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楽しいお食事会

他の方の小説に比べて一話が長かったようなので、少し短くしてみました。

スマホだと長いと読みにくいかもしれないので。

いままで6000文字を超えていたこともあったので、今後はそういう場合、二話同時に投降する予定です。

 今年もまた夏がやってくる。我が領地が避暑地として賑わう季節だ。

 ということで、この夏に向けてフェアリー商会は様々なことを急ピッチで進めていた。


 ジェラートは大人気で、公園で食べ歩きをするカップルをよく見かけるようになったらしいんだけど、避暑に来る貴族の方達は店舗には来てくれても、屋台には来てくれない。

 私、勘違いしてた。自分が夏に旅行に行く感覚で考えてたよ。旅先で食べるソフトクリームって美味しいじゃん。

 でもね、この間私も街に行ったけど、貴族のご令嬢は自分で屋台の物を買ったりしないのよ。中にはお忍びで食べ歩きをする人もいるかもだけど、ごくわずかよ。


 避暑に来るのは金持ちの貴族だけ。彼らは暑いのが嫌だから涼しい海辺の街に来るんであって、海に泳ぎに来るわけでも観光名所巡りに来るわけでもない。別荘やホテルに生活の場所を移して、王都にいる時と同じ生活をするの。

 外に行く時だって魔道具で涼しい馬車の中から観光はしても、暑い中自分の足で歩いたりしないのよ。

 健康に悪いよね。歩かないと。

 

 家にいると暑いから冷房の効いた図書館やコンビニで過ごすやつらのように、旅先でも涼しい室内に引き籠るやつら用に、フェアリー商会では小型の観光用レンタル精霊車をご用意しました。運転手付きで。

 試しに乗る為なら少しは遠出する気になるでしょ。

 それと今年から、馬車の中でも食べやすいスティックタイプのチーズケーキを販売することにした。食べ歩きしないなら馬車の中で食べてもらおう。

 ジェラートも馬車の中で食べられるように、店に魔道具のアイスボックスを置くことにした。金持ちはちょっとくらい高くても、ジェラート溶けないよっていうと簡単に買うからね。

 あいつら、金の使い方おかしいから。

 食べ歩き出来ないから、屋台ごと屋敷に持って帰りたいわって言い出すやつ、何人もいたから。


 精霊車の乗り心地と海沿いの景色を楽しみつつスイーツを食べてもらって、隣町に行ってもらう。城のある街の港は外国との貿易メインだけど、周囲の街は漁師の使う港があるから、新鮮な魚介類が豊富なの。そこで海に沈む夕日を眺めながら、名物のトマト味のブイヤベースを味わってもらうわけさ。一泊する人も出てくれればなおよし。

 最近、精霊の聖地みたいになっちゃって、城の周りしか人が集まらないのが、これで少しでも足を延ばしてもらえればありがたい。いやまじで。


 三十過ぎの私の感覚だと旅行といえば温泉なんだけど、あいにく我が領地に温泉はない。

 美味い飯と美味い酒、そして温泉。それさえあればのんびりと終日を過ごして仕事のストレス発散できる。それが私の旅行だったからな。美味しい食べ物に関してはアイデアを出せても、他には何も思いつかない。

 私に内政チートは無理だったね。

 



 そんな平和な日々を過ごし、やってきましたコルケット辺境伯領。

 今回はアランお兄様がお留守番。ノーランドの時には陛下に遠慮して参加しなかったお母様も今回は参加している。コルケットは特産品が多いから、中央との関係も辺境伯の中では深いんだって。


 城から見える風景が童話の挿絵のようだった。

 建物の壁の色がクリーム色だったり薄いピンク色だったりしてカラフルで、レンガ色の屋根には屋根窓(ドーマー)がついていて、サンタクロースがご愛用しそうな煙突もついている。

 五階建てくらいの建物がずらっと並んだ街並みの外側には、ずーーっと牧場が広がっていて、遠くに微かに城壁が見える。

 視力にも優しく心にも優しい憩いの大地って感じよ。


 今回の歓迎会は、ずらっと並んだ大きなテーブルにみんなで座ってのお食事会でした。

 迎賓館で外国のお客様を迎える様子をテレビで流すことあるでしょ。あんな感じ。

 こういう時、自分のパートナーと並ぶんじゃないんだよね。男女交互に席が決められている。


 私の前の席はコルケット辺境伯の嫡男のヴィンス様。四歳のお嬢さんがいる若いパパさんよ。

 右隣がカーライル侯爵嫡男で私のひとつ年上のダグラス様。

 中央との関係が深いとわかる見事な赤毛にグレーの瞳で、目元がきりっとした男の子だ。

 カーライル侯爵領は、うちとコルケット辺境伯と両方のお隣さんの位置に領地があって、うちからもコルケット辺境伯領からも、物資を王都に運ぶには、カーライル侯爵領を通ることが多いの。だから昔っから家族ぐるみのお付き合いなのだ。私は四歳からの二年間、ほとんどヒッキーだったから会うのはひさしぶり。

 左隣がラーナー伯爵嫡男のデリル様。こちらはほわんとやさしそうな栗色の髪に緑の目の男の子ね。

 ラーナー伯爵はコルケット辺境伯の妹さんの嫁ぎ先なんだって。同い年なんで学園では同級生だから、早めに仲良くなれるのは嬉しいんだけど、この席順、主催者の意図を感じるわ。


 あ、思い出した。ラーナー伯爵家って魔力量が多いことで有名な一族だ。

 デリル様の肩の上にも三種類の精霊が並んでいる。あの大きさだと精霊獣もいるかもしれない。

 ダグラス様は精霊と剣精が一属性ずつかな。


 今回、誰がどこのどんな人かちゃんとわかってるでしょう?

 作りましたよ、相関図。自分で!

 クリスお兄様やお母様に相談したら、情報はたくさんくれたけど相関図を知らなかった。

 この世界に相関図はなかったぜ!!

 あれってアニメや漫画で登場人物の関係を表すのによく見るけど、そういえば他ではめったに見ないよね。相関図を作るって発想自体がオタク脳だったのかもしれない。


 でも私は元オタクですから。

 二次創作で次々に新キャラが増えるジャンルで、頭が混乱しないようにチマチマと作っていた経験が、こんなところで役に立ったよ。


 わかりやすいと家族に絶賛され、転写の魔法で何部か作って家族に配られ、お父様の書斎の壁にも貼り付けてあった。

 なんというか……複雑な気分よ。

 隠していたオタクの技術が、堂々と家族の目にさらされているいたたまれなさ。

 それに、相関図を異世界に持ち込むって、地味というか……。

 いっそ開き直って、アンドリュー皇子と学友や側近達とかいう相関図作ったら、お嬢様方に売れないかしら。


 大人達は別のテーブルでワインやエールを楽しみながらお食事中。

 ヴィンス様と奥さんのジャネット様や、子供達の保護者が何人か、お世話をするために子供達の席に座っていたけど、他は子供ばかりが座った長い長方形のテーブルの、ほぼ中央に私の席はあった。

 

 どうせ私、自分から話しかけるとか話題をふるのは苦手だし、食事会だから美味しく食事をいただけばいいのよ。

 香辛料の効いたステーキも新鮮な牛乳も美味しいよ。特にチーズ! 私、前世からチーズ大好きで、デパ地下のチーズ売り場のお得意さんになるほど仕事帰りに買っていたの。

週末はチーズとワインと薄い本。最高だよ!

ああ、懐かしいな。あのサークルの本、買いたかったな。


「ディアドラ様は食べ方が綺麗だし、とても美味しそうに食べるんだね」


 黙々と食べていたらヴィンス様に話しかけられた。


「全部とても美味しいです。特にチーズが」

「チーズが好きなのかい?」

「はい」

「たしかベリサリオ領にも牧場のある地域があっただろう」


 ダグラス様が話に加わった。

 こういう時、さらっと会話に参加出来るって一種のスキルだと思う。


「ありますけど、今はジェラートやチーズケーキを作るのに忙しくて、チーズは種類が少ないんです」

「チーズケーキ? チーズをケーキにするのかい?」

「はい、ヴィンス様。コルケット辺境伯様にお渡ししたお土産に入ってますよ」

「おお、それは楽しみだ」

「いいなあ。僕も食べたい」

「僕も!」


 食い物の話になると、みんな積極的になるな。

 子供と仲良くするには餌付けするのがいいのかな。男の心を掴むには胃袋を掴めって言うもんね。物理的に掴むんじゃないよ?


 「この夏から販売するので、ぜひベリサリオ領へ遊びに来てください。精霊車の貸し出しもしますよ」


 にっこり笑顔でおすすめする。営業は大切よ。


「精霊車に乗れるの?!」

「はい、デリル様。予約が必要なので早めに連絡していただければ乗れます」

「ディアドラ様がいつも乗っている、あの精霊車も乗れますか?」

「はい?」

「ノーランドでドラゴンが出た時、ディアドラ様の顕現した精霊獣が大きくて強そうだったって聞いたんです」

「僕も聞いた。ドラゴンを見たなんて羨ましいな」

「ええ? 火の精霊王様が光の壁で守ってくださったから安心していられましたけど、そうじゃなかったらドラゴンにはもう会いたくありません」


 なんでそこで意外そうな顔をするのよ。

 まさか私はドラゴンを(ひね)り潰すとでも思ってるの?


「妖精姫と聞いていたので、どんな方かと思っていたんですけど、普通の方なんですね」


 デリル様に言われて首を傾げた。

 いったい妖精姫ってどんなイメージだったのよ。ドラゴンとも友達になると思ってた?

 それか、精霊王が助けてくれるってわかっていて、どっしりと構えていると思ってた?

 いやいや。目の前にドラゴンいたらびびるから!

 あれはアニメや映画で見るものであって、ナマで見ちゃ駄目よ。命がけじゃん。

 六歳で死にたくないわよ。


「イメージを壊してしまいましたか。申し訳ありません」

「そんなことないです。とても可愛らしい方だと思います」

「まあ、ありがとうございます」


 可愛いと言われるのは嬉しいよね。社交辞令でも。

 でもね、この世界、貴族のご令嬢のレベル高いから。可愛くない子を捜す方が大変よ。

 だから可愛いって、みんな息をするように言うからね。挨拶みたいなものよ。


「ディアドラ嬢は、どんな男性が好きなのかな?」


 突然、少し離れた席の紳士が聞いてきた。

 あの人、誰だっけ。子供の席に紛れている大人って主催者側の人じゃなかったっけ?

 まあ、こういう時はお約束の返事をしておけばいいんじゃないかしら。


「そうですね。お父様みたいな方がいいです」

「ベリサリオ辺境伯は素敵な方ですもんね」

「オーガスト様がお喜びになりますわ」


 子供の中に一緒に座っていた保護者の女性がいっせいに反応しているんですが。


「ベリサリオ辺境伯のような方か」

「なかなかいないぞ」


 ヴィンス様とダグラス様は、なぜか神妙な顔になっていた。

 え? よく小さい娘が言うセリフだよね?

 パパと結婚したい!とか、パパみたいな人が好き! とか。


 あ! うちのパパさん、半端なくスペックが高かった。

 公爵相当の地位で大臣。フェアリー商会で儲かっていて全属性精霊獣持ち。しかも超絶美形。

 やばい。そりゃなかなかいないわ。


「お父様は今でもお母様が大好きなんです。そういう旦那様がいいなって」

「なるほど。そういう意味か」

「はい」


 ふ。また結婚への道が遠のくかと思ったぜ。


「こんな話題をふるとは。すまないね、居心地悪くなっていないといいんだが」


 ヴィンス様が話題を振った男を睨んでから、こちらにすまなそうな顔を向けてきた。

 別にこれくらい、酒の席でも話題にする奴いるよね。セクハラかなとも思うけど、この世界では嫌味の応酬くらい笑顔で出来ないと貴族やってられないみたいだし。それに比べたら全く問題ないわ。


「いいえ、そんなに気を使っていただかなくても大丈夫ですわ。あ、皆さんにも同じことを聞いてみればよろしいのでは?」


 そうよ。私にだけ聞くから不自然なのよ。


「僕はディアドラ様みたいな可愛い女の子がいいです」

「まあ、デリル様は女性を喜ばすのがお上手ですわね」


 おいこら、そこで個人名を言うな。面倒なことになるだろ。

 だったら縁談をとか、会えるように遊びに行きましょうとか……あ、うちの領地に遊びに来てくれるのは大歓迎ですわ。

 

「ディアドラは可愛いんだけど……」


 ダグラス様はなんとも複雑な表情をしている。


「ベリサリオ辺境伯だけでも大変なのに、クリスとアランが妹大好きだからな」


 ……うん。

 三人まとめて倒さないと、互いに復活させちゃう部下を連れたラスボスみたいになってるよね、私。


いつも感想、評価、誤字脱字報告ありがとうございます。

読み返しているつもりでも、誤字脱字はなくなりませんね(-_-;)

とても助かります。



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