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婚活プレゼンテーション 後編

今回、ディアの態度や台詞が言い過ぎ、干渉しすぎ等、気になるところもあるかもしれませんが、あと二話くらい読んでいただけると、ちょっと納得してもらえると思います。

「それともう一つ提案があります」


 人差し指を立ててにっこり微笑んだら、また四人とも警戒して表情をこわばらせた。

 ホントみんな、失礼だと思うわ。


「これからの会話は、ここにいる六人以外には絶対に話さないでください。前回の皇太子妃候補の話の広がり方から考えて、申し訳ないですけど、皆様の側近も護衛も侍女達も信用出来ません。よろしいですね」


 全員の顔をゆっくりと見つめ、頷くのを確認してから話を続けた。


「こうして皇太子妃候補を複数選んだという事は、皇太子殿下にはまだ、意中の女性はいないという事ですよね」

「……そうだな」

「クリスお兄様も、まだ特別な女性はいないと言ってましたよね?」

「言ったね」

「でしたら、女性側に選んでもらってもいいんじゃないでしょうか」

「ディア?!」

「そんな、不敬ですわ!」


 モニカとスザンナが悲鳴のような声を上げた。

 まあたしかにね、皇太子が選ばれる側っていうのはまずいよね。


「おふたりとも落ち着いてくださいな。もう少しお話を聞いてください。私だって臣下の身で皇太子殿下に不敬をはたらく気はありませんわ」

「うっさいわ。さっさと話せ」


 うちの皇太子、度量が大きいというか、もう諦めているというか。

 でも口調が乱暴じゃありません?


「最終的にお選びになるのは皇太子殿下であることに変わりはありません。でも、クリスお兄様とふたりのどちらかが、どう見ても親密な様子でいたら殿下は選ばないでしょう? そこで()を通す方ではないですし、ベリサリオとの関係もありますものね」

「…………」


 無言で片眉だけ上げるのはやめてください。こわいですー。


「結婚って女性側の方が変化が大きいんですよ。家を出て新しい土地で新しい家族と生活しなくてはいけない。連れて行けるのは、侍女がひとりかふたりってことが多いと聞きます。特に今回は将来の皇妃になるか、将来のベリサリオ辺境伯夫人になるかの選択です。どちらも大変でしょう?」


 一拍おいて四人の顔を眺める。


「特にベリサリオって、嫁ぐ側からしたら嫌な家じゃないですか?」


 話の流れが予想外だったのか、男性陣は驚いた顔をして女性陣はどう答えたものか困った顔になった。


「殿下。選べるなら、ふたりは断然皇太子婚約者を選びますよ。それを期待されているし、もうその覚悟を決めてその気でいるんですから。皇太子殿下って女の子達に人気あるみたいですしね」

「人気ならクリスだってあるだろう」

「そういう子はたいてい、頭がお花畑でクリスお兄様の顔に惹かれているんじゃないかしら? だって、ベリサリオには私がいるんですよ。領民も領地の貴族達も特別視していて、えらく素敵なお姫様だと誤解してあがめちゃっている人もいる妖精姫が。私がいなくなって、新しく嫁が来たら比較されるでしょ?」

「ああ……」


 納得した顔になった皇太子は、ちらっと隣にいるクリスお兄様を見て、


「それにこいつがな……」


 小声で呟いた。


「なんだよ」

「シスコンがひどすぎてな」


 それな。


「それにうちにはフェアリー商会があります。お母様も商会の仕事に関わって、自ら広告塔になっています。ベリサリオに嫁げば、そういう仕事もすることになります。今は選ばれることがゴールに見えているかもしれないけど、本当に大変なのはその先じゃない?」


 四人からの返事はなくて、部屋はシーンと静かになってしまった。

 この雰囲気をどうすんだよとでも言いたげに、横からアランお兄様につまさきで足を軽く蹴られるし、クリスお兄様はじとっとした顔で睨んでくる。

 その顔も女性陣に見られているんですからね。


「だから女性の方が、どちらならやっていけるかを考えるのもありじゃないかなーって、思ってみたりなんかしたわけです。あ、私はもちろんクリスお兄様のお嫁さんには全面協力するし、学園を卒業したらさっさと家を出るからね」


 何か言いたそうに口を開いたクリスお兄様は、でも何も言わずに口を閉じた。

 

「でもね、悪いことばかりじゃないと思うのよ。やりがいはあるし、皇族には今、女性が誰もいないんですもの。嫁姑問題もない。殿下は親しくなると口調がぞんざいになるけれど、優しいし偉ぶらないし、帝国の理想の男性像なんでしょう?」


 皇太子は褒められるのが苦手みたいで、視線をそらして紅茶を飲んでいるけど、女性陣はうんうんと何度も頷いている。


「クリスお兄様はね、私にいろいろ言うのを見ているでしょ? いつもあの調子だったら、うざいし嫌いになると思うんだけど、絶妙なさじ加減で大人扱いしてくれるし、私の意見も尊重してくれる。フェアリー商会の人達や侍女達の意見だって、ちゃんと耳を傾けるのよ? 奥さんの話もちゃんと聞くと思うの」

「そうね。もっと近寄りがたい人かと思っていたのに、私達にも呼び捨てでいいって言ってくれたものね」

「ベリサリオ辺境伯とナディア夫人のような夫妻は女性の憧れよね」


 クリスお兄様は無表情でいようとしていたのに、


「ほーー。すでにふたりとそんなに打ち解けていたのか」


 と皇太子に肩を押されて、微かにだけど頬を赤くして手を振り払った。

 

「そんなことはない」

「妹がいるのは得だな」

「モニカは……」

「え? 私?」

「ノーランドの女性は大きいからってことを気にしていて、せっかくの奇麗な金髪も広がるともっと大きく見えるからって、いつも編み込んでしまっているの。でもそんな大きくないでしょ? 可愛らしい顔だし、手足が長くてうらやましいくらいだわ」

「大きい?」


 意外そうな顔で皇太子はまじまじとモニカを見ている。

 まあ、皇太子よりでかい女性はなかなかいないよ。


「ベリサリオは確かに細身が多いが……そんなに変わるか? 身長も僕より低いし、髪型は母上が何か言っていたよな?」


 クリスお兄様にとっても意外な話だったらしい。


「そうですね、結い上げる時に髪を少し残して、ゆるくカールさせたら可愛いんじゃないかって言っていたわ」

「そうか。うん、似合いそうだね」


 モニカは真っ赤になっちゃって、扇で顔を隠してしまっている。

 社交辞令はともかく、面と向かって男の子に褒められる経験って、なかなかないもんだよね。


「スザンナはギャップの人なのよ」

「私もなの?」


 当たり前でしょ。

 スザンナだけスルーしたらまずいでしょ。


「スタイルいいし大人っぽいしで誤解されがちだけど、そういうことを言われるのが嫌で男の人を近づけないできたから、男友達すらいないのよ。気が強いくせに照れ屋だし、可愛いものが好きなくせに割と大胆……」

「ディア! 何でもかんでも言えばいいってものではないでしょう!」

「あ、これは内緒ね」


 フェアリー商会の下着に試着のころからチャレンジしてくれて、今では現代風の下着とガーターがお気に入りよ。レースが可愛いのがいいんですって。

 男性から見て色っぽいというのが、わかっているかどうかは不明だわ。


「男友達もいない?」

「よく言い寄られているイメージがあるんだが」

「十以上年上の方なんて嫌です」


 同年代の男の子から見ると、大人っぽくて相手にしてもらえなさそうで声をかけにくい。で、ひと回りくらい年上の男が、大人の僕なら釣り合うだろうと下心丸出しで言い寄ってくる。

 最近は皇太子妃候補になったことで、そういう男が近づいてこなくなってほっとしているらしい。


「少しはお見合いっぽい雰囲気になってきたかな。どうもみんな責任や役目ばかり考えて、目の前にいるのが魅力的な異性だってことを忘れているみたいなんだもん。皇太子殿下は特に新しい皇族の家庭を一緒に作る相手なんですからね。これだけ優秀な女性達なんです。最高の味方にもなれば、最強の敵にもなるのが奥方ですよ」


 決まった。

 私、今いいこと言った!


「いやいや、そこのどや顔している十歳児。いつも以上におかしいだろう」

「おかしい?」

「殿下の言う通りよ。ディアって恋愛経験ないわよね」


 いかん。モニカに不思議そうな顔をされてしまっている。

 十歳になったから、そろそろ子供の振りをしなくていいかと思っていたんだけど、駄目だったかー。


「もちろんないわよ。好きになったこともないし。でもほら、話は聞くでしょ? 周囲にいろんな大人がいるし」

「耳年増じゃないか」

「殿下! それは言ってはいけないと思います!」


 どうせ前世でも、二次元にしか恋していないですよー。

 恋人いない歴……あれ? 何年だっけ? もう長すぎて何年でもいいや。

 

「あの、せっかくの機会ですから、お聞きしてもいいでしょうか」


 ふいにスザンナが真面目な口調で皇太子に尋ねた。


「ディアが皇妃になる気がないというのは何度も聞いてはいるのですけど、殿下としては、本当は彼女を妻に迎えたいと……」

「それはないな」


 否定がはやっ!


「今の話を聞いていてもわかるだろう? こいつはおかしい。十歳の女の子の中に五十過ぎのおっさんが入っていてもおかしくない」

「おかしいわ!!」


 思わず突っ込みを入れてしまった。

 いくらなんでも五十過ぎって。しかもおっさんって、失礼だろ!


「今のベリサリオはやばい。家族全員が優秀なうえに精霊王が後ろについている。もしだぞ? もし万が一のことがあった場合でも、現状ならベリサリオが独立するだけで済む。最悪、精霊王が全員ベリサリオに移住してしまっても、友好国として自然が壊れないようにしてもらえるだろう。だがディアが皇妃だった場合、国ごと乗っ取られる危険がある」

「ないし」

「なくてもそのくらい、おまえはやばい。次に何を言い出すか予測がつかなくて、そばにいたら気が休まらん。首筋に刃を突き付けられながら生活するような気分になりそうだ」


 どんなプレイだ。

 つか、どんだけ私がこわいのよ。


「そ……うなんですね。納得しましたわ」


 え? 納得しちゃうの?


「そのベリサリオの一員になるか、皇妃になるか。ちょっと怖くなってきましたわ」


 モニカまで、こわがらないでよ。

 私、そんなにやばい?


「もうその話はいいですね。私と殿下の関係は今くらいがちょうどいいんです」

「おおいに同意する」

「で、私の提案なんですが」

「は? 今までの話は何だったんだ?!」

「さっきのが提案じゃないの?」


 あれ? 私なにか提案しましたっけ?


「女性陣に選んでもらった方がって」

「まあ、クリスお兄様ったら。それはあくまでこれからする提案の理由をわかってもらうための前振りですわ」

「前振りが長すぎるだろう!」

「ディア、私達のことを心配してくれるのはいつもとてもありがたいのだけど、あなた、ちゃんと自分のことは考えている?」


 最近ぐっとおとなびてきたモニカは、私と歳が一つしか変わらないとは思えない。三歳年上のスザンナと同じ年くらいに見える。

 その彼女に心配そうに尋ねられて、なんの話かよくわからずに私は首を傾げた。


「確かに成人するまでは親が政略結婚を決めるのは禁止だけど、水面下ではいろんな縁組が進んでいるのよ。ディアに釣り合う男性は数が少ないのだから、早めに真剣に考えた方がいいわ」

「いくらなんでも、まだ十歳だよ」


 とうとう耐え切れずに、クリスお兄様が反論した。


「でもね、もし帝国にディアのお眼鏡にかなう人がいなかった場合、精霊王達はどうするかしら。だったら自分達と暮らせばいいと、ディアを連れて行ってしまいそうな気がするの」

「私もそれは思ったわ。瑠璃様はディアをすごく可愛がってくださるでしょう?」


 スザンナまで言い出したせいで、クリスお兄様だけではなくアランお兄様まで真顔になった。


「よし、行き来しやすい領地の男を選ぼう」

「情報を集めてきます」

「やめろ、バカ兄貴ども。お前たちの都合で被害者を作るな」

「そこの三人、何を勝手なことをほざきやがってくれているんでしょうかね。ともかく、私からの提案を聞いて!」


 全員、無言で頷くのを確認してから口を開く。


「殿下が婚約者選びを急ぐのは、お妃教育があるからですよね?」

「そうだ」

「では、それをすぐにでもモニカとスザンナのふたりに受けてもらいませんか?」

「ふたりとも?」

「はい。お妃教育はベリサリオにきても役に立ちます。貿易と外交の最前線ですよ? それにお妃教育は皇宮で行われるはず。クリスお兄様は来年から皇宮で皇太子殿下の補佐をすることになっています。四人が皇宮に顔を出すことになれば話もしやすくなるでしょう?」

「たしかに」

「お妃教育もひとりで受けるより、ふたりの方が頑張れる気がしますわ」

「そうね。ベリサリオか皇族。どちらになっても今後も長くお付き合いしていくんですもの。いい機会かもしれませんわ」


 それに、皇都にいれば領地のうるさい貴族共も干渉してこられない。

 どうよ。いい提案でしょう。


「よし、前向きに検討しよう。それにディアの話もいろいろと参考にはなった」

「他人事だから言えるんだよ。四人が顔を合わせる機会が多くなると、面倒な問題が起こる可能性もあるんだからな」


 同じ人を好きになっちゃったりとかね。

 でもそれって、どんな状態でも起きるときには起きるよ。


「クリスお兄様ったら、ここは男らしく私のお姉さまになる人を連れてきてくださいな。アランお兄様なんて、行動力の速さにびっくりですわよ。意外と情熱的……」

「ディア! ほら、僕達はもう行こう。あとは四人だけで話した方がいい」


 鎌をかけたつもりが大正解だったらしい。

 慌てて立ち上がったアランお兄様は、目元を赤くしていた。



読んでくださってありがとうございます。

誤字報告、助かってます。


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