表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生令嬢は精霊に愛されて最強です……だけど普通に恋したい!  作者: 風間レイ
ラスボス少女

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

92/295

ディアだって令嬢

「ディアに対してその態度はどうなのかな」

「これは……」


 カミルは焦った顔でお兄様に視線を向け、片眼を細めて眉をひそめた。


「この状況で威圧を放っている、きみの態度もどうなんだ」

「……ディアとふたりだけで会ったんだって?」


 アランお兄様、機嫌が悪かったのか。気が付かなかったわ。

 ふたりとも、その顔は十二歳の男の子がしていい顔つきじゃないから。

 精霊車の中で一触即発の雰囲気で睨み合わないで。

 

「ふたりだけじゃない。瑠璃様もモアナもいた」

「人間はふたりだけだろう」

「クリスもひどいが、きみもなのか」


 警戒の態勢が幾分緩み、カミルは呆れた顔になった。

 そりゃあね、もう何か月前の話よ。


「アランお兄様、今更そんな前のことを言わないでください。あれは私もカミルもモアナに騙されたようなものなんですから」


 私がアランお兄様の隣に腰を降ろしたら、カミルもようやくソファーに近づいてくる。でも動きが人間を警戒する野生動物のようだ。


「それに彼はこの通り私が怖いみたいなんです。女性恐怖症なんでしょう」

「違う」

「男が好き……」

「ねえよ!」


 素だと目つきだけじゃなくて、言葉遣いもだいぶ悪いのね。

 言ってから失言に気付いて口を押さえ、ため息をつきながら前髪をかきあげる。どさりとソファーに腰を下ろした時には、落ち着いたのか諦めたのか、表情がだいぶ穏やかになっていた。


「……すまない。ディアドラは全属性の精霊王から祝福を受けているだろう? それに魔力が強くて多い。俺にはそれが見えるんだ。妖精姫だと知る前は人間かどうか疑った」

「へえ」


 アランお兄様が珍獣を見つけたような目で、私とカミルを交互に見た。

 カミルが私を本気で警戒している様子なので、こいつは大丈夫だと思ったのかもしれない。


「ルフタネンの王族は、私と同じように精霊王を後ろ盾にした賢王の子孫ですものね。それで祝福が見えるのかしら?」

「かもしれない。アランには水と土の祝福が見える」


 琥珀ってばいつの間に祝福したのよ。


「このことは家族以外には言わないでくれ。俺がこういう力を持つと知られると、面倒なことになるかもしれない」

「家族ならいいんだ?」

「ベリサリオ内で内緒にしておけと言っても無理だろうし、あとで知られると余計に面倒だ」


 特にクリスが……と、小声で呟いたのしっかり聞こえているよ。

 瑠璃の泉でみんなで話をして、翡翠と蘇芳がルフタネンの精霊王を起こしに行った時、精霊獣達を遊ばせながら二時間くらい雑談したのよ。だからカミルはうちの家族全員を知っているし、クリスお兄様とはその前にもフェアリー商会で会っている。


 うちの家族もパウエル公爵もパオロも、カミルやキースにはかなり好印象を持ったみたいよ。今回、カミルが賓客としてアゼリア帝国に来ることがスムーズに決定したのも、そのおかげだと思う。

 ただモアナが余計なことをしたせいで、お兄様ふたりの警戒心はマックスになっていたみたいね。


「で? なんで追いかけられていたんだ? 相手は?」


 背もたれにもたれて腕を組んで、アランお兄様のほうはまだ厳しい顔つきのままだ。


「ニコデムス教の残党だ」

「入国審査を厳しくしているのに、まだ入ってくるのか」

「いや。数年前に入国して潜伏していた者達だと思う。出国出来なくなって、慌ててルフタネン経由で逃げようとしているんだ。俺達を見て、脅して船に紛れ込もうと思ったんだろう」


 カミルの正体を知らずに、ルフタネン人だったら誰でもよかった?

 うーーーん、それはどうなんだろう。


「うちの人間が捕まえて情報を絞り出すだろうから、それはまあいいや。それで? 帝国には船で来たのか?」


 アランお兄様がずっと厳しい顔つきをしていた一番の原因はこれだ。

 転移魔法の出来る人間の扱いをどうするか。法整備からしなくてはいけないことになりそう。


「…………いや」

「まあ、アランお兄様、どうしましょう」


 こういう時、追い詰めちゃ駄目なのよね。

 怒るより、悲しむ方がいいのよね。


「不法入国する方と関係があると思われたら、フェアリー商会は潰されてしまうかもしれませんわ。そうじゃなくても取引出来なくなるかも」

「常習犯だとそうなるかもしれないな」

「せっかくチョコが形になってきたのに」


 口元を手で押さえて俯いて、ちらっとカミルの様子を窺う。

 彼は顔を引きつらせて肘掛けに寄りかかっていた。そのまま腕に力を込めて立ち上がって、すぐに逃げ出す姿勢に見える。


「あれから忙しくて、帝国に来る時間なんてなかった。今日もついさっき転移してきて、入国手続きをしに行く途中だったんだ」

「ふーーん」

「アラン、信じてくれ」


 私が相手では説得できないと思ったのか、カミルはアランお兄様のほうに体ごと向きを変えて話し始めた。


「本当にモアナに騙されたんだ。きみに黙って会おうとしたわけじゃない。きみやクリスを敵に回すようなことをするわけないだろう!」


 そんな必死に弁解しなくてもいいのに。

 それに今はその話題じゃないでしょ。それはもう終わった話……、


「本当にそうなのかな。実はディアに手を出す気だったんじゃ」


 じゃないんかい!


「アランお兄様、面倒なのでその話題は後にしてください」

「面倒じゃないよ。大事だよ」

「今重要なのは不法入国です」


 悲しそうにとか、心を痛めている感じとか、ずっと続けていると話が進まないみたいなんですけど、こういう時はどうすればいいんですか、お母様。


「カミル様、カミル様」


 主人をほったらかしでうろうろしていたサロモンがようやく戻ってきたと思ったら、今度はカミルの横に膝をついて、彼の腕を掴んで揺さぶり始めた。


「こいつ……彼はサロモン・マンテスター。北島のマンテスター侯爵の長男で、俺の仕事を手伝ってくれている男だ。今回のニコデムスとの一件での働きにより、男爵になった」


 男爵?

 侯爵家の長男なのに?


「ただいま紹介にあずかりました、サロモン・マンテスターです。カミル様にお仕えするため侯爵家を継ぐのは弟に任せました。それで男爵です」


 すっと立ち上がり、胸に手を当てて優雅な仕草で自己紹介する男は、楽しそうに内装を見ていた時とは別人のような顔つきになっていた。 

 口元にやんわりと笑みを浮かべ、明るい穏やかな表情で……つまり貴族らしい表向きの顔ってやつよね。


「まあ、そうですのね。家を出てまで王子を守ろうと?」

「いえ、カミル様のお側のほうが面白そうでしたので」


 そこはぶっちゃけなくてもいいんじゃないだろうか。

 それにしても胡散臭い笑顔だな。

 不必要に目をキラキラさせても、目が細いからよくわからないのに……あれ?


「私は商会の仕事にはタッチしていないもので、国を出るのが今回初めてなんです。それでつい入国審査を受けに行く途中で、ジェラートの屋台に立ち寄ってみたくなりまして、公園に向かってしまったところ、先程の者達に追いかけられてしまいました。大変申し訳ありません」

「あ、わかりましたわ」


 胸の前で掌を合わせて微笑む。


「マンテスター様の今の表情に見覚えがあるなと思っていたんです。思い出しましたわ。カミルが正体を明かしに来た時の胡散臭い笑顔にそっくり」

「……は?」


 細い目を最大限に開いて、まじまじと私を見るサロモンの胸元に、カミルの容赦ない裏拳が叩き込まれた。


「うげっ! げほっ! い、痛いじゃないですか。なにを急に」

「お前が笑顔で行け貴族らしい顔をしろと言って、散々鏡の前で練習させられた笑顔はまったくの無駄どころか逆効果じゃないか!」

「ええええ?!」

「カミル。マンテスター様の笑顔を見て胡散臭いと思わなかったの?」

「こいつに様付けなんていらない。サロモンでいい。マンテスターで呼ぶとあの一族が気の毒だ」

「ひどっ!」

「でしたら私からも要望が。私を呼ぶときはディアでお願いします。ディアドラと呼び捨てにするのはあなただけなので、余計な誤解を生みかねません」

「! わかった。以後そうする」


 以前は家族だけの呼び方だった「ディア」が、多くの友人が出来るにつれて、親しい人みんなが私を呼ぶ愛称に代わっている。

 だから「ディアドラ」って本来の名前で呼び捨てにされるのに違和感があるのよね。


「いろいろと気になることはあるが、話を先に進めよう」


 アランお兄様ってば、額に手を当ててうんざりした顔をしているのはなぜかしら。

 サロモンの態度が胡散臭すぎた?


「きみ達はいつもどこに転移してきているんだ? イースディル商会は倉庫があったが、事務所はまだ届け出されていないよな」

「コーレインに知られずに動けるように、港近くに建物を購入したんだ。まだそこを使用している」

「まあ、転移魔法で飛んで来られる場所があるのよね? 秘密基地? アジト?」

「それは見てみたい」

「いや……そんなものじゃないし……」

「カミル?」


 にっこり笑顔で首を傾げる。


「一階がパン屋の普通の家だよ」

「お兄様、証言が正しいか見に行きましょう」


 わーい。俄然楽しくなってきました!


「中はどうなっているのかしら? 誰か住んでいるの?」


 サロモンがジェマに場所を説明して、精霊車をそちらに向かわせることにした。

 カミルは嫌そうな様子を隠さないけど、私もお兄様もそれは無視。

 マジで犯罪になるし、国際問題になる案件だからね。


「中まで来る気か?!」

「当然ですわ」

「アランはいい。でもきみは駄目だ」


 えー、お兄様はよくて私は駄目?

 何か見せるとまずいものでもあるの?

 死体とか?

 あ! エロ本! 

 男ばかりのアジトなら、そういう本があってもおかしくはない!


「到着しました」


 ジェマの声を聴いて素早く立ち上がり扉まで駆け寄ろうとしたのに、カミルはその動きを読んでいたらしい。私より早く行動し、行く手を塞ぎながら手を掴んできた。


「駄目だって言ってる……ほそっ!!」


 驚いた顔で私の手首を掴んだ手を持ち上げて、まじまじと見ている。

 女の子と接点がないとは聞いていたけど、ここまでひどいとは。


「たいていの令嬢は私より細いわよ。私は鍛えているもの」

「これより細い?! 折れるだろう」


 夜会でダンスしているときに、あちこちでポキポキと令嬢の骨が折れていたら大惨事だわ。


「折れないわよ。女にだって筋肉はつくのよ。私はちゃんと運動しているから、お友達より筋肉あるし」


 今日は長袖のドレスだったので、手首を掴まれたまま、もう片方の手で袖をまくり上げようとしたらその手も掴まれた。


「なにする気だ」

「ディア様! いけません」


 慌ててジェマまで駆け寄ってくるし、アランお兄様はカミルの慌てようが楽しいのか、口元を押さえているけど間違いなく笑っている。

 いいんですか? 私の両手が掴まれていますよ。

 精霊獣達もそっぽを向いて知らん顔をしているのは何なのさ。

 カミルの精霊を見なさい。大慌てで天井にぶつかっているわよ。


「これが妖精姫。……だいぶ想像とは違いますが、興味深い! 只者ではないですね!」


 サロモンにいたっては、内装を見ていた時よりも興味深そうな顔で大興奮だ。

 変人なのかな。仕事を任せているんだから優秀なんだよね?


「感心しないで手伝え! アランも! あの家には転移用に家具を置いてない部屋があるんだぞ!」

「ん?」

「彼女が一度でもその部屋にはいれば、今後いつでも街に飛んで来られるんだ。いいのか?」


 おおおおおおおう! お忍びで遊び放題ってことね?

 気軽に自分の部屋から飛んで、買い物して帰れるってことね?


「それは駄目だ。ディアはここで待機。ルーサー、サロモンと行って中の確認を。護衛を連れていけ」

「かしこまりました」

「えええ?! お兄様、私がそんなことするわけないでしょう? 今まで、侍女や護衛が責任を取らされるような行動をしたことがありますか?」

「……城内でならあるな。溝にはまったり、二階から落ちそうになったり、転んで斜面を転がったり」

「三歳くらいの時の出来事を、いつまでも引きずらないでください」

「まじかよ……」


 カミルの驚きの呟き、聞こえているわよ。

 御令嬢はおっとりと行動して、優しくたおやかで、おならもしないなんていうのは幻想だからね。

 そんな夢は、今すぐ捨てなさい。


「まずは座れ」

「へー、私に命令するんだ」

「座ってください!」

「わかったから手を放してください!」

「あ、ごめん」

「カミル、大丈夫だ。ディアは本当にまずいことはしない」


 アランお兄様のカミルを見るまなざしが、徐々に気の毒そうになっているのは気のせいかしら?


「中には誰かいるの?」

「商会の者が何人か」

「ルーサー、全員連れてきて。このあと店に行くから、せっかくだから御馳走しましょう」

「そんなことは……」

「チョコがどうなったか知りたくはない?」


 精霊車は目立たないように脇道に停まり、ルーサーとサロモンが外に出て行った。

 入国審査については、店についてから改めて話してどうするか決めないと。


「ルフタネンには剣精があまりいないんだ。兵士でも持っていない者が多い」

「国によって差があるのかな。きみの精霊は、きみの動きに合わせて移動しているよな」

「気付いていたのか。戦いやすい位置に移動したり、目立たないようにする時には足元や背後に移動させる」


 別に待機していてもいいんだけどさ、お兄様とカミルは精霊とどんな風に戦うかって話をし始めて、私はぽつんと放置されているのはひどくない?

 そうだ、パン屋。

 どんなパンを売っているか覗くくらいならいいんじゃない?


「ディア、精霊車から出るの禁止」

「たのむからおとなしくしていてくれ」


 話に夢中になっているのかと思ったら、しっかり私の行動をチェックしていた。


「精霊獣達をどけてください」


 出て行かないわよ。

 だからジェマまで一緒になって、三人分の精霊獣で私の周りを取り囲むのはやめて。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
本作の書籍版1巻~6巻絶賛発売中。

i449317

― 新着の感想 ―
[気になる点] 「カミルはその動きを読んでいたらしい。私より早く行動し、行く手を塞ぎながら手を掴んできた。」 ついついもう一話とここまで一気読みしました。カミルが、ディアドラの手を掴んでいるのにアラ…
[一言] ディアさんや、そういう付け焼き刃の女の武器は面識のない相手、若しくは儀礼的なやり取りしかしたことの無い相手にやりなさいw 本性バレしてる相手に今さらやっても引かれるか胡散臭がられるかの2択で…
[一言] 更新ありがとうございます! ディアちゃんウケるwww こういうドタバタ好きです! 帝国だけでも精霊王4人?の力で他国民の転移はできないように防げたらいいですね! じゃないと王宮にまで侵入でき…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ