4話:勧誘と幻想器
翌日、アノンは目を覚ました。
拷問紛いの尋問を受けたせいか、体の節々が痛むが、
なんとかベッドの上で上体を起こす。
辺りを見渡せば、シンプルな部屋に窓から朝日が覗いている、
そしてベッドの横にはアノンに視線を向けている一人の女性がいた。
「目が覚めましたか…気分はどうですか?アノンさん」
なんとなく距離が近い。
少し引き気味に顔を離しながらアノンは言う。
「節々が痛む程度です…それよりも……?」
相手が誰だか分からず、混乱しているアノンに
ミナリスは言う。
「ああ、そうでした…私の名前はミナリス・オエリエントと言います。皇国の兵員部門所属です。ちなみにあなたを尋問していたのは私の部隊の隊長であるイゾリア教官です。」
その言葉にアノンは警戒感を覚える。記憶に残る冷たい目線と容赦ない行為。
ただでさえ、正体不明の人物に加えて、自分を尋問した相手の部下。
自分の中で、警戒度が上がっていく。
「あ、でも…あまり警戒しないで頂けると…。うちの教官、仕事になるとついやりすぎてしまうところがありまして……でもそもそもあの地下闘技場に参加していたアノンさんにも非があるんですよ…!」
元々、アノンが参加する前から摘発の準備は進めていたのだ、
あのタイミングでアノンが急遽参加することになったのはミナリスたちでも予想外であった。
それにしてもミナリスは思う。見れば見るほど、普通の少年である。
この少年が自分の上司が一目置くほどの実力を持っているとは、人は見かけによらないものだとミナリスは思う。
そして同時に、その頭を働かせて、イゾリアからの命令をどう遂行しようかと考えている。
この自分の目の前で不安な気な顔をしている少年を
なんとか仲間にしなくてはならないのだ。
ちなみにミナリスにアノンを任せたのは言わずもがなイゾリアである。
尋問した張本人が目の前にいたら落ち着けるものも
落ち着けないというイゾリアの配慮だ。
基本的に、サディステックな冷血な女性と見られながちな彼女であるが、
ただ単に用心深く、
”疑わしきは罰せよ”とそういう性格ということをミナリスはよく理解している。
だからこそ、自分であることもミナリスはしっかりと理解している。剛の部分を担う上司に対して、自分は柔の部分を担うと。それに親愛する上司の命令、なんとしても成功させる所存だ。
そんなことを考えていると
「その…すみません…」
突然アノンが誤ってくる。
「……どうして謝るんですか?」
「えっ、だって悪いことだったんですよね…」
そしてアノンの言葉にミナリスは目をパチクリとさせ、
「まぁ…皇国法では摘発対象ではあります…でも…ふふふ、なんだかアノンさんって思った以上に単純なんですね。」
アノンはミナリスの言葉に複雑な表情を浮かべる。いまいち馬鹿にされているのか。褒められているのか、よくわからない。
ミナリスは笑みを浮かべ、腹の探り合いはやめてとっとと本題に入ることにした。
おそらく、小難しく話すよりも率直に言ったほうが、彼は理解できるだろうとミナリスは思った。小さく咳払いをしてミナリスは言う。
「アノンさん、あなたには今2つの選択肢が提示されています。
1つ目罪を償う為に牢に入るか、2つ目皇国の兵員なるかです。ちなみに罪を償う場合は強制労働に追加して1年間は拘束されると思っておいてください。私のお勧めは言わずもがな後者ですよ。願わくば、是非力を貸してほしいのです。皇国の兵員として働くことに興味はありませんか?」
「兵員…兵士になれと言うことですか…?」
「そうです、こう言ってはなんですが、こんなこと普通はあり得ませんよ?
他の方でしたら考えるまでもなく即答ですッ!」
まさかの全くの正反対の両天秤な選択肢、もちろんより後者の選択肢を選ばせるための極端な選択肢であることはミナリスの作戦である。
さらに後者の選択肢は、誰もが憧れる物である。
イーデン皇国の住民にとって、兵員になることは一種のステータス。
優遇された待遇と高額な給付金が受け取れる。そのため、その登用試験は狭き門。
ほとんどが、実力が認められたもの、あるいはツテなどである。また貧困区街からの住民が今までに兵員として登用されたことなどないのだ。
「どうして…自分なんですか……」
「簡単です、あなたは認められたんですよ、イゾリア教官に。」
「……結構ボロボロにされた記憶しかないんですけど…」
「それはポテンシャル込みだからですよ、これからの伸び代を踏まえての判断ですね。あとはそうですね、あなたが幻想器保持者だからという点も大きいです。」
「幻想器保持者…ですか?」
やはり自分自身の力の秘密には気付いていない様子、
それ見てミナリスは少し長くなりなりますが…、そう前置きをして話始める。
「今は昔、ある時代に一握りの人間たちがいました。自然現象を人為的に起こし、富を築き、大地を作り替えた。彼らはその神のごとき所業で、民を導き、栄華と繁栄をもたらしました。彼らのことを幻想人と呼び、幻想時代と呼ばれたその時代の栄華は現在において様々な形で語り継がれていて、今ものなお各国が凌ぎを削って調べています。中でも注目されているのが【幻想器】と呼ばれる幻想人が作り出したものとされている道具の存在です。」
“あなたが首にかけていたペンダント、あれも幻想器なんですよ”とミナリスに指摘され初めて気づく、自分がそれを持っていないことに。
その疑問に答えるようにミナリスがいう。
「あ、すみません。あなたの幻想器については今、皇国で解析を進めています。」
「……返してもらえるんでしょうか…あれは僕の過去の手がかりでもあるので…」
「ええ、もちろんそれは保証します。あなたは幻想器に認められた存在。保持者のもとにあって初めて幻想器はその真価を発揮することができるのですから。」
えっふんと、可愛らしい咳払いののちミナリスは話を続けた。
「この幻想器についてですが、その能力は様々ありますが、戦闘用向きのものでも、兵員一部隊以上の戦力があると言われています。とはいえ幻想器についてはその力が未知数な部分も多い為、各国がこぞって幻想器保持者の取り合いが起こっていると言うのが現状なのです。」
この話の裏には迫り来る戦乱の脅威を感じての皇国の計画があるのだが、
そんなことを話すことなどできるはずもなく。
一方で、正直、色々とありすぎて頭が混乱していると言うのがアノンの印象だった。
ただでさえ、起き抜けでぼやぼやしているところにこんな話をされるとは思っても見なかったからだ。
それを見抜いてかミナリスは続ける
「我々としても、今、決断いただくのは難しいかと考えています。少しお時間差し上げますので、その後に決めていただければと思います。ただ、あなたの大切な人たちを守るためには、選択はあってないようなものかと思いますが…では♪。」
ミナリスはそう言うと、席から立ち
部屋を後にする。
「あ、そう言えば、この後あなたの保護者の方がいらっしゃるとのことですので、お帰りはその方とご一緒に!」
閉められた扉から頭だけを出し、アノンにそれだけ伝えると、
今度こそミナリスは行ってしまった。
“ふぅー”とアノンはため息を吐く。
もちろん考えているのは兵員への誘いの件だ。
普通に考えれば、悩むまでもない判断である、
しかし、とりあえずはシエルに相談にアノンは考えていた。
ここまでことが大きくなってしまったらアノン一人だけの問題ではすまない。
どれくら経過したのだろうか、アノンが頭を悩ませていると
扉をノックする音が聞こえた。
「はい」とアノンが返事をするとその人物が入ってくる。
「シスター…」
「はい。昨日ぶりですね」
そこには笑みを浮かべたシエルが心底安心した表情で立っている。
そのままアノンのベッドのそばまで近寄ると、彼の上半身を抱きしめた。
「やっと捕まえました…」
小さくささやくようにアノンの耳元でシエルの声が聞こえた。
その言葉に思わず、
「あ、あのシスター。ごめんなさい。」
アノンは呟いた。
「本当ですよ…馬鹿」
いつもと少し様子が違うシエルが軽口を叩く。
その言葉に、アノンは反省しながらも一方で、
シエルの体温を感じていた。心を包むような温かい気持ちになる。
“ああ、やっぱりこの人たちを守りたい。”
“そしてこが自分の居場所なんだと”アノンは感じた。
すると、シエルが離れる。
「…じゃあ、帰りましょうか。」
そう言ってシエルはこちらに手を伸ばす。
アノンは頷いて
シエルの手を握ったのであった。
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