初会合
その翌日。
テレサは、コーと数人の幹部を引き連れ、オーク族の集落へ向かっていた。
「ふう……マズトンの外へ出るのは久しぶりやなあ。たまには外の空気を吸うのもええもんやで」
「確かに……最近は、抗争のごたごたが多くて、あまりゆっくりできてませんでしたな」
「せや。この話が上手い事落ち着いて、のんびり過ごせるようになるとええんやけどな……っと、着いたみたいやな」
オーク族の集落の入り口では、数人の若者がたむろしていた。
いずれも筋骨たくましく、通常の大人ならば、数人で寄ってかかっても太刀打ちできるかどうか、といったところだ。
こちらに気づいたオークが数人、こちらに近づいてくる。
警戒心を露わに睨み付けられる。
「おい、なんだお前らは?俺らの里へ何の用だ?」
「ああ、ちょっとな……ギュナって人に用があって来た。通してもらえんか?」
オーク達は頭を突き合わせ、何事か話し合っていたが、まとまるとテレサ達に向き直り、離れた位置の広場を指さした。
「ギュナさんたちは、あそこの広場にいるはずだ……てことは、お前らがマズトンのやつらか……なるほどな」
オーク達は頷くと、去っていった。
と見せかけて、物陰に隠れて、こちらを窺っているようだ。
「どうやら、うちらが来るってことは知らされてたみたいやな」
「ええ、それで、気になるからちょっと観察してやろう、ってとこでしょうな」
「ま、それも無理ないわな……オーク族が他種族と手を組もうなんて、あんま聞いたことないもんな。これは確かに気になるわ」
テレサは肩を竦めると、示された広場へ向かう。
果たして、その広場では、使者としてマズトンへ来たギュナ含め、10人程度のオークが座っていた。
「なんと。奴さん勢揃いやんけ……うちらが来るってことはお見通しってことか?何か面白ないな……」
テレサは呟き、声を上げて近づく。
「やあ、皆さん、お揃いで……”融解連盟”のテレサと申します。よろしく」
中央に座っていた、ひときわ大きなオークが、ゆっくりと立ち上がり、両手を広げた。
「お初にお目にかかります……。メラムトオーク族の長子、ザンヴィルと申します……この度は、急な申し出にも関わらず、この場にお越し頂いたこと、感謝いたします」
その巨体に似合わず、流れるような所作で腰を折る。
「まあ、お座りください。せっかくお越しになったんだ。オーク流のご馳走を振る舞いますよ―――」
ザンヴィルは、”融解連盟”の面々に茣蓙を勧め、指を鳴らした。
どこからか、小間使いのようなオークが現れ、一同へ食事を配膳していった。
しばらくすると、車座の中央に、目を見張るほどの量の食料が積み上げられた。
肉の燻製、様々な穀物のパン、血の滴る生肉、やたら丸々とした芋虫、豆のスープ。
料理としては素朴ではあるが、出来立てのそれらは、香ばしい香りを振りまき、緊張してここまでやって来た、”融解連盟”の胃袋を刺激するのには十分すぎるものだった。
テレサの腹の虫が大きな音を立てる。
恥ずかし気に頭を掻く。
周囲の面々はそれを見て楽しそうに笑う。
「さあ……とりあえず、腹ごしらえをしましょう。でないと、いい話もできないでしょう」
ザンヴィルが音頭を取り、食事が始まった。
そういえば、最近落ち着いて食事もしていなかったな、とテレサは思った。
大量にあった料理も、大ぜいに掛かれば1時間もかからずに平らげられた。
一同は、膨れた腹をさすりながら、満足げに言葉を交わす。
確かに、食事の前にあった緊張は、大分解かれていた。
いい雰囲気になったところで、テレサは改めて切り出した。
「おもてなしをいただきまして、ありがとうございました……オーク族の皆さんのご厚意に痛み入ります―――」
そこで、顔を上げ、ザンヴィルの顔を正面から見つめ、言葉を続ける。
「”融解連盟”は、オーク族の皆さんと手を結びたく、やって参りました」
「そうですか……いや、これは喜ばしい!もう一度宴会をしたいくらいだ……
我々オーク族の武力と、貴方がた”融解連盟”の組織力があれば、マズトンを手中にすることなど容易いでしょうな」
ザンヴィルは笑みを浮かべ、握手を求める。
しかし、テレサはまだそれには応えず、質問を重ねた。
「ええ。ですが……その前に、我々が手を組んで、具体的にどのように事を運ぶ積りなのか―――そのビジョンをお聞かせ願えませんか」
「ああ、そうですな。何をされるのか分からないのに手を組もうというのもおかしな話でしたな……。おい、エギン」
ザンヴィルは、隣に控えている男の名を呼んだ。
オークにしてはひょろ長い男だ。
エギンは、咳ばらいを一つして、話す。
「はい。では―――、我々が考えている今後の方針をお伝えします。何か意見があれば、教えて頂ければ幸いです」
エギンは語りだした。
オーク族と”融解連盟”が手を結び、マズトンを陥れるためのその策を。




