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逮捕、勾留

 ゴブリン2人を連れたケイン、ヴィクターが騎士団詰所に帰りついた。

 まだ外は暗いままだ。


 詰所の中では、数人の騎士がいた。

 机に突っ伏して寝ている者や、カードに興じている者、本を読み耽っている者など、皆思い思いに過ごしていた。



 ケインは、事務机にどかっと腰掛けた。

 連れてきた2人のゴブリンを前に立たせ、事情聴取を始める。

 片手で薬包を弄びながら問いかけた。


「さて……まず、名前から教えてもらおうか?」


 ゴブリンたちは、顔を見合わせた後、渋々といった感じで答える。


「あ、あっしは……グギと申します」

「あ、俺は……アディ、です……」


 ケインは、頷きながら書き留めてゆく。


「で?お前らはそのヤクをどこで手に入れたんだ?」

「あ、えっと……知り合いから買いました……」

「知り合い、ねえ……ぶっちゃけて聞くと、貴様らは何処の組の者だ?”窮者の腕”か?”融解連盟”か?」

「え?え、いや……あっしらは特に……俗に言うフリーってやつでして……」



「なに?フリーだと?どこにも所属していないってことか?」

「え?は、はい……」


 ゴブリンたちがどこにも未所属だということを聞くと、ケインの目が昏く光った。


「くく、そうか。なるほどな。まあいい……

 さっきの様子を見るに、グギの方が売り手だな?薬の出どころは何処だ?誰からいくらで買った?」

「か、勘弁してくだせぇ、そんなことチクったら、あっしは殺されちゃいますよ」

「さあな?ちゃんと喋ったら守ってやるって。安心しろよ」


 ケインはにやりと笑い、グギの肩を親しげに叩く。



「えー……そうですね……」


 グギは少しの間逡巡していたが、言わないことには埒が明かないと思ったのか、苦々しげに答える。


「クワンク通りのアリゼーティって店で、売人から仕入たんでさぁ。

 売人の名前は分かりやせん。そりゃ聞こうとも思わないですから、ねえ?」


「ふーん、アリゼーティ、ねえ……」


 ケインのペンが動いてゆく。



 その後もいくつかの質問を挟み、一区切りがついたようだ。



「ふむ……まあ、こんなもんかな。

 おい、バジル、ちょっと来てくれ」


 ケインは、伸びをすると、同僚の騎士を呼ぶ。

 バジルと呼ばれた騎士が、突っ伏していた机から、のろのろと起き上がる。


「俺は調書をまとめるから、この2人のゴブリンを牢屋にぶっ込んどいてくれ

 ―――ああ、丁度新人がいるから、牢屋の位置とか、その辺をついでに教えてやってくれ」

「ん、分かった」


 バジルは目をこすり、立ち上がる。

 ゴブリン2人の腰縄をつかみ、先を促して歩かせる。

 ヴィクターにもついて来いとばかりに顎をしゃくる。

 頷いて、後をついていくことにした。



 マズトン騎士団詰所には、地下に牢屋があった。

 薄暗くてじめじめはしているが、意外と清潔だった。


 バジルは無言で2人を牢屋に入れると、鍵をかける。


「これから、この2人はどうなるんですか?」


 ヴィクターは、バジルへと質問した。

 バジルは鬱陶しそうに答える。


「ああ、こいつら程度のしょうもない罪状だと、すぐ釈放だろう」

「そ、そんなもんなんですか……」


「だな、だが……」


 バジルはそういうと、口を歪める。


「出た後は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 詰所1階に戻ると、丁度ケインが調書を書き終えた所だった。


「おお、お疲れさん。どうだ、牢屋の位置とか覚えたか?」

「あ、はい。案内してもらいましたんで、分かったと思います」

「そうか、よし。そうだな……」


 ケインは、首を回して外を見る。

 空はいつの間にか青みがかっていた。


「まあ今日は大捕り物もあったし、もう帰っていいだろ。適当に片づけたら帰っていいぜ。

 俺も眠いからさっさと帰って寝るかな……」


 ケインは大きな欠伸を一つ、漏らした。




 ヴィクターは、帰り支度をぼちぼち済ませていた。

 ロングソードを武器棚に戻し、チェーンメイルを脱ぐと、心まで軽くなったようだった。



 一息つくと、帰る前にコーヒーでも飲んでおこうと思い直す。

 件のケトルを持ち上げる。中身をよく改めるが、怪しい点はない。

 簡単な温熱術式で、ケトルを温める。



 ヒト族は、エルフ族には及ばないものの、他種族に比較すると、魔術の適性がある。

 とは言っても、人体に破壊的な影響を及ぼせたのは太古の大魔術師と呼ばれる人物がせいぜいで、現在では簡単なものを僅かに熱する、冷やす程度の事しかできない。

 エルフ族であれば、もう少し強力な術を使役できるようだが。


 それでも、便利なものには変わらないので、普通、子供の頃から、簡単な温熱術式と寒冷術式は習うことが多い。



 温まって僅かに湯気を立てるコーヒーカップを持ち、口をつける。

 何となく砂糖には手を付けないでおいた。



 のんびりとしているうちに、ケインは帰ったようだ。

 詰所でずっとぼけっとしていても仕方ないので、自分も帰ることにする。



 今日の夜警を反芻する。

 やはりマズトンだけあって、麻薬の取引も横行しているんだな、と改めて実感した。


 20包もの麻薬が、一時に取引されるなんて、尋常なことではない。




 帰り際、ケインの机に目が行った。

 ケインは机に調書を放置したまま帰ったようだ。



 飛んで行ったり無くしたりしてもいけないので、机に据え付けのレターケースに仕舞おうと、調書に手を伸ばすと―――殴り書きされたケインの筆跡が目に入る。




「ゴブリン2名違法薬物の取締法違反で逮捕。


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