狩り
やかましい銅鑼の音が、真夜中の田舎道で響き渡る。
跳ね起きたヴィクターは、その視界の隅に横たわるゴブリンを認める―――
胸から矢羽が飛び出し、口の周りを血で染めている。
それが何なのかを認識した瞬間、ヴィクターの背筋が凍る。
眠気は一瞬で吹き飛んだ。
「バ、バジルさん!これは一体……!?」
「知らん!とりあえず、身を隠して、態勢を立て直すぞ!
幌馬車から弓矢を持ち出すのを忘れるな!」
慌てて弓矢を引っ掴み、一行は、身近な大岩の隙間に潜りこむ。
その間に2人のエウロス社社員が射たれ、倒れた。
岩陰に避難し終わると、飛んでくる矢の量は減った。
今は牽制の意味合いが強いようだ。
バジルは、岩陰からそっと身を乗り出し、様子を窺う。
舌打ちをする―――こちらの位置は、焚火や松明のせいで筒抜けだが、襲撃者は夜の闇に紛れ、位置を判別することができない。
現状、俎板の上に裸で載せられているようなものだ。
ちらり、と、ヴィクターやエウロス社社員を見遣る。
こうなったら、とバジルは決心する。
―――こいつらを囮にして、俺だけでも逃げ延びてやる。
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エギンは、片手をあげ、隠密部隊の射撃を緩める。
射手たちは速射の構えをやめ、3分の1程度に頻度を落とす。
オーク達が弓―――正確に言うと、弩弓、クロスボウを使い始めたのは最近だ。
元来、オーク族は、他種族に比べ、手先が器用ではない。しかし、膂力は飛び抜けている。
それに目を付けたのが、ザンヴィルだった。クロスボウは、使用に腕力を必要とするが、技術については、弓矢ほどシビアではない。従って、種族の特性に合った兵器と言えるだろう。
遠距離での攻撃方法を手に入れたオーク族は、さらに凶悪さを増している。
「いいか、分かってると思うが、騎士は殺すな。足を狙え。ゴブリンやコボルトはどうでもいいが……」
再度、指示を飛ばす。
せっかくの好機なのに、騎士が死んでしまっては元も子もない。
騎士たちが逃げこんだ岩陰を観察する。
どうやら、弓矢を構えて警戒をしているようだが、暗がりに溶け込んでいるこちら側を認識できずにいるようだ。
さて、ここから、どう炙り出して片を付けるか……と考えていると、騎士の一人が、いつの間にかいなくなっていることに気づく。
ひょっとして逃げられたのか!?
エギンの顔が苦く歪む。
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ヴィクターは、手汗でぬるぬるする弓を、強く握りなおした。
バジルはついさっき、「敵の背後から挟撃する」と言って、ここから去っていった。
余裕がなかったため、そのまま聞き流してしまったが、一人で裏へ回ったところで、何ができるというのだろう?
隣にいるグギが、不安そうに話しかけてくる。
「だ、旦那、これは、あっしらは、死ぬんでしょうか?」
「う、うーん。死にたくはないよな……何とか、生き残れるように頑張ろうぜ」
向こうから飛んでくる矢も、さらに少なくなり、にらみ合いのような様相を呈してきた。
そのまま、しばらくは不気味なほど静かな時間が続いていたが、
不意に、離れた場所が騒がしくなった。
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バジルは、ヴィクターに適当なことを言い、岩陰から一人、這い出していた。
この場から逃げ出すため、ヴィクターや他の社員を囮に残し、馬に乗って、遁走するつもりだ。
そのために、馬車から少し離れた位置につないであった馬へ近づいていた。
果たして、馬は暗闇に変わらず立っていた。襲撃者たちは、馬を処分していなかったようだ。
これはしめた、とバジルはほくそ笑む。これで、この包囲から突破してやる。
馬に素早く近づき、さっと飛び乗る―――
と、近くの草叢から、バッ、と人影が立ち上がる。
―――待ち伏せだ。
バジルの顔からさっと血の気が引いた。
「騎士だ!騎士が馬で逃げようとしているぞ!!!」
人影が叫ぶ。
「くそっ、余計なこと言ってんじゃねえ!」
とっさに弓を引き絞り、影に向かって放つ。正面からもろに矢を受けた影は、真後ろへぶっ倒れた。
「あそこか!」
「仲間がやられた!逃がすな!」
周囲から、襲撃者の仲間たちが集まってくる気配がする。
冗談じゃない。こんなところに留まっていられるか!
バジルは、馬の腹を乱暴に蹴り、走り出させる。
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エギンは、離れた位置で馬を見張っている隊員の声を聴いた。
断末魔の声を聴くと、やられてしまったのか!?
すぐさま腕を振って命令を下す。
「2人のみ幌馬車を見張れ!後は馬に乗った騎士を追え!
奴は仲間を殺した!射程圏外に行く前に、追いかけて射ちまくれ!!」
周囲は俄かに殺気立つ。
隠密部隊員は森の中を駆け、馬の通れない道をショートカットし、バジルを猛追する。




