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学生らしいランチ?

 翌日カーラは教室に来なかった。欠席の理由は体調不良。

 やはり皇太子との茶会をドタキャンした翌日に、元気に授業を受けるわけにはいかないだろう。

 本当に体調が悪いならお見舞いに行きたいところだけど、今は私が顔を出したら騒ぎが余計に大きくなるんだろうな。


「ヨハネス嬢、なんで休んだの?」

「体が弱いのかしら」

「サボりだったりしてな」


 学園が始まって一週間、まず親しくなるのはたいてい同性の友達だ。

 それが新しい週になって、男女関係なく固まって話しているグループを見かけるようになってきた。

 あれは週末に、寮同士や領地同士の茶会という名の懇親会をやった人達かも。


 このクラスは私とパティとカーラ以外、みんな伯爵の子供だから、誰と仲良くなっても家柄的に全く問題がない。

 そうか。こうやってみんな徐々に親しい人を作って恋人になっていくのか。


 あれ? 身分の高い令嬢は不利じゃね?

 男が身分が高い分には選び放題だけど、女の場合は上の身分の家の令嬢を口説くって覚悟いるから、チャレンジャーじゃないと近付いてこないよね。

 伯爵家なら問題ないはずだけど、うちの家族の許容範囲狭そうだからな。


「私からカーラに連絡取ってみようかしら」

「うーん。モニカが取っていると思うのよね」


 従姉だし、昨日ノーランド辺境伯夫人から連絡があったって事は、あちらで動いているって事でしょ。ノーランド辺境伯が仲裁に乗り出してくれているのに、私達で解決しちゃったっていうのは問題ない?

 今はこちらが動くと、自分達の不手際なのに辺境伯側に気を使わせたと言い出す人もいると思うの。


「そうね。モニカ達から話を聞いてみてからの方がよさそうね」

「うん。お昼にでも話してみよう」


 そうパティと話をしていたのだけれど、予定が変更になる事はよくあることだ。


「ディアドラ様、あちらで、あの、お兄様が」


 たまにお話するお嬢さんがふたり、頬を上気させて慌てた様子で話しかけてきた。

 ざわざわと教室内が賑やかだ。女性陣は髪を整えたり、ドレスを意味もなく擦ったりしている。そして誰もが教室の入り口を見つめていた。


「アランお兄様」


 ドアの取っ手に手を置いたままこちらを見ているお兄様は、教室中の注目を浴びていてもまったく気にしていない。隣にはダグラスとジュードまでいるじゃん。

 ベリサリオ辺境伯次男とカーライル侯爵嫡男、そしてノーランド辺境伯の孫だよ。女子生徒の目が輝きを増すはずだ。


「教えてくださってありがとう」

「いえ。声をかけていただけたので嬉しいです」


 声を震わせて言うほど、アランお兄様と話せただけで嬉しいの?! なんで?!

 この子、皇太子から声を掛けられたら、失神するんじゃない?


「お兄様、どうなさったの?」


 注目を浴びるのは慣れていたつもりだったけど、視線が背中に痛い。

 超優良物件三人分の女性の嫉妬と羨望の眼差しよ。親に散々、家のためにいい男を捕まえて来いと言われている子供達は、幼い分真面目に一途に親の言う通りに行動しようとするからね。


「これから昼食を食べに行くんだろう? 一緒に行こう」


 おおお、お昼のお誘いとか学園生活っぽい。

 相手がお兄様なのが残念だけど、お友達も一緒だもんね。


「そちらのおふたりも?」

「学園に来てから挨拶もまだしていないんだろう? パティも一緒に誘って食堂に行こう」

「そうね。待ってて」


 くるりと教室内に視線を向けて、こちらを見ていたパティの元に足早に戻る。


「アランお兄様がお昼を奢ってくれるんですって」

「まあ、私も行ってもよろしいの?」

「もちろんよ」


 荷物を片付けて教室を出るまで、ずーーっと注目されっぱなし。

 パティと廊下に出ると、いつの間にかヘンリーが仲間に加わっていた。

 ジュードとヘンリーって、体格がよくて戦闘訓練を積んでいて、見た目はいいけどゴリラっていう共通点があるから気が合うのかもしれない。

 ノーランドとマイラーは草原と海の違いはあるけど、戦う民族って感じだもんな。


「うおお? アランが女の子と一緒にいる!」

「馬鹿、あの子は妹さんだよ」


 食堂では、いつも仲のいい八人で集まってご飯を食べていたから、他の子達の動向をあまり気にしていなかった。だから男の子ばかり集まっている近くに行く事なんてありえないし、せっかく学園に来ても知っている人とばかり接していたのよ。

 一週間たって、そろそろ知り合いを増やそうかなと思っていたところに、アランお兄様が声をかけてくれたのは渡りに船ってやつだったんだけど、突然、男子生徒に囲まれるとは思わなかった。


「この子が妖精姫か。うわ、可愛いな」

「アランとあまり似ていないな。よかったな、こんな愛想のない雰囲気にならなくて」

「散れ散れ。邪魔だ」

「席を取ってやるよ。六人だろ? その代わり隣のテーブル俺達な」

「離れろ」


 お兄様がガードしようとしてくれても、みんな平気でぐいぐい傍に来て自己紹介していく。こういう時にどんな顔をして対応したらいいかわからなくて、曖昧に微笑んでいただけなんだけど、それがなぜかどえらい好評だ。


「さすが妖精姫。透明感がある綺麗さだ」

「気が強いって聞いていたけど、照れてる顔が可愛いよな」

「グッドフォロー嬢だって、ものすごい美人じゃないか?」

「さすが公爵令嬢、物腰が上品だ」


 やばい。前世から今まで、同年代の男の子に面と向かって可愛いと言われた経験なんてないから、どう反応するのが正解かわからない。

 そんなことないって謙遜すべき? ありがとうってお礼を言うべき?

 あ、パティを参考にすればいいんだ。


「う……え、あの……」


 パティも慣れてなかったあああ!

 真っ赤になって、しどろもどろになってる。


「おい、ふたりしてマジ可愛いぞ」

「おう。真っ赤になっているところが最高」

「おまえらそこに一列に並べ。ぶっ飛ばしてやる」

「待て待て。アラン、こんなところで剣精を光らせるんじゃない」

「ひぇえ。アランが本気で怒ってる」


 ジュードに止められているお兄様の手が赤く光っているのを見て、男子生徒は慌てて距離を取った。私やパティの精霊も男の子があまり近くに来ようとすると、間に割り込んで牽制していたし、いまにも精霊獣になって飛び掛かりそうだったのよね。


「こっちに座れ。ガードしておくから」

「おまえ達、他の生徒の迷惑になるからあまり騒ぐな」


 ヘンリーが席を確保してくれて、ダグラスとふたりでエスコートしてくれた。

 お兄様達の友人だけじゃなく、ダグラスの友人まで近づいてきそうなのを追い払わなくちゃいけないから大変よ。


「なんでこんな騒ぎに?」

「高位令嬢が側近や護衛に囲まれて八人も揃っているから、今まで声をかけたくても近づけなかったんだよ。それが今日は俺達と一緒にいたから、だったら自分も話したいって野郎どもが押し寄せて来たんだ」


 お兄様がいるから側近や護衛の子達も、たまにはお友達とご飯を食べに行っていいよと少人数で行動したのがいけなかったのか。

 ダグラスの説明を聞いてパティと顔を見合わせてから、他のお友達はどうしているかと食堂の中を見回すと、彼女達はいつものように側近や護衛と一緒に同じテーブルに集まっていた。

 側近や護衛の存在、マジ重要。


「今日はこちらで食べるって伝言は頼んだけど、大丈夫かしら」

「見りゃあわかるだろう」


 そうだけどさ、ジュードもヘンリーもいるのよ?

 そうしたらモニカやエセルも呼んでもいいじゃない。


「いや、遠慮しておく。姉貴と学園で接触したくない」

「俺もいい。たぶん向こうが嫌がる」

「そうなの?!」


 近くのテーブルに座る生徒が決まって、ようやく騒ぎは収まった。

 きっとそのうち私のことも見慣れてくれるだろうけど、まだまだ妖精姫が物珍しいんだろうな。

 怖がられてなさそうなだけマシだけど、近くに座ったからって会話しないし、食事がおいしくなるわけじゃないよ?


「昨日、エルディと皇太子が話をしたんだって?」

「へ?」


 ダグラスに小声で言われて、一瞬、意味がわからなくて呆けた顔をしてしまった。


「ああ、皇子殿下か」


 エルディ、アンディ、パティって、三人幼馴染だから同じような呼び方にしたのかな。

 アンディは、クリスお兄様がよくそう呼んでいるから違和感ないんだけど、エルディって違和感あるなあ。そんな可愛い呼び方が似合うか? あの俺様お子様皇子に。


「今の顔、さっきの男共への対応との落差がひどいな」

「しょうがないでしょ。あなただって面と向かってたくさんの女の子にカッコいい! 素敵! って言われたら困るでしょ」

「逃げる」

「ほら見ろ」

「琥珀様のところで話したんだな?」


 ジュードに聞かれて頷く。

 遠くに見えるエルディくんは、機嫌よさそうに友人と食事中だ。


「寮に戻ってからも、夜遅くまでふたりで話をしたらしくてな。皇子は今朝から上機嫌だ」


 それはよかった。

 これで皇族から外してくれなんて言わなくなるだろう。


 何か話したいことがあったわけではなく、ただ一緒に食事するだけだったらしくて、それからは近況報告というか、世間話というか。学園内の話を一年の三人に教えてくれたりして、和やかに食事は進んだ。


『モニカ、用があるって』


 モニカの精霊獣から伝言されたようで、不意にジンが声をかけてきた。

 

「なんでわざわざ伝言? 普通に声をかけてくれればいいのに」


 水色に輝く光の球が、モニカ達のいる方向にすーっと戻っていく。

 私の返事を聞いたモニカがこちらを見て、すぐに立ち上がって近づいてきた。


「どうしたのモニカ」


 アランお兄様達に断りを入れて私も立ち上がり、モニカが来るのを出迎えた。


「食事中にごめんなさい。夕べ、お婆様がナディア様に面会を断られたと聞いていて、お昼は別々に……お兄様?!」

「よお」


 会話の途中でジュードがいる事に気付いたモニカは、アランお兄様とジュードを交互に何度か見て、次に私の顔とパティの顔を見た。


「怒っているわけではなかったのね。でもなぜお兄様が?」

「俺はアランと同じクラスなんだぞ。ここにいても不思議じゃないだろ」

「それはそうですけど……」

「たまには一緒に食事しようってアランお兄様が誘ってくれたの」

「パティもいるし、俺ひとりより何人か知り合いがいた方がいいかと思って、こいつらにも声をかけたんだよ」

「そうだったんですね」


 アランお兄様の説明を聞いてモニカもやっと安心したらしい。

 ノーランド辺境伯夫人はお母様に会えなくて、だいぶ気にしているのかな。

 でもいくらヨハネス侯爵夫人の実家だからって、今回くらいのことで、ノーランドとの付き合いまで変えたりしないって。


「カーラが今日お休みしたでしょ。そのこともあってお話がしたいんですけど、授業が終わった後、お時間ありますか?」

「はい。私もお話したいですわ」

「サロンの個室を確保しましたので、そちらでお話しましょう」

「まあ素敵。私、サロンを使うのは初めてです」

「パティもぜひ一緒に」

「はい。私もお話を伺いたいです」


 個室なら話しやすくていいね。

 でもモニカがこんなに気にしているのに、全くこの話題に触れずにメシを食っているイケメンゴリラはなんなんだ。


「本人達が気にしていないのに、親達が騒ぎすぎだろう。ベリサリオとヨハネスが喧嘩しても、うちは関係ないって放置すればいいのに。伯母上を甘やかしすぎだ」


 おお。さすがいずれはノーランド辺境伯を継ぐ男。

 ジュードをもうゴリラ扱いはやめよう。しっかりしたイケメンだった。

 


読んでくださってありがとうございます。

誤字報告、助かってます。


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