尋問への合流
”融解連盟”代表であるテレサは、アジトである喫茶店・「ジュマタノ」で情報を整理していた。
このところ、”窮者の腕”とマズトン騎士団の動きがどうもキナ臭い。
奴らのマズトン内での活動が目に見えて減ったのだ。その癖、各地からマズトン中心地へ戦闘員が集められている気配がする。
一瞬、他の犯罪組織、つまりは自分達”融解連盟”か”魔術の贄”かへ攻め込んでくるつもりなのかと焦ったが、どうやらそういう訳でもないらしい。
”窮者の腕”に潜り込ませている純ゴブリンのスパイに話を聞いたところ、どうやらメラムトオーク族
へ対抗するために集められているようだ―――、ということを言っていた。
どうやら、騎士を拉致する際に、身元を隠そうだとか、そういった事を一切考慮せずに襲撃したらしい。
さすが脳筋のオーク族らしい、と、半ば呆れつつ感心した。
だが、襲撃したものが何者かバレている以上、事を急いで進めなければならない。
まだ、”融解連盟”と手を組んでいるとは思われてはいないようだが、どうせ時間の問題だろう。
テレサは爪を噛む。
できれば、事を始めるまでは、隠密に進めたかったことは否めないが、始まってしまった以上、このまま賭けを続けるしかないのだ。とりあえず、騎士を拉致できたのなら、早いうちに連絡を取り、今後を協議しなければならない。
使者を誰にしようか考えていたところ、「ジュマタノ」のドアベルが涼やかな音を立てる。
「ん?誰やいな。いらっしゃい……」
テレサがドアの方に振り向くと、外套のフードを目深に被った人物が立っていた。
その人物は、すっと店内に入ると、後ろ手でドアを閉める。フードを脱いだ。
「お久しぶりです―――、ギュナです」
テレサは肩の力を抜く。
「ああ……なんやあんたか。どうも、拉致は一応上手くいったようやな。でもあんたらの正体はバレバレみたいやで」
「ええ、拉致は上手くいきました」
ギュナは誇らしそうに胸を反らす。
テレサより二回りは大きな胸が揺れる。
「いや、正体がばれとる時点で、そんなに褒められたもんではないんやが。……まあ、拉致が成功したんで、とりあえず良しやな」
「ええ、まさに。拉致が成功したので、一度テレサ様にも尋問に同席して頂きたく、参上いたしました」
「ふむ。せやな、騎士の話を聞いて、具体的に次どうするかを決めやなあかんわな……いつ出るんや?」
「はい、今からお越しください」
「へ?今?急やな……まあ善は急げやし、ええけど……ピエール、コー、行ってくるで」
テレサは、店内にいる弟と幹部に告げて、外へ出る。
当然、用心のために外套をすっぽりと被っている。
メラムトオーク族の集落は、マズトンから馬に乗って半日程度の場所にある。
今回は、テレサ一人だけで向かうことにした。大勢でマズトンを空けると、いらぬ疑いを招くことになると思ったのだ。
オーク族の集落に入り、中央の洞窟へ案内される。
この中に、尋問室があるんだそうだ。
ギュナ先導で、洞窟の中を進む。
洞窟の中は、広間もあり、細道もありと思った以上に広く、先導役がいないと迷いそうだった。
「こちらです。どうぞ」
ギュナが、部屋の間仕切りである、帳をそっとかき分ける。
少し広めの部屋の中心に、項垂れた青年が椅子に縛り付けられている。
顔は見えないが、あの髪は―――?
(ん?どこかで見たか……?)
目を凝らし、よく見ようとすると、横からザンヴィルがぬっと姿を現した。
「やあやあ。どうもテレサさん。お久しぶりですな」
ザンヴィルは握手を求める。
「おっと……ああ、お久しぶりです。騎士を無事生け捕りしたのはさすがですね」
握手に応える。
「ええ、誇り高きメラムトオーク族にかかれば、こんなものは朝飯前といった所ですな。もっとも、拉致したのは夜中ではありますが……。
さて、こいつですが、昨日、前もって少しどついてやりましたが、特に何も吐きませんでしてね。今日、改めて尋問しようと思っていたのですよ。ぜひ、テレサさんもご同席なさって下さい」
「なるほど。どこまで聞き出せるかで、今後の展開も変わってきますからね……お互い、協力して聞き出していきましょう」
ザンヴィルは頷き、縛られた青年に近づく。
その傍らには、一人の少女のオークがいた。テレサは疑問に感じ、ギュナへ聞いた。
「アレは誰や?何でこの尋問の場におるんや?」
「ああ……テレサ様は直接お話になったことはありませんでしたね。彼女はチェチーリアといって、ザンヴィルさまの妹君であらせられます」
「へえ。なるほどねえ……あんま似とらんな」
ザンヴィルが巨大な、まさにオークといった体型をしているのに対し、妹であるチェチーリアは筋肉質でありながらも、すらりとした四肢を持っていた。
彼女は腕を組み、複雑な表情をしていた。
「さあ、起きろ。役者が揃ったから、尋問を始めるぜ」
ザンヴィルが、青年の髪を掴み、前を向かせる―――
テレサにその顔が見える。
「あ!」
テレサは素っ頓狂な声を上げた。
彼は―――、他の都市から転勤してきた、という青年だった。
その声を受けて、青年もテレサの方を見る―――。
青年も驚いた顔をしている。
ザンヴィルは、不思議そうに両者の顔を見比べていた。