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1話:家族と行動

その日は曇天の曇り空、それは孤児院内の雰囲気を表した様なひどい天気だった。

いつもの活気のある庭や食堂などとはうってかわり、その影を潜めている。

その子供たちもどこか元気がない。


そしてシスターシエル自身もそんな子供たち同様、

子供達と会話をしながらもどこか浮かない顔をしている。


「にいにい、どこいったの…?」


一番の年少で一番アノンにべったりだったマリーが、

シエルの服の端をぐいぐいと引っ張り、質問してきた。


「大丈夫、もうすぐ帰ってきますから…」


どこかぎこちない笑みで、シエルはそう答える。

いやそう答えるしか無かった。


すでにアノンが行方不明になってしまってから2日間が経過した。


バールバルの仕事の手伝いをしにということだった為、

アノンが帰ってこなくなってから1日後にバーバルの元へ向かったのが、


そこにはシエルと同じように顔を青くしたバーバルがいた。

尋ねてきた相手がシエルだと気づいたバーバルはシエルにいきなり土下座をした。


“すまねぇ、すまねぇ…”

と謝罪の言葉に、シエルはアノンの身に何かが起こったことを悟った。


突然の謝罪に、固まってしまったシエルであったが、

なんとかバーバルを立たせ、話を促した。


そしてことの顛末を知ることになる。


アノンが孤児院の状況をしてしまったこと、

その資金を稼ぐために、ガルガヴァンの地下闘技場に参加したこと。

そしてその日が皇国の強攻部隊が地下闘技場に潜入し、殲滅作戦が開始したこと、


その中にアノンもいたことをバーバルから教えられるのだった。


始めはバーバルの言っていることが理解できずに、放心状態だったシエルであったが、 一語一語、咀嚼するように噛み締め、やっとアノンが帰ってきていない訳に、考えが及んだところで、


彼女は

「どうして、止めてくれなかったんですか…?」


バーバルを問い詰めることしかできなかった。

そしてシエルの心情をよく理解できるバーバルも


「すまねぇ」と呟くことしかできなかった。


よくよく考えれば、バーバルの性格上

容易にアノンには進めたりしないはず、最後はアノン自身が決めたことなのだと。

すぐにそれに気づいて、


「……バーバルさん、ごめんなさい。私…ちょっと気が動転してて…」


シエルは自分を律するように言った。


「いや、いいんだ。嬢ちゃんは何も悪くねぇよ。俺も最悪の場合を想定できていなかった。そんじょそこらのやつには負けねぇだろうと高を括ってたんだ。すまねぇ、俺の責任だ。」


「……いえ、アノンは……何も顧みずに突き進んでしまうことがありましたから。こんな心配してくれる人たちがいるのに平気で自らを危険に晒すことが、前もありました。私も孤児院のことばかりで、アノンに相談することすらしなかった。こう言ったことも十分ありえたのに……」


部屋の中に沈黙が訪れる。

何を話すべきか、これからどうするべきか。それぞれに考える必要があった。

それを察してシエルはとりあえず帰る旨をバーバルに告げた。


新しい情報があれば教えてほしい、こちらでもできる限るなんとかしてみますと、

バーバルに伝えその場は解散となった。


平静を保ちながら、孤児院に戻るのは辛かった。

なんと言ってもマリー以外の子供たちは何か異変があったと敏感に反応しているようだった。彼らは、それぞれの過去の体験から別れや、人がいなくなるといったことに過敏に反応してしまう。


そして案の定、今の状態となってしまった。


「にいにいに会いたいよぉ…」


涙声に変わっていくマリーの声を皮切りに、何か我慢していたたかが外れたように

他の子供達からグスッと、涙を我慢する声が聞こえた。


子供たち自身も必死に我慢していたことに、シエルも胸が熱くなる。

自分も何か、湧き出てしまいそうになるものを堪えて、言葉を紡ぐ。


「みんなおいで……」


シエルの優しげな言葉に子供たちが近寄ってくる、

両腕を大きく広げガバッと全員を包み込むように強く抱きしめてシエルは言った。


「アノンは絶対帰ってきます、みんなもう少しの辛抱です…私が絶対連れ戻してきますから。」


一人一人を慰めるように、そう呟いた。

なんの手かがりもなく、しかし自分に言い聞かせる。


シエルの言葉に、子供たちも頑張ると、

それぞれ口を開く。



その様子にシエル自身も勇気づけられた。

するとあることを思い出す。それはシエルの前任者から言伝。


“いいかい、シエル。もし何かどうしようもない事態が起こったら、ここ頼りにし。

……ただ願わくば、私としてはここにいかないといけない事態なんか起こって欲しくはなんだけでね。”


日頃、豪胆で太陽のような笑顔を浮かべる人だったが、ことの時ばかりは、

様子が違っていた。そんな彼女からおずおずとシエルは一枚の紙を受け取った。


ふと脳裏に蘇る義母の言葉、シエルを引き取り娘として育てた、

この孤児院の前任者でもあるシスターマザーの言葉である。


なぜこのタイミングだったのか、それはわからない。

子供たちを寝かしつけ藁にもすがる思いで、


シエルはあの日から大切に保存していた一枚の紙を探しに自室へと戻っていく。


少し書き溜められたので、また予約投稿を再開していきます。

ブックマーク、評価等引き続きよろしくお願いいたします。

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