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嵐の前の静けさ

 オーク達と”融解連盟”の会議から2週間。


 マズトンでは、異様に平和な日々が訪れていた。

 ―――当然、ここで言う”平和”とは、世間一般で言う平和とはかけ離れてはいるのだが。



 マズトン騎士団の会議室。

 まだ日は高い。今日は湿度も低く快晴で、過ごしやすい日だ。

 会議室内も暖かな日光が差し、気を抜けば眠ってしまいそうな陽気に満ちている。


 今日も、ジェリコー上級騎士を始めとした、有力騎士たちが机についている。

 その対面には、”窮者の腕”の代表者、及び幹部たちが座っていた。


 1週間に一度とっている、定期連絡のための会議であったが、

 なぜか最近異様に平和なため、特段話し合うこともない状況だった。



 上級騎士・ジェリコーは、葉巻の煙を頭上に吐く。


「ここ最近、街中での抗争がいやに減りましたな……。”窮者の腕”さんよ、何かなさったのですか?」


 ジェリコーの対面には、”窮者の腕”代表者、アセナがいた。


「いえ……特にはなにも。いつもなら、”融解連盟”がちょくちょくちょっかいを掛けてくるものですが……最近めっきり姿を見せませんね。商売の邪魔が入らないこと自体は歓迎すべきことですが」


 と、言いつつ、長い髪を掻き上げる。


 アセナは、大柄なコボルト族の女性だ。

 目元を隠すように目深に被ったキャペリンハットや、豊かで流れるようなグレーの毛並み、すっと伸びたマズルやメリハリのついたスタイル、しかしそれを緩く覆うようなファッションと、一見すると女優もかくやといった存在感を持っている。


「まあ、毎週こうなら楽でいいんですがな……。

 じゃ、ちゃちゃっと今週の動きを詰めましょうか。では、麻薬の精製と販売を行う地域の選定について……」


 書記役のバガンが立ち上がり、会議の内容を書き留め始める。

 ”窮者の腕”側の書記も同様にする。


 会議後に、2者の議事録内容を比較し、齟齬がないかを確認する。


 そしてそれは、お互いの印鑑を押印し、保管する決まりとなっていた。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 会議室の外では、ヴィクターが雑務を行っていた。


 ここ最近、掃除や備品の整理などを、前にも増して積極的に行っている。

 何も奉仕精神に目覚めたという訳ではなく、これならば、自然に詰所内を捜索できるからであった。


 マズトン騎士団は、間違いなく黒だ、という確信を抱いたヴィクターは、密かにその証拠を探すべく動き始めた。


 と言っても、不正の証拠を見つけたところで、どう行動するか、というところまでは考えていないのだが、何もしていないと不安に押し潰されそうなので、とりあえず動いている、という次第だった。


 しかし、適当に探しただけで、不正な裏帳簿や裏調書、いかにも怪しげな鍵付きの書架などが見つかった。もう、あまり隠そうという意図も感じない。

 この人たちは、中央騎士団から監査を受けるかも、という危機感はないのだろうか?と呆れかけたところで、ある一つの疑念が沸いたが、さすがにそんな恐ろしいことはないだろうと、頭を振って自らそれを否定した。


 もし、見つけた裏帳簿などを勝手に持ち出したことを見つかったら、どうなるか分かったものではないので、場所を記憶だけして、元の場所へ戻す。


 放っておいても、黙々と雑務をこなすヴィクターを、マズトン騎士団の面々は、「これは便利な奴が来た」と、好意的に受け取っているようだった。



 ごそごそと雑務を続けていると、会議室の扉が開いた。

 人がぞろぞろと出てくる。


 ダドリーも会議室から出てきた。

 ヴィクターの元へ近寄ると、気さくに声を掛けてくる。


「よお、今日も雑務ご苦労だな。いやあ、ちまちましたことを片付けてくれてよお、頭が下がるぜ全く。

 ところで、また荷物を運んでほしいんだよな。行けるか?」


 当然、行けますと言うしかない。



「よし、じゃあ今回はバジルと組んで行ってもらうかな。昼過ぎに、準備ができ次第出立してくれ。よろしくな」


 ダドリーは、手を振ると去っていった。



 ヴィクターは、厩舎へ向かう。

 果たして、そこには、準備を進めるバジルとエウロス運送の面々がいた。


「どうも、バジルさん……。今回同行させていただくことになりました。よろしくお願いします」

「おお、そうか。今回は特別な便でもないからな。まあ、特にしてもらうこともねえ。暇ならエウロス運送の奴らの荷役を手伝ってもらうかな」


 ヴィクターは頷くと、幌馬車に荷物を積み込むエウロス運送に混じり、しばし汗を流した。


 そこには、グギとアディもいた。二人とも元気で働いているようだ。

 ヴィクターのことを認めると、笑顔を向けて手を振って来た。

 こちらも手を振り返す。


 ある程度荷物を積み終えると、目つきの鋭いゴブリンたちと、バジルが幌馬車へ乗り込んできて、貨物の隙間に薬物を捻じ込んでいった。


「まあ、もう知ってると思うが、特定の検問とは話がついてる。だから、早々しょっぴかれる事はねえと思うが、一応、念のために、パッとみは見つかんねえような所に隠しておくことだな」


 薬物を仕込み終えると、手をはたき、満足そうに頷く。



「さあ―――、行こうか?気楽な密輸の旅だ」

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