輸送隊襲撃
騎士団詰所を出発した偽装商隊は、順調な旅路を進んでいた。
天気も良く、眠気に微睡むときすらあった。
出発してから3日。
この日は、何もない田舎道で野宿をすることとなった。
この地域では、宿もなく、あまり他の商隊ともすれ違わない。少し物寂しい地域ではあるが、逆に言えば静かで、落ち着けると言えばそうかもしれない。
夕刻。幌馬車に乗っていたエウロス運送の社員たちと、野宿の準備を始める。
その辺から小枝を集めてくると、荷物から少し藁を取り出し、その上に枝をかぶせる。隙間から、火打ち金に石をぶつけ、藁に火をつける。この際、魔力を込めることで、着火を促進させることが重要だ。
火が付いたら、太めの枝も放り込み、焚火を安定させる。数本の松明に火を移し、方々の地面に突き立てる。丸めた皮を広げて、寝床を整える。
香草と酢で下拵えしておいた肉を焚火で炙る。腹をくすぐる香りが周囲に満ちる。
肉をつつきながら、交代で周囲を見張る。一応、誰かは起きていて、寝ずの番をすることになっている。今回は8人での商隊なので、2人ずつ2時間交代で、夜明けまで過ごすこととなる。
ヴィクターは、グギと組んで番をすることとなった。
今宵の最初の番は、バジルとエウロス運送社員の2人だ。
2人に頭を下げ、寝床へ転がった。
夕食で腹も膨れていたヴィクターは、間もなく眠りに落ちた。
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その商隊を監視する、いくつかの人影があった。
エギン率いるオーク族の精鋭隠密部隊だ。
彼らは、泥で全身を塗りたくり、闇に溶け込んでいる。
ヴィクター達が、マズトンを出発した時から、物陰に潜み、動向を監視していたのだ。
―――エギンは、今回の使命について、再確認した。
”革命作戦”のため、騎士を1人か2人拉致する。
取り巻きの”窮者の腕”構成員については、殺害ないし拉致をする。
最優先事項は、騎士の身柄を、少なくとも1人は確実に確保すること。
その他は二の次だ。
―――今回連れてきた隠密部隊は10人。
相手は騎士2人、”窮者の腕”6人。人数の上でも勝っており、不意を突く訳であるし、不足はないだろう。
エギンが、身振りで隊員に指示を出す。
打ち合わせ通り、隊員たちは各地点へ音もなく散る―――
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エウロス運送の社員が一人、寝床から這い出す。
夕食時に水を飲みすぎたようだ。尿意を感じた彼は、近くの雑木林へ向かう。
周囲に誰もいないことを確認して、用を足す。
溜まっていたものを放出する快感に身を震わせる。
―――その後ろから、影が忍び寄る。
すっと、彼の首に、革紐をかける―――締め上げる。
彼は、声にならない悲鳴を上げ、首を掻き毟る。
首に食い込んだ革紐を振りほどこうとするが、革紐は強靭に鞣されており、びくともしない。
目を見開き、何かを叫ぼうとするが―――声帯を革紐によって潰されているため、何も音が出ない。
そのまま、影は革紐を固く締め、持ち上げる。
しばらく、足をバタつかせもがいていたが、その内、彼の舌はだらしなく垂れ下がり、一つ、大きく痙攣したかと思うと、瞳の光は消え失せた。
そのころ、バジルは、ぼーっと焚火を見つめていた。
この密輸任務が始まって以来、今まで誰にも襲撃されたことはない。
それゆえ、緊張が緩むのも仕方がないことだった。現に、相方のエウロス社社員は、鼾をかいて眠りこけている。
いかん、とバジルは頭を振る。このままでは、自分まで眠ってしまう。
さすがに、自分まで眠ってしまうと、後輩のヴィクターの手前、なんとも気まずい。
眠気覚ましのために、眠りこけるエウロス社社員の頭を小突く。
「おい、起きろ。一応見張りなんだから眠るんじゃねえ」
「ふあ、あ、旦那。朝ですかい?」
のんきに目を擦り、むくりと起き上がる。
「ちげーよ。まだあと半分あるぜ。寝てんじゃねー、ちゃんと見張れ」
「あいあい……さて、もう一息頑張りますかね……」
そう言って、エウロス社社員が、大きく伸びをした時だった。
焚火の方を見ていたバジルの耳に、湿った雑巾を叩きつけたような音が聞こえた。
それに一瞬遅れ、風を切る音が聞こえる―――
反射的に音の方を見る。
立ち上がったはずの、エウロス社社員が、倒れ伏している。
さらに、その胸から矢羽が飛び出ている。
彼は、信じられない、といった表情でバジルの方を見る。
何かを言いかけたが、意味のある言葉が出る前に、口から血泡を噴き出して痙攣する。
その一瞬後、多数の風切り音がバジルの方を襲う。
バジルはもんどり打って、幌馬車の方へ駆け出す。
腰からロングソードを外すと、鞘でもって幌馬車に取り付けられている銅鑼を思いっきり殴りつける。
銅鑼は、けたたましい音を上げる―――
「起きろ!てめえら―――敵襲だ!!!」
眠っていたヴィクター、エウロス社社員が跳ね起きた。
まだ状況を理解できていない騎士たち、エウロス社社員に、無数の矢が襲い来る。




