……道理があるとはいえ、戦士に略奪を控えるように言うのは骨が折れるな。皆、納得してくれるといいが……」
室内にはエギン、チェチーリアがいたが、その呟きには特に誰も反応しない。
何か返事した方が良いかと思い、ヴィクターが言葉を返す。
「オーク族の戦士の方々は、ザンヴィルさんが言えば我慢できるんですかね?」
「ああ。このメラムトオーク族では、上位の意見は絶対だ。この戦闘の間は堪えてもらうとする。
納得するかは別だがな。マズトン戦の後、息抜きに地方の集落でも襲いに行かせるか……」
「なるほど……娼館とかでガス抜きは出来ないものですかね?」
「そういう訳にもいかんさ。特に俺らのような侵略を主な生活の手段にしているオーク族にとっては、これは文化のようなものだからな……。体に染みついている、って感じだ」
「でも、中には土着して、皆と仲良くやっとるオーク達もいると思いますが……」
「俺たちは、飼いならされて牙を抜かれた奴らとは違うってことだ。というかお前結構ぐいぐい来るな」
「え?そうですか?」
ヴィクターはきょとんとする。
「うわ、お前顔真っ赤だな。そんなに酒に弱かったのか……。ん?お、おい、大丈夫か?おい!」
飲んだギラース酒が体に回ってきたようだ。
どうやら気さくに話しかけてしまったのも酔いが原因のようだ。
なんだか楽しくなってくる。
ははは、と笑うと、いきなり後ろにぶっ倒れた。
「なんだこいつ……へらへらしたと思ったら倒れやがったぜ。
まあいいか。チェチーリア、こいつを客室へ運んでおいてくれ。
エギンは俺と来てくれ。用兵の相談がしたい……」
ザンヴィルは、エギンを連れ、会議室を出てゆく。
一人残されたチェチーリアは、ギラース酒を舐めつつ、床で伸びているヴィクターに視線を向ける。
顔色が青くなっているわけでもないので、水を飲ませて大人しく寝かせておけば問題ないだろう。
しかたないな、と呟き、ヴィクターを担ぎ上げて客室へ運ぶ。




