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友達はモテモテ

 木々が色づき、秋の気配が強くなってきた城内を、精霊獣に囲まれながらてくてくとお散歩。

 走り込みはちゃんと続けているんだけど、ダンスの練習のある時くらいはやめてもいいんじゃないの? と、お母様に言われてしまった。

 たぶん、娘がムキムキになったら困るからだろうね。

 確かに普通の令嬢と違って、足にも腹にも腕にも筋肉はついている。でも運動選手みたいにガッチガチじゃないんだけどな。あんまり筋肉をつけると身長が伸びないって聞いたことあるし、胸まで筋肉になって育たないと困るし。


 なのでダンスの授業のある日は、お散歩をすることにした。

 今日ものどかでいい日だなあと空を見上げたら、いつものバルコニーの欄干の上にいた皇太子の精霊獣の鷹が、私を見つけてバサバサと飛んできた。

 ああ、お兄様達もいるのか。


「イフリー、乗せて。あそこに行く」

『わかった』


 私が腰を下ろすとすぐに、イフリーは私を落とさないように気を使いながら浮かびあがった。精霊は見た目の姿に関係なく、みんな浮くし飛ぶ。


「よう」


 この皇太子、ベリサリオの城を自分の城と間違えていないか?

 すっかり気を許しているらしくて、椅子に浅く腰かけて背凭れに寄り掛かり、お行儀悪くテラスの欄干に足を乗せ、すっかりリラックスモードだ。

 隣にはクリスお兄様がいて、テーブルに地図を広げていた。先日のモアナとカミルの話をしていたのかもしれない。

 アランお兄様はふたりとは少し離れた席に座って、ケーキを食べていた。


 仲のいいイケメン三人の日常の一コマ。

 乙女ゲーのスチルにあったら喜ばれそうだ。


「おい、空中でにやにやしていると不気味だぞ」

「失礼な。ディアは今日も可愛いだろう」

「おまえら兄妹のその残念さはどうにかならないのか」


 クリスお兄様と皇太子って、最近以前にも増して仲がいいよね。側近達は悔しくないのかな。自分達を放置して、違う男の元に行くなんて……ああ、側近てエルトンさんはじめ、今はみんな皇太子より年上の、実力を買われた人ばかりになっているんだった。それに、エルトンさん以外、みんな婚約者がいるんだった。


「ディア、危ないからこっちにおいで」

「はーい」


 現実なんてそんなもんさ。

 いい男はさっさと捕まって、婚約者持ちになるんだ。

 中には婚約者が出来てから、いい男になるやつもいるけどね。


「カミルにハンカチは返せたのか?」


 アランお兄様に聞かれて首を横に振る。


「あれ? まだあれから来てないんだっけ? うちの担当はカミルになったんだよね」

「担当というか、コーレイン商会を、カミルが作ったイースディル商会で吸収合併したの」

「ブラントン子爵は引退したと聞いたぞ」

「正確には引退させられたんだろうな。カミルの意志を無視して動き、帝国まで巻き込もうとした罪で。息子は男爵に降爵になったらしい。それに、もともとうちは北島のいくつかの商会と取引していたんだけど、今後は全てイースディル商会が取引の窓口になるらしい」


 クリスお兄様の説明に、皇太子はいやーーな顔をして空を見上げた。


「まだあるぞ」


皇太子の表情を見て、クリスお兄様は楽しそうに笑っている。


「カミルの母親の実家が北島の代表の侯爵なのは知っているな。どうもその家も何かあるらしい。モアナはカミルに祝福を与えて、侯爵家の人間には与えていないんだ」


 うん。一波乱ありそうでしょ?

 でもカミルは問題ないって言うんだもん。


 精霊王がみんな出かけちゃったあと、あまりに精霊獣達が楽しそうにしているから、そのままここで話をしようと、草原の端に設置されている木のテーブルでお茶を飲んだの。

 城に精霊獣を使いにやったら、執事や護衛達が慌ててやってきて、私達が精霊獣と戯れている間に、お茶と軽食とお菓子を用意してくれたのさ。

 あとからミーアに、湖と城の往復はものすっごく大変だったと愚痴られたけどね。


 カミルの後ろ盾になっていたはずの子爵と意見が分かれて、カミルは自分の意志を押し通した形になっていたから、私達としてはカミルの身の安全を確保したかった。んで、精霊王達がカミルのことも気に入ったようだから、ルフタネンとの貿易の窓口はカミルにしてくれって申し出ようかって話になったのよ。


 でも、四年前にカミルを帝国に避難させたとき、商会長の孫という肩書が無難だっただけなのに、子爵が勝手に自分が後ろ盾だって広めちゃったんだって。何やっとんねん。

 それで本人が引退で、後を継いだ息子は降爵って処罰が甘くない? カミルは王子なんだよ? 私にまで接触しようとしたんだよ? 


 公爵の後ろ盾が子爵なんて、名ばかりの身分でかなりひどい扱いを受けているんじゃないかって思うじゃん。第二王子が暗殺されちゃうわ、第三王子がニコデムス教と結託して自滅するわ、第四王子の話が全く出てこないわ、国として大丈夫かおまえら! って他国の事ながら心配になるじゃん。

 

 それで帝国との繋がりをアピールさせようって事になったんだけど、それってよく考えれば、帝国の後ろ盾が欲しいんじゃないかってカミルが来る前に話していた予想を、自分達から積極的に現実化させてたって事だよね。

 まだ成人していない綺麗な男の子がふたり、精霊獣に懐かれている様子を見せられて、一生懸命大人と渡り合っている様子も見せられて、ほっとけなくなってしまうパウエル公爵もうちの両親も甘いけど大好きだ。


 むしろカミルが慌てちゃって、大丈夫ですから心配しないでくれって断られてしまった。予想大外れだよ。後ろ盾なんて求めてなかったよ。

 確かに王子に後ろ盾はいらないよね。カミルが帝国に知り合いが多いなんて広まったらそれだけで、次期国王はカミルがいいんじゃないかなんて言い出すやつが出て来るだろう。いまだに帝国だってエルドレッド殿下を皇太子にって言い出すやつは後を絶たないからな。


 前回のずっと黙っていたイメージや、四年前の泣いていたイメージが大きかったせいで、カミルの性格を見誤っていたかも。

 王太子の仕事を手伝ったり、南島の作物を他の島や外国に広めたり、王太子の弟で公爵という立場を今では王宮でもしっかりと認知されているみたいだ。


「四年で王太子の周囲に自分を認めさせ、北島に基盤を作ったという事か? 年は?」

「アランと同じだから……十二だな」

「ほお、それでも王位継承権は破棄したまま。兄の補佐につくと言うわけか」

「王太子も全属性精霊獣持ちで、モアナの祝福を受けているそうだ。空間魔法も使えるのかもしれない」

「ふむ。下手に中央までこの問題を持ち込むなよ。我が国は今、他国の問題に手を出すほどの余力はない。それに今は貴族が足りなくて、何かしらの功績があれば爵位を与えたり土地を与えたりしているんだ。ルフタネンとの関係を元に褒賞をもらおうと、余計なことをするやつが出ると面倒だ」

「そういえば、エルトンが男爵になると聞いたぞ」

「エルドレッドを守った功績があるからな。それにベリサリオとも近しい。中央に囲っておきたいのさ。ああ、アランにも成人したら爵位が与えられるぞ。功績がありすぎる……」

「いらないんですが」

「騎士爵ぐらいは最低でも持っとけ。だが、それだと一代限りだし、他の貴族との褒章の違いに問題が出るな。それと俺の護衛騎士に抜擢するのは決定済みだ。パオロが近衛に顔を出せと言っていた」

「……はあ」


 近衛騎士団に入団したいと言っていた割には、反応が薄い。

 自由気ままにやりたいらしいけど、ベリサリオの次男を放っておいてくれるわけがないよね。


 土地が余っているとか、ルフタネンの貴族が聞いたら羨ましがるだろうなあ。

 ダリモア伯爵派が失権して貴族が減ったところに、今度はバントック侯爵派の失墜。しかも今回は、主だった当主と跡継ぎが亡くなっちゃっているから、一気に高位貴族が減っちゃったんだよね。


「おかげですり寄ってくるやつらが多くて、宮廷にいると気が抜けない」


 それでベリサリオに逃げ込んでいるのか。

 ここなら誰も文句を言えないから、便利に使っているな。


「殿下! せめて伝言だけは残してくれと言っているでしょう!」


 ああ、文句を言う人がいたわ。エルトンが乗り込んできた。


「学園が始まる前の打ち合わせだよ。そろそろ真剣に婚約者を決めろと周りがうるさいだろう」

「……まあそれはそうですけど」


 そんな話、いっさい出ていませんでしたけどね。


「うちはまた妹ともどもよろしくお願いします」

「こちらこそ」

「そっか。ブリス伯爵とエドキンズ伯爵は、いつもうちの寮に来るんだっけ? わー、エルダと同じ寮なのね。楽しみだわ」

「それで……この間の話を」

「はいはい。まかせなさい。イレーネにはもう話してあるから」

「おまえもか……」


 皇太子が呆れた顔をするけど、あなただって私に見合いを頼んでいるじゃない。


「みんなディアに頼りすぎじゃないかな」

「アランも他人事じゃないぞ」

「でも私に頼むだけじゃなく、自分達でもなんとかしてくださいよ。エルトンはリーガン伯爵家とうちの合同開発の話が出る前から、イレーネに声をかけていたんですからね」

「合同開発ってなんですか?!」


 エルトンがぐっと身を乗り出した。


「カカオを商品にするのに、ちょっとお手伝いしてもらおうかと」

「それはもう発表しているのか?」

「まだだけど……」

「あー、それが知られたらイレーネ嬢と結婚したがる男が急増するな」


 あ、そっか。

 トマトケチャップ作ってから、ミーアとネリーにお見合いの話が続々と舞い込んでいるらしいからね。


「まだ彼女が成人するまで二年あるんですよ。ライバルがまた増えるじゃないですか」

「そんなこと言われても……」


 イレーネはいまだにエルトンが本気で自分に惚れているって思っていないみたいだから、ライバルの心配より、イレーネを口説く方が先だと思うわ。


「そういえばこの間、皇宮の中庭でランプリング公爵と話し込んでいたけど、あれはなんの話だい?」


 エルトンが言った途端に、みんなの視線がいっせいに私に向けられた。

 なによ、この空気。こわ。


「ランプリング公爵?」

「パオロだよ」

「あーー、はいはい。あれはイレーネの話じゃないですよ。でもね、いいお話なの。うふふふ」


 みんなの目がじっとりと細められる。

 だからこわいっつーの。


「なんの話?」

「僕達にも言えないこと?」


 お兄様達の目がマジだ。

 これは変な誤解をしているな。


「ここだけの話ですよ。絶対ですよ。ばらしたらしっかり報復しますからね」

「こわ」

「皇太子を脅すのはどうなんだ」

「じゃあ殿下は話を聞かないと」

「聞く」


 噂を広げられて、せっかくのいい雰囲気をぶち壊されるのが嫌なんだ。

 話を聞いた時に本当に嬉しかったんだから。


「パオロにやっと気になる女性が現れたんですよ」

「誰!?」

「ミーア」


 四人共、目を丸くして固まった後、えーーーーーーーっと絶叫した。

 よっぽど意外だったらしい。


「え? でもミーアって……あ、伯爵令嬢か」

「でもエドキンズ伯爵には借金が……あ、トマトケチャップで完済したんだ」

「しかも妖精姫の側近」

「あれ? 良縁じゃないか?」


 だからそう言っているじゃん。

 さすがビジュアル系、女を見る目も確かだったよ。


 バントック侯爵派の事件以降、パオロとも会えば会話するようになって、いつも私の横に控えているミーアとも言葉を交わすようになったのよ。

 ミーアはしっかり者だし、以前は父や兄を手伝って領地の運営の仕事もやっていたくらいに聡明だ。

 パオロは見た目はビジュアル系で派手でも、実は夜会に行くより剣の練習をしているほうが好きで、華やかな女性は苦手なんだって。

 ジーン様が亡くなってから、ずっと自分を責めていたパオロがやっと幸せに手を伸ばしてくれそうなんだから、私としては最大限の応援がしたい!


「エルトンはエルダの相手も考えてあげてよね。人気あるんでしょう?」

「まだ十二だよ。十五になってからだって」

「でもさ、エルダなら金髪なんだから皇太子の婚約者候補になったって、クリスお兄様の婚約者候補になったっていいのに……」

「義兄が側近はいやだろう」

「エルダは妹というか、今更恋愛は……」


 アランお兄様は中央に行くから赤毛の女性から選びたいでしょ?

 でもこの三人が近くにいるから、口説くのに遠慮する人が出たりしない?

 うーん、相手が見つかるか心配だなあ。


「おまえよりは見つかるだろ」

「ディアはゆっくり見つければいいんだよ」

「本当におまえは妹に関しては残念だな」

「殿下は最近、ディアの扱いが雑すぎます」

「どうも最近、ディアドラという新種の生き物に見えてきた」


 悟り開きすぎて、普通の人と違うものが見えて来ていないか?

 見た目だけは可愛い少女に向かって失礼しちゃうわ。


次回くらいから、ようやく学園の話になりそうです。


いつも閲覧ありがとうございます。

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