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TENTH ~ふきげんな王さまと野蛮な聖女の十個の噓~   作者: 川奈陽
【4個目の噓】「ああ。うっかり」
8/17

この結婚は特殊作戦ですよ、ジーク






「政略結婚のために別れたんだろ。恋人だったそうじゃないか、そのダリル・ハウザーと」


 ジークは自室のデスクでなにかを(したた)めながら、顔はこちらに向けずに、それでも律儀に相槌を打ったり、たまに言葉を挟んだりした。

 無愛想な態度のわりに、付き合いがいいというか、案外お人よしなのかもしれない。


 その用箋の上辺中央には、模様が透かし印刷されている。王国の紋章だが、隠す気はないようだった。


 以前のような慇懃な物腰や口調は、もう取らない。こちらが素の顔なのだ。


「それは誤解なんですって。噂にはなってたけど、ただの友達。同僚。部隊のお隣さんです」


 エルスは彼の部屋のソファにすっかり腰を落ち着かせて、そう説明する。


 現在テンス共和国の特殊部隊は、第1から5隊、そして9、10隊が存在する。


 ナンバーに空きがあるのは、9、10隊は試験的に発足されたものであり、短期間での解体が見込まれていたため後ろに割り振ったのである。


 予想に反して、定着している。それでも、やはり9、10隊はいずれ解体される運命である。


 10隊は聖教会が後ろ盾になっているという異例の部隊で、教会が支援しているのは軍ではなく、エルス・カレンズ隊長個人である。

「聖女」を冠する隊長が去ってしまえば成り立たない、一代きりのものだった。


 9隊は、それよりさらに個人的である。

 というか、個人しかいない。

 隊長は前5隊隊長ダリル・ハウザー。隊員も、同ダリル・ハウザー。彼一人の部隊なのである。


 エルスの同僚であり、良き友人。


 もっと言うなら、双子の弟。


 でも生き別れの間ずっと記憶の中にあった守るべき小さな弟は、軍で再会したら、身長はでかいし体つきもごついし顔立ちも男らしくしっかりなっていて、見た目には別人だった。

 昔は、自分より小柄で、顔だって女の子みたいで、自分より可愛かったのに。


 ふたりの血縁を証明する記録はすべて抹消されている。父親を辿れないように。遺伝子を調べさえしなければ分からない。


「男除けになると思って、積極的には否定しなかったけれど。でも、そうですね、もう少し、程よく火消しをしておくべきでした。私の結婚を発表する前に、まずダリルとのことは誤解だと周知させるのに頭を悩ませましたから」


 エルスは行儀良くソファに腰かけた姿勢で、さらりと白金色の髪を傾けた。


「ほら、やっぱり、聖女が王子さまを選んで今の男を捨てたなんて、感じが悪すぎるでしょう?」


「政略結婚は感じがいいのか」


「そこはロマンスの物語で包んで、政府の広報が上手くプロパガンダしたみたいです」


「プロパ……。ああそう」


「今回の輿入れにも、ひとり記者を連れてきてましたし。各地をまわりながら入国するまでの様子も、記事にしてもらうつもりで」


「その輿入れ巡業だがな」


 ジークは書面に走らせるペンを止めず、顔をあげないまま言った。


「問題なく続けられているそうだ。エルス・カレンズは昨日、5ヵ所目の北西部の街に入った」


「そうですか。良かった。どうもありがとう」


 エルスは微笑む。ハラン・ディキンソンは無事、事務総官に伝言してくれたようだ。


 エルスが世間に重傷を隠したり、隠密作戦のために所在を隠匿したい時などにしばしば使う替え玉が、代わりを務めてくれている。長丁場だが、やり遂げてくれるだろう。


 だが海上にあって、ジークはどうやってその事を知ったのだろう?


 何か通信手段があるはずだが、エルスはまだ把握できていない。こちらとは違う技術が、あちらにはある。


 そうした技術力ひとつ取っても、彼らの正体が窺えた。

 ジークらは、エルス一人のためにこんな大型船を用意したうえ、構造式の高度な使い手を擁している。資金も人材も、潤沢に備えている。

 特に人材は、これほどの使い手を複数人とあれば、そのバックは国家である可能性が高い。


 ジークは、エルスのその推測を、用箋の紋章を隠さないことで、暗黙のうちに肯定していた。


 彼は決してはっきりとは言わないが、こうしていくつかの情報を、断片的にエルスに開示してくれている。


 下手に嗅ぎ回られるくらいなら、ある程度情報を与えてエルスを満足させたほうがいい、という意図もあるだろう。

 また、ここまでなら知られて構わないという線引きの上でもあろう。


 それでも、彼の示す情報は、全て事実だと思ってよかった。

 噓を伝える意味がない。


 むしろ、のちのち、彼らにはマイナスになる。

 彼らが何者か、何を目的に動いているのか、エルスのその推測が、正しければ。


 けれどその事には触れず、のんびりと話を続ける。


「敵同士の王子と聖女が長年の争いを超えて真実の愛で結ばれたという、その結婚式の模様をね、ルポルタージュになどするのです。若くして権威ある賞もいくつか獲ってるんですよ、軍のことにも精通しているし。停戦をどう捉えていいかまだ戸惑っている国民感情を、ポジティブな方向に向かわせてくれるでしょう。この婚儀によって両国の未来への展望が開ける記事をとお願いしています」


「若い女性の口から、自分の結婚話を聞いているとは思えないな。しかも間近に迫った」


「これは特殊作戦ですよ、ジーク」


 そう言うと、初めてペンを止めてこちらを見た。灰青色の目が、自分の姿を捉える。

 エルスは思わず笑みこぼれる。






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