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密輸行

「よお、ヴィクター……今日は、ちょっと運んでほしいものがあるんだ」


 朝、騎士団詰所に行くと、ダドリーから声を掛けられた。


「え?運ぶもの?机かなんかですか?」

「違う違う。うーむ……まあ、名目は穀物の輸送だな」

「穀物??そういうのは運送屋の仕事では??」


 ダドリーは大げさに溜息をつく。


「いやー、本当にお前は察しが悪いな。そんなんじゃ出世できねえぜ?―――まあ、初めての仕事だからな。ケインと一緒に行ってもらう。厩舎でもう準備してるはずだから、さっさと行って合流して来い」



 ヴィクターは、ダドリーに指示されたように、厩舎へ向かった。

 騎士団詰所に併設された施設だが、意外なほど広く、整備されている。


 入り口にほど近い場所で、人だかりが見えた。

 そこでは、ケインが指示を出し、数人のゴブリンやコボルトと共に、荷造りを行っていた。

 数人が十分乗せられる程度の幌馬車に、藁や穀物を積み込んでいる。


「よお、ヴィクター。今日はよろしくな」


 ケインが手を上げてこちらを向く。

 ヴィクターも頭を下げて応える。


「今日は、お前も知った顔との共同作業だぜ」


 ケインが親指を後ろへ指す―――そこには、見覚えのあるゴブリンが2人いた。



「えっ、この前の……グギとアディですか。えーと、懲役で奉仕作業させられてるってことなんですかね?」

「まあ、少し違うな。奴らはまともな職についたのさ。エウロス運送ってところに職を斡旋したんだ。その兼ね合いで今日は来てもらったってことだ。よく働く奴らで良かったぜ」

「なるほど……」


 まあ、なんにせよ、まともな職に就いて前を向けたならいいことだ、と思う。

 そこで、疑問をケインに伝えた。


「えーと、穀物の輸送って聞いたんですけど、それってなんで騎士団が行うんですかね?」

「あ?それは名目だって聞かなかったのか?目的は薬の輸送だよ」


 ケインはあっさりと言ってのけた。


「えっ……薬……?薬物……ですか!?」

「まあまあ、何の薬かは知らない。そうだろう?穀物の中に挟んで、分かりにくいように運ぶが、あくまでも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()いいな?」

「……は、はい……わ、分かりました……」


 ヴィクターは眩暈を覚えた。ふらふらと足がもつれ、地面にへたり込んだ。


「おいおい、もうすぐ出発なんだから元気出してくれよな。まあ、まだしばらく時間はあるから、それまでにはしっかりしとけよ。―――俺は先に馬車に乗ってるぜ」


 手を振り、馬車に乗り込むケインの背を見送り、ヴィクターは暗澹たる気持ちになった。

 いよいよ後戻りできないところまで来ているのかもしれない。



 ひとまず、落ち着かなければならない。

 ヴィクターは立ち上がり、服の裾を払って考え込んだ。


 正直、ここまでくると、一部の人物による不正が起こっている……というレベルではない。

 テスの言う通り、実際、本当にマズトン騎士団自体が犯罪組織となり果てているのかもしれない……とも思える。正直、もう逃げ出したい気持ちもあるが……逃げられるのか?その自信もなく、ただ歯噛みして立ち止まることしか、今のヴィクターにはできなかった。



 そうしていると、一人のゴブリンがこちらに気づいたようで、ひょこひょこと近づいてきた。


「あ、どうも~!その節はお世話になりました!あっしです!グギです!いやはや、この度はヤクの取引を見逃して下すった上に、エウロス運送にも世話して頂いて、いや、恐悦至極の至りです!」


 グギは、喜色満面に両手を合わせ、ぺこぺこと頭を下げる。


「あ、ああ……よかったですね。エウロス運送ってところは、そんなにいいところでしたか?」


 ヴィクターは、一応笑みを浮かべて相槌を打った。


「ええ、ええ……騎士様ともなればご存じでしょうが、エウロス運送は、”窮者の腕”のフロント企業ですからね……ええ、ここから成り上がってみせまさぁ!」


 グギは力こぶを作って、笑って見せた。



 ヴィクターはそれどころではない。

 フロント企業、と言えば、犯罪組織が隠れ蓑として使う、表向きの企業のことだ。

 そんな企業を、騎士団が斡旋したということは……



「おい!そろそろ出発するぜ」


 馬車からケインが号令をかける。


 荷物を積み終わった作業者たちは、こぞって幌馬車へ飛び乗る。

 ヴィクターものろのろと乗り込んだ。



「さあ、出発だ!」


 御者役のコボルトが手綱を引く。

 馬の腹を軽く蹴る。



 満載された穀物と、人の心を蝕む麻薬を載せて、幌馬車はゆっくり進む。

 その姿は何処か牧歌的ですらあった。


 本日は晴天なり。

 嫌になるほどの、抜けるような青空だった。

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