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マズトン攻撃計画会議

「さあ……とりあえずこれで一段階計画が進んだわけだ。ここでひとつ、今後の展開を相談するとしようぜ」


 ザンヴィルがギュナを伴い、会議室へ向かう―――


「おいおい、”革命軍”頭首様を縛り付けたままやで……。ああ、もう何か標準語使うの面倒やわ……方言のまま接してええか?あんたあんまその辺気にしなさそうやし」

「ん?ああ……そっか。構わんぞ。意味は通じるしな。」



 ザンヴィルは、ヴィクターを縛る縄を解きつつ答えた。


 いや、解けていない。



「あれ?おかしいな。こうか?こう結んだんだったか?」


 ザンヴィルが力任せに縄を引っ張る。


「あ、痛い痛い痛い!締まってます!縄締まってます!」


 馬鹿力であるため、足が千切れんばかりに締まる。


「ふむ……我ながら上手く縛ったもんだな」


 目を閉じて、満足げに頷く。



「……何を言っているんですか。私が解いておくので、お兄様たちは先に行っていてください」


 チェチーリアが、呆れたように前に出る。


「お、そうか。正直足ごと千切ってやろうかと思っていたところだ―――。冗談だ。では頼んだぞ」


 ザンヴィルは、手をひらひらさせながら部屋を出る。

 ギュナがそれについて部屋を出ていく。



「お、おいおい。ヴィクター、大丈夫か?足もげてへんやろな」


 テレサが心配そうに寄って来た。


「あー、いえ、ご心配なく。多分まだついてる……と思います。なんか感覚無くなってきましたけど……」


「お兄様の適当なところにも困ったものです……。解きますよ」


 チェチーリアが、ヴィクターの足元に屈む。

 縄を手に取り、結び目に手を掛けた。



 ……しばらくあれこれ引っ張っている。

 ん?とか、あれ?とかいう声は聞こえるが、


 しかし、解ける気配は無いようだ。



「あ……あの。チェチーリアさん……?」


「何ですか?」


「えーと、ひょっとして、解けない、とかですか?」



 ヴィクターが恐る恐るそう聞くと、むっとした顔を向ける。


 すると、やおら両腕に力を込めて、結び目とは違うところを思いっきり引く―――


 ばん!という破裂音と共に、ヴィクターを縛っていた荒縄が千切れて落ちた。


 両腕を振りつつ、チェチーリアは澄ました顔で微笑んだ。



「解けました」




 メラムトオーク族の会議室。


 広い洞窟の一部屋を、そのまま利用している。剥き出しの岩肌に、何本かの松明が突き刺さっている。どこかに隙間が空いているらしく、松明の炎は揺らめき、空気が循環していることを示していた。そのお陰か、洞窟内とは言え、そこまで息苦しさは感じなかった。



「おお、遅かったじゃねえか」


 ザンヴィルが手を上げる。


「まあ、あんたの結び目のせいでもあるけどな……さあ、次に打つべき手を考えよか」


 テレサが椅子に座る。


 ヴィクターも足をさすりながら椅子に腰かけようとする。

 その際、チェチーリアがそっと椅子を引いてくれた。



 まず、テレサが口火を切った。


「んで、マズトンの現状なんやが、あんたらオーク族が幌馬車を襲撃したんはバレとる。それで、あんたらに対抗するため、都市中から戦闘員を掻き集めとる最中みたいや」


 ザンヴィルが、楽しそうに返す。


「なるほどな……。奴らが一点に集まっている……。それはつまり、一網打尽にできるチャンス、ってことだな?」


「なんでそんな楽観できるのか謎やが、一応そういうことになるな。

 知らんといかんで言っておくが、都市攻めは楽なことやないで。特に、マズトンは城郭都市の一面も持っとる。城壁や側防塔や投石器なんかの防衛設備がわんさかあるんや。人数で互角くらいでは、圧倒的にボロ負けすること間違いなしやぞ」


「安心しろ。その点は、ヒトの書物を読み、勉強をした。俗に言う、『攻城兵器』も開発したのだ」


「なに?……それはすごいな。どんなもんなんや?」



 テレサは興味深そうに尋ねる。


「ああ……その名も丸太だ。

 太い、大きい丸太を用意し、複数人で構え、城門に特攻してぶっ壊して開城させる……なかなか考えただろう?」


「……なるほど。まあ、スタンダードな攻城法やな。一応は知っとるようで安心したわ」


「それに、いざ我々が攻めるときは”融解連盟”も内部から呼応して戦闘に参加するんだ。分の悪い賭けでもないだろう……だよな?」


 ザンヴィルは念を押すように同意を求める。


「ああ……。そうやな。でも、呼応して戦闘するにしても、オーク達が城門を破ってからや。それでなくてもうちらは袋の鼠で、あんたらほど戦闘に長けとるわけやない。ええよな?」


「ふむ、……まあ、仕方ないか。それで構わん」



「その代わりに……と言っては何やが、やはり攻め込む前の工作は重要や。これに関しては、”融解連盟”が全力で当たらせてもらう」


「それこそがこいつを拉致した意義だな……。具体的にどうするんだ?」


「さっき、ヴィクターから聞いた騎士団の悪行を、ビラに書き記す。んで、それをマズトン中にバラ撒いておくんや。そこまで騎士団に詳しくない一般市民には、効果覿面やろな。

 いくつかで散発的なデモも起こるかもしれん。また、”融解連盟”は、市民のデモも扇動するつもりや。すると、騎士団も、その対応に追われることになるやろう。


 それは大きな隙となる。その混沌の中、”革命軍”は、救世主としてマズトンを蹂躙し、清浄化する……とまあ、これが筋書きや。当然、中央都市にもビラは同時にバラ撒いておく。でないと中央騎士団からまた更に攻められる可能性が高まるからな」



「なるほど……くく、具体的な話になってきやがったぜ……。作戦実行日はいつだ?」


「せやな……ビラの製作、バラ撒きの時間、戦闘員の準備諸々含めて……あと1週間。それでやり切ろうと思う。ええな?他組織への情報バレの危険性を考えると、計画の中止はできへんで」


「構わん……我らメラムトオーク族は、常に臨戦態勢だ。その1週間で、集落中の戦士を集めて、マズトンへ攻め入ることを確約しよう」



 ザンヴィルが、これまでにない真剣な面持ちで宣言した。

 テレサが、それを認め、硬い表情で頷いた。

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