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十歳になりました

キヴェラ国→べジャイア国

修正しました。

「この位置でいい? 大丈夫?」

「大丈夫ですよ。おお、また伸びていますね」


 うん。順調順調。

 豪華な家の柱に傷をつけるのは申し訳ないので、ミーアに長い板を持ってもらってひと月ごとに身長を測ってもらっているのさ。

 私もとうとう十歳ですよ。この冬は学園に入学だぜ!


 身長だって着実に伸びて、もうすぐ前世の身長に追いつくんだから、この世界の人間はでかいよね。前世で平均身長が一番高い国ってオランダだっけ。たぶんノーランド以外の地域の平均で同じくらいで、ノーランドも入れたらこっちの方がずっと平均身長高いわ。

 身長だけじゃないよ。

 出るべきところはまだちょっと成長途中だけど、お母様の遺伝子を受け継いでいるんだから、ナイスバディになる運命なのよ。だってもうくびれがあるんだよ。すごいでしょ?

 前世は運動不足で不摂生な生活していたアラサーだったから、下腹がね……。くびれ? なにそれって感じだったのよ。

 でも今は違う!

 すっきりまっ平らなお腹にウエストのくびれ。長い手足と金色のつやつやな髪。紫の瞳の可愛い十歳の少女だよ。一部のお兄さんにモテモテになれる要素満載!

 ただし人外扱い。


 あの怒涛の一日から今まで約四年。私の周囲はとっても平和だった。

 妖精姫を怒らせると、一族郎党消されるらしいとか、皇太子や精霊王まで顎で使っているらしいとか。裏番長みたいなものだと思われているのかな。裏じゃないか。隠れてないもんな。


 それに比べて、あの後の中央の混乱は大変だった。死者四十一人よ。そのうち十二人が子供だよ。

 毒殺の犯人はニコデムス教だと発表されたせいで、教徒狩りが起こったらしい。国として正式にニコデムス教禁止令が出され、海峡の向こうからの入国検査はさらに厳しくなった。

 陛下と将軍は、精霊の森の件と毒殺事件の責任を取って皇太子に皇位を譲ることと、まだ子供の皇太子を育てるため、段階的に公務から身を引くことが発表された。


 皇太子は今年十五歳。もう身長が百八十後半くらいあるのよ。

 土属性の大鷲の姿をした精霊獣と、水属性のユキヒョウの姿をした精霊獣を従えて立つ姿が凛々しいと、国民の人気急上昇。後ろ盾になっている辺境御三家やパウエル公爵と、新年や誕生日の祝賀でテラスに出ると、声援が歳を重ねるごとに大きくなっていった。

 最初のうちは英雄と美しい女帝のカップルの支持を叫んでいた民衆も、新しい国の指導者の成長を見るうちに親しみが湧いたらしい。今では英雄を惜しむ声はだいぶ減っている。


 将軍と陛下は地方の領地を与えられ、そこで半ば軟禁状態だ。ジーン様と同じ待遇になってしまったのだから皮肉だね。

 ジーン様は精霊獣と一緒に、琥珀が砂に返したらしい。

 子供の頃からの境遇を考えると気の毒な部分も多いし、精霊獣が一緒に逝くと言ったから、特別処置だと聞いている。

 砂になってしまったら遺体は残らないし、公開処刑ではなかったので、どこかで生きているのではないかという噂は今でも定期的に出てくる。

 私はウィキくんで、もう彼がこの世にいないことを確認して、その日はひとりで部屋で泣いた。


 お食事会に招待したお友達は、事件現場を見ちゃったり、自分達も狙われたり、友達を亡くしたりして、心に傷が出来てしまっていた。眠れなかったり、怖い夢を見たり、食欲がなくなったり。フラッシュバックっていうのかな。不意にあの時のことを鮮明に思い出してしまう子もいた。


 貴族の親は家にいないことが多いでしょ。社交シーズンなんて特に、何週間も顔を見ない時だってある。眠れない夜を家族のいない広い屋敷で過ごすなんて、寂しすぎるでしょ。だけど私達には同じ経験をした仲間がいたから、そんな時は誰かのうちに集まって、思いっきり泣いて、八人で団子みたいになってくっついて眠った。

 みんな、屋敷に転送陣を持っている貴族のご令嬢でよかった。隣の部屋に行く感覚で集まれるんだもん。

 幾晩も一緒に眠って、幾晩も一緒に泣いて、幾晩も語り明かして。すっかり親友だよ。

 だいぶ元気になってきたら、順番に各家を巡ってお泊り会したり、お茶会したり。

 娘が徐々に元気になっていく様子を見ていた家族も、顔を合わせる機会が多くなるから親しくなって。それぞれ派閥のトップの人達がママ友パパ友ですよ。


 こうなると私のお友達を嫁にしたいって人がどっさりと現れるわけだ。高位貴族のご令嬢で、政治に強い影響力を持つ複数の貴族と親しく、しかも妖精姫の親友だからね。

 でも皇太子の婚約者が決まってないでしょ? 皇太子だってこの中から嫁を選ぶだろうから、未来の皇妃選びが終わらないと家として縁談を持ち込むことが出来なくて、息子に親しくなれと指示が出るわけだ。もう学園に行っている子達はモテモテらしいよ。

 

「ディアドラ様、皇太子さまがお見えになりました」

「また?」


 皇太子はあれからずっと、最低でも週に一回はベリサリオに顔を出している。

 私と仲がいいよ、私は皇太子を支持しているよと貴族達に思わせるために顔を出すようになって、皇太子がわざわざ来たらこっちもおもてなしするからさ、美味しいお菓子と紅茶を用意して、その時にいる兄妹で接客していたら居心地がよかったのか、仕事の合間にふらりと遊びに来るようになったのだ。

 前触れもなしだよ。最初はみんな大慌てしたけど、いい加減に慣れてきちゃって「あら、いらっしゃいませ」くらいの扱いになっている。


 たぶん皇宮では気の抜ける時間がないんだろうね。

 ベリサリオだとみんな放っておくからな。でも警護はちゃんとつけるよ、側近もつけないで来るからね。精霊獣を連れた警護がちょっと離れてついている。

 こっちも暇を持て余しているわけじゃないから、だいぶ待たせてしまう時もあるけど、皇太子はお気に入りのバルコニーで、海を眺めてぼけーーっとしている。その時間が貴重らしい。


「赤毛は抜かすと、スザンナとモニカとカーラの三人だ。候補として発表して会う予定を立てたらどうだ」

「他人事みたいに言うな。おまえだって赤毛じゃない女性がいいんだろう」

「僕は妃教育の期間を考えなくていいし、あの七人の中から選ばないとまずいわけでもない」

「でも出来ればディアの友達がいいんだろう」

「当然だ。ディアと仲良く出来ない女性と付き合う気はない」

「……おまえは本当にぶれないな。べつにおまえが先に選んでもいいぞ。三人の中なら誰でも……」

「あら? 私のお友達がお断りする可能性を考えてないのかしら?」


 好き勝手なことを話しているクリスお兄様と皇太子を蔑んだ目で見下ろしつつ、お母様からいただいた透かし模様の美しい扇をぱしりと閉じる。ふたりは気まずそうな顔で目を逸らした。

 相手が座っている時じゃないと見下ろせないからね。ちょっと気分いいわ。


「わかってるよ。断る権利を奪う気はない」

「ディアは僕達と友達が付き合うのに反対なのかい?」


 ふたりともここ一年ですっかり育っちゃって、声も変わっちゃって、大人っぽくなっちゃってる。スザンナやイレーネも三歳年上だから、どんどん女っぽくなっちゃって年下の私はおいて行かれる気分よ。


 皇太子が大きくなるのは予想の範囲内だったけど、クリスお兄様まで百八十に届いてそうなほどの長身になっちゃって、声変わりの時になぜか声が掠れてハスキーボイスになったのよ。どれだけ属性山盛りにする気なのよ。

 胸板が厚い赤毛で男らしい顔つきの皇太子と、相変わらずの美形で細身でハスキーボイスのクリスお兄様。身長差が尊い。

 

「ディア? 聞いているかい?」

「聞いてます」


 クリスお兄様の隣に座り、ミーアが用意してくれたお茶を飲む。今日のスイーツはミルクレープだ。


「賛成も反対もしませんよ。お友達が幸せになってくれればいいんです。お兄様は殿下よりお友達と顔を合わせる機会も多いのに、特に気に入った方がいるわけではないんでしょう?」

「うーーん……」


 どっちだよ。


「他のご令嬢に比べたら親しいつもりなんでしょうけど、態度がダグラス様や殿下と接しているのと同じでは好かれているとは思われませんよ」

「友達とは思っているんだが……」

「扱いが邪険なのか、駄目だな」


 ふっと笑いを漏らして余裕の表情だけど、皇太子だってダメダメよ。


「それでもお兄様は、好きになれば私に対するのと同じような感じになるよとお友達に話してありますから、みんな、それは素敵だと思ってくれてます」


 うちのお兄様達は恋愛に興味が薄くて、恋の駆け引きとか面倒だと思っているから、いったん好きな人が出来たら、他に目がいかないタイプだと思うの。特にクリスお兄様は溺愛するタイプよ。


「それに比べると殿下は話す機会がないから、性格がよくわからないって思われてるんですよ。切れ者だっていうのは知っていて素敵だと思うけど、こわそうとか、忙しくて放置されるんじゃないかとか」

「忙しいのは仕方ないだろう。……こわそうか」


 頬を掌でこすって遠くを見つめている。他でも言われたことがあるみたいだな。


「それでおまえに頼もうと思っていたんだ。次の冬から学園に行くだろう? そこで私が彼女達と会って話す機会を作ってほしい」

「え? 高等教育課程の生徒とは会えないんじゃなかったですか?」

「教室のある建物では会えないね。でも寮は一緒だからちゃんと手続きさえすれば茶会に招くことは出来るよ。そういう社交についてを学ぶ場でもあるからね。僕が茶会を開いてもいいけど、高等教育課程の男子が初等教育課程の女子を呼ぶのは難しいんだ。それに女性側は複数呼ばないとまずいだろう?」


 複数の女性がいるところに殿下やお兄様が顔を出したら、群がられてしまって落ち着いて会話出来ないだろうな。かといってクリスお兄様が、独身のご令嬢をひとりだけ招待するわけにはいかない。そこで私の同席が必要になるのね。


「わかりました。彼女達に話して問題なければ招待します。ひとりずつがいいですよね」

「そうだな、たのむ」


 つまり私は、殿下やお兄様がお友達を口説くのを、壁の一部になって眺めていないといけないのか。

 前世でも今でも、まったく色恋の話が出てこない私が、友達の恋の橋渡しとかどうなっとるんだ。

 

「あれ、殿下、また来てたんですか」

「あいかわらず、おまえの態度が一番ひどいな」


 騎士と訓練をしていたアランお兄様が帰ってきた。

 お兄様もすっかり大きくなってしまって、十二歳で身長百七十越えですよ。

 バルコニーは決して狭くないのに、でかい男が三人もいると急に狭く感じるわ。


「アラン、近衛に入る気なら私の護衛になる気はないか」

「いえ、僕は普通に……」

「その方が情報が集まりやすいぞ」

「なります。でも成人するまで皇宮に行く気はないですよ。表立って近付けない分、水面下で動くやつらがうるさいんです。海峡の向こうが荒れているみたいですし」


 海峡の向こうのシュタルク王国から、ニコデムス教を国から追い出すためにも精霊について広く国民に広めてほしいから、国に来てほしいと私に要請が来たのよ。速攻お断りしたけど。

 教えを乞うのに自国に呼びつけるとはどういうことかと、お父様も怒ってしまっていたし、下手に私が向こうの国に取り込まれそうになったら、シュタルク王国がなくなってしまうからダメだと皇太子も返事をしたの。

 私を守るというより、隣国を守る気分の皇太子の返事にシュタルクの王族は、反応に困ってしまったらしい。

 ペンデルス共和国の隣国、ベジャイア王国ではニコデムス教が力をつけて国を動かし始めているという噂もあるし、海峡の向こうには行きたくないわ。


「他国の人達は何か勘違いしてないですかね。私はアゼリア帝国の精霊王と親しくしているんであって、シュタルク王国やベジャイア王国の精霊王は会ったこともないんですけど」

「でも会おうと思えば会えるだろう? 彼らは自国の精霊王にいまだ会えていないんだよ」


 会いたいならなおさら私を呼びつけずに、向こうの王族がこっちに来て、私の口添えが欲しいと正式にお願いしてくるべきでしょう。帝国に借りを作りたくないからって、ベリサリオに圧力かけてなんとかしようとすんな。ベリサリオに借りを作るほうが今はこわいんだぞ。


 いけない。私ったらいつの間に、他国の王族相手にこんな強気な態度を取るようになってしまったんだろう。皇太子殿下にだって、もっと臣下として敬った態度を取らなければ。どんどん貴族のご令嬢の態度から遠ざかっている気がする。


「他国から何か言ってきたら、すぐに私に知らせるんだぞ。ひとりで勝手に動くんじゃないぞ」

「まあ、そんなだいそれたことはしませんわ。すぐに殿下にお知らせさせていただきます」

「……おい、クリス。こいつ何か企んでないか?」

「いや、また何か見当違いなことを考えているんだろう」

「ディア、気持ち悪いのか?」


 ……おまえら。



ディアの視点で書いていると、他の小説と文章の勢いが明らかに違ってしまいます。

大きくなっても全力で突っ走ってもらいたい。

二章もよろしくお願いします。

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