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5話:暴力と主

絢爛豪華な装飾品が部屋を飾り、

その一番奥に、強面のガタイのいい男が腰を下ろしている。

両脇に露出の激しい女性を侍らせている。


その周りの部下たちがずらっと並び立ち、

不気味な笑みを浮かべながらアノンを見ていた。


アノンが真ん中まで移動するとそのすぐ後ろに守衛が立つ。


すると遊びの時間は終わりだとでも言うように指をパチンと鳴らすと


女性たちが離れていく。

そして男の鋭い視線がアノンを射抜く。


「よく来たな、小僧。俺は歓迎する、俺に用があるらしいじゃないか。とりあえず自己紹介だ。もうすでに知っていると思うがこの貧困街を牛耳る、ガルガヴァンっていうもんだ。お前も名乗な小僧。」


「アノンです。」


「アノンか……さて本題に入ろう。

早速聞かせてもらおうか、貴様の話を、このガルガヴァン様にな!」


偉そうな風貌通りの言葉が彼の口から吐かれる。

少しの間、沈黙が訪れ、意を決したかのようにアノンが言った。


「その前に……条件があります。」


アノンの言葉に部屋内に緊張がはしたったのが分かった。

後ろに控える守衛たちの目が剣呑を示す。


動き出そうする彼らに


「待て…」

笑いを堪えるように、ガルガヴァンはそう言った。


「条件…条件だと…ふふふふふふふははははははは。

これはいい、この俺を前にそこまで啖呵が切れるとはなぁ。いいだろうテメェの度胸を見込んで許してやる、言ってみろ」


「もし僕の情報が有用であれば、僕に地下闘技場の参加資格を下さい!」


「……」


そのアノンの言葉にさっきとうってかわり

ガルガヴァンはアノンをじっと見つめ、考える。

この目の前にいる子供は意味を理解していっているのかと


「地下闘技場の参加資格…貴様がなぜそのことを知っているのかはその情報源も気になるところであるが、なるほど、闘技場の賞金目当てということ。…しかし解せんな。なぜ自分が持っている情報を売らない?」


アノンはこのやり取りの中で、直感的に自分は試されていると感じていた。

答えを間違えれば、彼の興味の対象外。うまくこっちの情報を出しながらできるだけ印象づける必要があるとアノンは考えた。そしてここまで引っ張ることができれば

目論見通りである。


「僕の情報があなたにとって価値があるか分からないから…」


「ふん、意外や意外。ただ子供と侮ることなかれとはこのことか。なかなか頭が回る小僧だな。最悪、情報を出汁にして自分を売り込みむこともできると。……少々貴様の思い通りになっているところが気にくわんが貴様に対して興味が湧いたのは事実。そして貴様の予想通り、俺は貴様の情報にほとんど価値を見出していない。」


「イーデン皇国が戦争に備えているということもですか?」


アノンの言葉に少々驚いた様子を見せたガルガヴァンであったが、

それは一瞬のうちに隠される。


「…ふん、なるほどな。ますます貴様自身に興味が湧いたが。…情報としての価値は0だな。だいたい貴様のようなものの情報など誰が信用する?ここは弱肉強食の世界。情報などクソの役にもたたん。特に1日1日を惨めに生きる貴様らにとってはな。」


「じゃあ、どうして僕を中に入れたんですか?初めから僕の情報に価値を見出していないな━━」


「ふん、最近周囲をうろちょろする輩がいるんでな。とっ捕まえてちと拷問━━いかんいかん、尋問をな…もちろん貴様もその一人だぞ。ただのガキではないことは確かだ。いろいろと背後関係をあらてっておくに越したことはなさそうだ。おい!」


ガルガヴァンの合図に守衛たちが動く、

背後から迫る二人の大男にアノンは、”シスター、今はなら使ってもいいよね…”


心の中で自分に問いかける。普段は自分で制限している力、

シスターからは命の危険のときのみ使うことを許されている。


左右から掴みかかろうとした二人は次の瞬間にはアノンの姿を見失った。

その様子を見ていたガルガルヴァンが声を荒げる。


「貴様ら!どこを見ている後ろだッ!」


気づいた時にはもう遅い。年増もいかない子供ということで油断していたことも否めないが、それでも予想を超える何かが垣間見た気がするガルガヴァン。


彼の中の警報が鳴り止まない。


「━━ッ」


振り返ろうとした男たち、しかしもう遅い。

一息の間もなく、鋭く吐き出された息と同時に


男たちの後ろに回ったアノンが拳を2回に分けて突き出す。


次の瞬間、辺りに響く鈍い音と同時に、

大男たちがガルガヴァンの足元まで吹っ飛んでいく。


「は……?」


言葉が出ないとはこのことだろう。

ただのガキだと思っていた子供が、

自身の2倍以上をあろう大男たちを殴り飛ばしたのだ。


固まる周囲の人間たちと、

唖然とその様子を見るガルガヴァン。


一方で、不快な感触にアノンは眉を潜めた。

“これが人を殴る感覚…”


倒れた男たちから呻き声がもれるのを聞き、アノンは胸を撫で下ろす。


体格からして力一杯殴っても大丈夫そうということはなんとなく分かっていた。

殺さないようになんとか力加減に成功したらしい。


周囲が動けない中で、アノンはガルガヴァンの元へと歩み寄っていく。

座っていた場所からずり落ち、後ずさっていくガルガヴァン


「おいお前ら、なんでもいいからッ!そいつを殺せ!今すぐにだ!」


ガルガヴァンの言葉に、チンピラたちが動き出す。

ナイフを片手に幾人もアノンに突撃していく!


ふるわれる刃を後ろステップで避ける。


シスターの孤児院に預けられて、これまでにも何回かアノンは

命の危険に身を晒されてきた。


そして、その自分の危機的状況に際して

何か周囲の風景がゆっくりと見えたり、自分が思っても見なかった行動や

その場の最善手が脳内で勝手に作り上げられるのを感じることがあった。


まるで自分でない自分が体を操っているようなそんな感覚。

この力がなんなのか、アノンにはわからない。


それでもその感覚にアノンは今も身を委ねた。


アノンの視線は向かってくる相手に向けられる、

そして最終的に視線が止まったのは上階を支える柱のようなもの。


敵の攻撃をうまくいなしながら、

その柱をボコっと引っこ抜く


「「「!!!」」」


そのようすに、一陣、二陣と襲い掛かろうとしていた部下たちが

間抜けな顔へと変わる。


「よっこいしょッー!」


おかしな掛け声とともに自分の身の丈の倍はありそうな柱で

近くいた部下たちを殴り飛ばす!


ポンっポンっポンっと軽くふる回して、数人以上を一振りでなぎ倒していく。


ガルガヴァンはまるで悪夢を見ているかのような表情で固まっていた。

何が起こっているのか理解できない様子だった。


「ふー、こんなもんですかね。」


いい汗をかいたとばかりの軽い感じでアノンは言った。


“さてっ”と、視線がガルガヴァンへ向けられる。


「おいおい、誰かいないのかッ!」


周りにいるのは死屍累々のような部下たち。

死んではいないようだが、一人も動けない様子。


ガルガヴァンの声が虚しくこだまする。


殴った拳をもう片方の手ですりながら、

平常心で佇んでいるのはアノン一人のみ、


その歩みがどんどんとガルガヴァンに近づいていく。


「ま、待て。は、話せばわかる。た、頼む、見逃してくれ!!お、お前の望み通り、地下闘技場の資格はくれてやるッ!」


その言葉にアノンの足が止まる。


「ほ、本当ですか?」


何とか話をして穏便に地下闘技場の資格をもらえないかと頼み込もうと考えていたアノンだが、何を勘違いしたのかガルガヴァンにとっては戦う気満々に見えたらしい。

自分の組織中でも腕っぷしの人間を瞬時に側頭させた光景に心が折れたようだった。


「ああ、本当だ!お前の腕っぷしの強さは見た!ぜ、ぜひ推薦枠から!」


「えーっと、ちなみにどのくらいの賞金が出るんですか?」


「1勝するごとに、10万リットでる!」

「じゅ、10万リットッ!!」


“ぼ、僕の1日の稼ぎの10倍以上じゃないか…”


そのあまりの金額にあれだけ細々と稼いでいた

自分が間抜けじゃないかと思ってしまう。


しかしそれと同時に、孤児院を手助けする為の希望が見えた。

孤児院を救えれば、そこにいる子供たちも大丈夫。


かすかな希望を胸に抱きアノンは流行る気持ちを抑える。


その後、次の開催日が3日後ということで、アノンは一旦孤児院へと戻ることにした。

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