閑話 精霊王とカカオ 4 カミル視点
本日二回目の投稿です。
ようやくシリアスを抜けました。
商談の裏話をササッと書いて学園編に戻りたいと思います。
王宮に住むようになって三年が過ぎた。
毎日、王族としての勉強や兄上の仕事の手伝い、精霊獣の育て方をいろいろなところで広め、チョコの販路拡大のために忙しく動いて、あっという間の三年だった。
南島の作物を東島を経由して北島に運び、そこから帝国に運ぶのでは時間がかかりすぎる。南島と北島を直接結ぶ航路の運用や、帝国やベジャイアでは作れない作物を売り込むために、転移魔法は非常に強みになった。
兄上と南島の侯爵令嬢との縁談は順調に進んでいて、来年には婚礼の儀式を行うと発表された。
南島の人達は素朴で一番付き合いやすい。
東島の人は王宮がある特別な島、国の中心の島だというプライドが強い。
北島は帝国やシュタルクとの付き合いの影響か、いろんな考え方の貴族がごった煮のようになっている。それが面白くもあり、やりにくくもある……と、兄上が言っていた。
俺に言わせると、ルフタネン人は基本的によく言えば優しく明るく、悪く言えば能天気だ。
精霊王が姿を現さなくなって百年以上、王族の力がどんどん弱まっているのに、内戦がいまだ起こっていないのはそのおかげだと思う。
国王が、島が四つあるんなら四人の嫁を貰えばいいんだろう、なんてアホなことをしでかしても、それで積極的に王位継承争いに参加した島は西島だけだ。正妃と第三王子がたいていの事をしでかしている。
内戦をやるって言っても、誰も参加しなさそうだもんな。
精霊が減ってしまったから、海軍だってもうたいして強くないんだよ。
帝国で皇位継承問題が持ち上がって他国が攻めた時に、うちがベリサリオに戦争を仕掛けなかったのは、勝てるって思うやつが誰もいなかったからだ。
戦争するより、作物育てた方がいいんじゃね? 帝国戦争するなら買ってくれるんじゃね? ってことで儲けはしたらしい。
そういう国民性は嫌いじゃないけど、攻められたら終わりだからさ、減ってしまっている精霊は増やしたいわけだ。
だから帝国を見習い、精霊王に呼び掛けて、再び精霊の国と胸を張って言えるようにしようという考えで他の島がまとまっていく中、西島だけはニコデムス教を広めていると聞いた時には、皆がしばらく返答出来ないくらいに衝撃を受けた。
「滅びる気なんですか」
「ベジャイアの軍と協力して、第三王子を国王にする気のようです」
西島の貴族達は何を考えているんだ。
西島がベジャイアに乗っ取られるだけだと、子供の俺でもわかるぞ。
その場合、帝国だって放置は出来ないだろう。
ニコデムス教は精霊王と協力体制が進んでいる帝国にしたら、許せない考え方だ。
帝国本土を戦場にしないために、北島を最前線にされる危険だってある。
「彼らは東島に攻め込んでくるつもりでしょうな」
「その前に西島の精霊を全滅させられてしまいますよ。せっかく精霊王との対話をモアナ様にお願いしようとしていたのに」
「彼らは何を考えているんだ」
「……カミル殿下は妖精姫と親しいのですよね」
は?
「おおそうでした。妖精姫と友人だとブラントン子爵が話していましたぞ」
あのくそ爺!! 余計な事ばかりしやがる!!
帝国に連れて行ってくれたくらいしか借りはないけど、そのおかげで妖精姫と会えた事は間違いない。ただ、子爵はそれを吹聴して態度が大きくなっているうえに、第五王子である俺は自分が育てたと言い出しているらしい。
本当に何を考えているんだ、あの爺さんは。
「妖精姫から皇帝に話を通してはいただけませんか」
「帝国の精霊王はルフタネンの精霊王とどういう関係なんでしょう。知り合いならばあるいは」
「まずはモアナに相談させてください。彼女の意向を聞くのが先だと思う」
「そうだね。私とカミルとでモアナと相談してみよう。西島の事であまり慌てないように。準備はしつつも冷静に対応してくれ」
兄上の言葉に三島の代表も同意して解散になった。
ブラントン子爵は伯爵位でも狙っているのか? 俺と妖精姫が一度しか会った事がないことは知っているだろうに。
会議後に私的な区画に兄上と向かう。
モアナと会う時によく使う広いテラスの部屋があるからだ。
他の精霊王が住居に引き籠っているせいで、モアナは暇を持て余して、兄弟でゆっくり話をしたくてその部屋を使うたびに、どうもモアナが来るなあと思っていたら、彼女としては、その部屋に来た時は遊べるよという合図だと思っていたらしい。
遊ぶと言っても、俺達の精霊獣と戯れて少し雑談して帰っていくだけだ。
俺達が部屋にいない時は、置いてある鈴を鳴らして呼んでくれればいいよと言ったら、本当に遠慮なく鈴が壊れそうなほどに力いっぱい振って呼ぶ。
祝福をくれた精霊王だから、話し相手くらいにはいくらでもなるけど。
「鈴が鳴っている」
綺麗なんだし、精霊王なんだから、もう少しこうなんとかならないのか。
『もーう、遅いよ! 大変なんだから!』
「悪い悪い。どうしたんだい?」
この部屋にはごく限られた人間しか入れないから、兄上の側近がお茶を淹れてくれる。
俺の方はサロモンとボブがついてきていた。
ボブは正式に俺の護衛に任命され、サロモンとヨヘムは俺の傍にいると退屈しないからと嬉々として側近を継続している。サロモンもとうとう全属性精霊獣持ちになりそうなので、そのうち転移魔法で犯罪を犯さないか不安だ。
ファースはいったんハルレ伯爵の元に帰ったのに、またこちらに戻ってきた。
そんなに俺の周囲は面白いことが多いか?
『ニコデムス教が西島に教会を建てて、精霊を殺し始めたわ』
「精霊だけ殺せるの?」
『ペンデルスの魔道具も使っているけど、基本は人間諸共よ。子供も殺されているわ』
「……カミル。帝国の様子見と、いい関係を維持するために動いてくれないか」
「それはかまいませんけど、ここも危険じゃないですか?」
「危険はどこも同じだ。あちらこちらに少数で移動する分、おまえの方が危険だろう」
その分俺は、自分の身を守れるように。兄上とふたりきりで話す機会もあるので、その時は俺が護衛の代わりになれるように、今でもいろんな人に訓練をつけてもらっている。
おかげで、さらに目つきが悪くなったと言われるようになってしまった。
『ふたりとも平気よ。戦争が始まったら、瑠璃の湖に転移すればいいのよ』
「瑠璃?」
『帝国の水の精霊王よ。私の兄なの』
「はああああ?!」
「モアナ、その話は初めて聞いたよ?」
『あら? 言わなかった? 瑠璃の湖は、なんとベリサリオの城の中にあるのよ』
「不法侵入になるだろうが!」
「落ち着けカミル。相手はこれでも精霊王だ」
良かれと思ってくれていることはわかっている。
彼女としては、気に入った子供を守ろうとしてくれているだけだ。
でも、下手なことをしたらそれが原因で戦いになりかねないからな。
ルフタネンの王子が、妖精姫のいる城に不法侵入したとか、いろんな意味でやばいわ。
「モアナ。船で行き来するしかないから、私達は西島の様子がよくわからないんだ。戦争になりそうな程にまずいのかい?」
『少なくともニコデムス教は西島の精霊を皆殺しにするつもりでしょう。そうしたら、あの島は作物の育たない島になるっていうのにね。でも大丈夫。あなた達は転移すればいいのよ。最初は私が連れて行ってあげる』
「待て待て待て! 俺が帝国に行って辺境伯か妖精姫に確認するまで待ってくれ」
「……俺」
「私が、確認しますから!」
言葉を使い分けるの、ほんとめんどくせえ。
『そうなの? じゃあ湖で待っていてあげるから早く来てね』
「待って、モアナ。西島の話をもう少し聞かせてくれないかな」
兄上が粘り強くモアナの話を聞いている間に、俺はさっさと行動を起こした。
早くしないとモアナは、おそーいとか言いながら、俺を抱えて勝手に湖に不法侵入をかましかねない。
「サロモン、まずは北島に行く。チョコは用意出来ているよな」
「はい。いやー、本当に楽しいですね。今度は不法侵入ですか」
「しないから!」
モアナと話している兄上に退室の礼をすると、ひらひらと手を振ってくれた。
どこの精霊王もあんな感じなんだろうか。
全属性揃ったら、どんな騒ぎになるんだろう。
「帝国の精霊王もああいう性格だったら、大変なことになりそうですね」
マジで勘弁してほしい。
◇◇◇◆◇◇◇
ベリサリオ辺境伯の城に向かう精霊車の中で、俺は最高に不機嫌な顔をしていると思う。
サロモンと北島に転移し、事情を主だった貴族に説明し、チョコを売るという名目で妖精姫に面会を申し込む話をした途端、ブラントン子爵が食いついてきたのだ。
確かにコーレイン商会は彼の物だし、彼の孫だという話で商談に加わるのだが、彼まで帝国に同行する必要はないだろう。しかも商談を仕切るのがコニングだというのが納得できない。
「こればかりは引けませんな。ハルレ伯爵家やマンテスター侯爵家ばかりと親しくなさるのはどういうことですか」
「侯爵や伯爵と同等に扱えという気ですか?」
「そんなことは言っていませんが、私の商会を使う以上、うちの者を連れて行ってもらいます」
帝国にはキースとヨヘムとボブがついてきている。
サロモンは子爵と言い合いになるから置いてきた。
ファースには西島の情報を集めてもらっている。
「商談は私に任せていただけますか?」
隣に座る男を横目でちらっと見て窓の外に視線を向けた。
「かまわない。でも妖精姫と話す算段はつけたい」
「承知しています」
本当かよ。まるで信用出来ない。
普段、フェアリー商会の担当は違う人だって聞いたぞ。なんで今回だけこいつなんだ。
今回、俺達が乗っているのはフェアリー商会製の精霊車だ。
精霊が浮かせて動かすんだから、軽い躯体が作れればいいわけで、我が国でも少しずつ増えてはいるけれど、やはりまだフェアリー商会の物が一番だろう。
こういうのは精霊に馬車を浮かせようという発想を、最初にしたやつがすごいんだよな。
「到着しました」
長い坂を延々と登った気がする。
コニングの後に続いて精霊車を降りると、うちの王宮と同じかそれ以上に大きな建物が更に高いところに見えた。あれが城の本館か。
「こちらですよ」
今日訪問するのは、フェアリー商会用に建てられた別館なのだそうだ。
俺の北島の屋敷よりもずっと大きい。
ふと視線を感じて顔をあげたら、二階のバルコニーから女の子がこっちを見ていた。
四年ぶりに見るディアドラは、あの頃よりもっと可愛くなっていた。
ハーフアップにした金色の髪は、風に揺れると銀色に見える。今は光の加減でよく見えないけど、大きな目の中の瞳が紫色なのを思い出した。
「カミル様」
コニングに促されて会釈する。
俺の事を覚えているだろうか。
いやそれより、歳の近い女の子とまともに話したことがないんだけど、何をどう話せばいいんだ?
気を付けるのは目つきと言葉遣い。
商談はコニングに丸投げすればいいんだよな。
やばい。上手くいく未来が見えない。
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