明かされる真実 1
サブタイトルが長すぎるので修正しました。
題名だけがシリアス。
「ふん。役に立たないやつらめ」
本来のボスであるパニアグアと遭遇したカザーレ達は意外にも冷静で、私の言葉をしっかりと思い出し、彼の言葉には反応しないで後ろに下がった。
「きさまら、裏切ったのか!」
この状況を見れば、そう思うのも無理はない。
彼らは戦闘に巻き込まれて死にたくないだけで、どちらの味方でもないんだけどね。
でもこの様子だと、巻き込まれるような戦闘にはならないかも。
「あれを出せ!」
パニアグアの指示に従って神官達が動き出し、大きな箱を乗せた手押し車を、三人がかりで私達の前に押し始めた。
えーっと、これは待たないといけないのかな。
それはなんなの? って驚いて、精霊獣を庇おうとするところ?
でもさ、変身し終わるまでボケッと待っていてくれる敵は、現実世界にはいないのよ。
「精霊獣など役には立たぬ。これぞニコデムスの……」
「伸びろ! 如意棒もどき! ドーーン!!」
バングルから取り出したのは、随分前に陛下にもらった護身用の如意棒もどきよ。
伸ばしたら長さに合わせて太くなるのに重さは変わらないという、か弱い私にぴったりの魔道具だ。
ただ今まで実戦に使ったことがなかったので、加減がよくわからなかった。
こういう状況なので、自覚がないままに興奮状態だったのかもしれない。
思っていたより力いっぱいものすごい勢いで伸びてしまったので、如意棒もどきは箱に大きな穴をあけて突き抜け、パニアグアの胃のあたりに激突し、それでも勢いが余って彼の体ごと後ろにいた神官達も一緒に吹っ飛ばした。
「うぎゃー!」
「おえっ」
「ひー」
無様に神官達が倒れる音やリバースしていそうな音が聞こえたけど、霧のおかげで見えないから気にしないことにした。
ここはスピード勝負よ。
相手が驚いているうちに畳み込まないと。
「ショート!!」
如意棒もどきに電流が走り抜け、魔道具からパチパチと音がして黒煙が立ち昇る。
霧の中を上空に走り抜ける稲妻って、なかなかすごい眺めよ。
「ま、魔道具が!」
「リヴァ! シロ! 合図!」
『わかった』
『わーい! お仕事いっぱい! たのしー!』
シロが空中で嬉しそうにくるくる回転し、リヴァは空高く舞い上がりながら大型化した。
霧の中でもうっすら青く光る巨体が悠々と上空に姿を現すとすぐ、瞬く間に霧が晴れて日の光が射しこんできた。
時刻は正午少し前だから、霧さえ晴れれば明るいのよ。
「ひどい状況ね」
日の光の下にさらされた周囲の状況はひどかった。
建物は半分倒壊し、地面はひび割れ赤土が見えている。
まだ嗚咽しているパニアグアの方は見たくないので、私はいっさい関係ありませんという顔でそっぽを向いていたら、シロとクロの連携によって転移してきたカミルが、一瞬のためらいもなくアルデルトの腹に膝蹴りを叩き込んだ。
「うぐっ!」
まったく警戒していなかったため体の力を抜いていたアルデルトは、もろに蹴りを受けて後方に吹っ飛び、ようやく起き上がった神官達の上に倒れ込んだ。
神官達も、顔が見えないけど雰囲気的にパニアグアも、五十代くらいなのよ。
中には四十代もいるかもしれないけど、若くはないの。
それなのに二回も下敷きになって地面に叩きつけられたのよ。
なんというか……大変そう。
「カミル、乱暴ね」
「このクソ野郎は、どんな言い訳を並べたんだ? 何もされなかったか?」
会話している間にキースとエドガーまで転移してきた。
シロクロ働きすぎ。
どんどん転移させて来ないでよ。
「まだ会話していないし、何かしたのは私の方」
いまだに煙を吐き出している魔道具を指さすと、カミルはほっとしたのか大きく息を吐き出した。
「よかった」
「すぐに呼べって言ったじゃない」
「さすがディア。的確な判断だ」
「ふざけるな!!」
パニアグアってば、今までリバースしていたのに根性あるのね。声量だけはすごいわ。
「周りを見ろ! おまえ達は囲まれているんだぞ!」
「え? 今更?」
言われなくたって、霧が晴れる前から気付いていたわよ。
そうね。確かに私達の周りをぐるりとシュタルク兵が囲んでいるわね。
三十人くらい?
少ないなあ。それで私を拉致出来るって本当に思ってたの?
彼らも一応は隙を見て私達に襲い掛かろうとはしていたんだと思う。
ちゃんと身構えているからね。
でも、指揮官は誰よ。
誰も指示を出さないから、動けないんだよ。
それにこちらには精霊獣がいる。
一番弱そうに見えるのはカーラとハミルトンだろうけど、ハミルトンの周りは地獄の番犬みたいに獰猛そうな牛くらいの大きさのピットブルが待ち構えていて、カーラの方は九尾の狐に囲まれているせいで、モフモフの尻尾に埋もれて姿が見えない。
この状況じゃ手が出せないでしょ。
カザーレも彼の仲間達も、勝敗はもうついていると思っているんだろうね。
すっかり私の手下のような顔をして、安全な位置で身を守ることを優先していた。
「おまえ達こそ、あっちを見てみろよ」
カミルが親指で示したのは私達の背後、カザーレの船が停まっているあたりだ。
「な……」
「いつのまに……」
私達が乗ってきた船を取り囲むように、ずらりと軍の船が並んでいた。
翻るのは帝国とルフタネンの旗。
中にはベリサリオを始めとした兵を出した貴族の旗もある。
ルフタネンの方は北島と西島の旗も高々と掲げられていた。
精霊王に霧にしてくれと頼んだのはこのためよ。
最初からカザーレの船は、帝国の船に囲まれていたの。
だからカミルやデリルは船から船に転移していただけなのよ。
バレないように様々な魔法と精霊王の力も借りて、更に霧の日には魔獣が活発になるから変な音がするかもしれないよとあらかじめ伝えて、こうして広い軍港を埋め尽くすくらいの船を移動させたのよ。
甲板にはずらりと兵士が並び、風に乗ってここまで指示を出す声が時折聞こえてくる。
寄せ集めのシュタルク兵とは違って、あっちは訓練を受けた正規の軍隊よ。
「せ、攻めて来たのか!」
「やばい」
「もらった金に釣り合わねえぞ」
甲板からいっせいにフライに乗った兵士が飛び立つのを見て、シュタルク兵は恐慌状態だ。
しかしフライは、逃げ惑うシュタルク兵の頭上を次々と素通りしていく。
彼らは私達が進軍することをこの先の人達に知らせる任務と、軟禁されている貴族を救助する任務を帯びている。
百人以上の兵士がそれぞれの軍の制服を着て、揃いのフライに乗って飛んでいく姿は圧巻よ。
彼らと一緒に飛んでいく精霊獣もたくさんいて、これぞファンタジーって感じ。
「おまえ達! 早く妖精姫を確保しろ!!」
「そりゃ無茶だろう」
カミルが冷静な声でパニアグアに突っ込みを入れた。
「あなた達は誰ひとり、この港から出られないようにしたのでよろしくね。うふっ」
笑顔で言ったら、シュタルク兵は余計に恐慌状態になって、ほとんどが港の出口目指して走り出した。
何人かはこうなったら戦うしかないと腹を決めて剣を抜いたけど、そこに今度はフライに乗った新たな兵士達が飛び掛かっていく。
どうせまた頭上を素通りするだろうと油断していたシュタルク兵は、突然自分達にフライが向かってくるのに対処出来ず、逃げ惑うばかりだ。
「ど、どどどど、どうなって」
「だから妖精姫はやばいって言ったじゃないか!」
「うろたえるな」
戦闘に巻き込まれていないのは、アルデルトとパニアグアと六人程の神官達だけだ。
弱い者いじめをしている気分になりそうだけど、今までこいつらがしてきたことを考えたら同情の余地なしよ。
「私を騙して攫ったら、そりゃあ帝国もルフタネンも放置は出来ないでしょう?」
「当然だ。ディアは俺の婚約者なんだからな。精霊王達だって黙ってはいないさ」
「姉上……ディアの方が悪者みたいになっていませんか?」
「え、ええ。あまりに簡単すぎて……拉致されたはずが蹂躙しているような気がするのは気のせいかしら」
ハミルトンとカーラは、なんで第三者目線になっているのよ。
あなた達も当事者だからね。
「ディア、どうしてなんだ?」
倒れ込んだ時にぶつけた足を庇いながら、よろよろとアルデルトが立ち上がった。
地面に擦れたらしく、頬から血が出ている。
気やすく呼ばないでくれないかなあ。
会うのはこれが三回目で、一度もまともに会話したことすらないのよ。
「せっかく会えたのに……」
アルデルトが私の方に手を伸ばそうとする動きを見せた途端、カミルが私のすぐ横に移動して、キースとエドガーが剣を手に身構えた。
そんな心配してくれなくても、だいぶ距離があるから大丈夫よ。
「なんでその男がいいんだ。そんな男はきみには似合わない」
とっさに言い返そうとしたカミルの腕にそっと触れて止め、私はわざとらしく空を眺めてから答えた。
「なんでって、そうね。好きだから」
「「「…………」」」
え? なんで沈黙?
誰か何か反応してよ。
カミルの片思いだってルフタネンで誤解されているって聞いたから、この機会にはっきり言った方がいいかなって思っただけなのに。
つか、カミル! 何か言いなさいよ!
「真っ赤になってるぞ」
「今、それを言う必要はないわよね!」
にやにやすんな。
「このふたり、こんな時にいちゃついてる」
ハミルトンはなんなの! ぼそぼそと妙な一言を呟かないで。
「両想いの俺達を引き裂こうとするなんて、迷惑な話だ」
でもカミルは周りの反応なんてまったく気にしていないみたいだ。
見せつけようとしているのか、腰に腕を回して私を抱き寄せたものだから、アルデルトの眉がきつく寄せられた。
「こんな男が好きだなんて、そんなのは幻想だよ。気の迷いだ」
「運命だって唱えていれば相手が愛してくれると思っているなら、それこそ幻想よ」
「僕達が一緒になることは運命で決められているのに、なんできみはわからないんだ!」
「しつこいわね。その運命は誰が決めたの?」
「神だ!」
あのコミュ障引き篭もりの神様が、人間の結婚相手をいちいち決めるわけないでしょ。
「あなたは神様の声を聞いたことでもあるの?」
周囲で戦闘が行われているのに、この状況で会話を始めると思っていなかったのか、神官達も私の仲間達もカザーレ達まで、黙って私達の話に耳を傾けている。
「残念だが僕には聞こえない。だけど、大神官のパニアグアは神と話が出来るんだ」
「あー、隣にいるその目つきの悪いおじさんね」
「……礼儀のなっていない娘だ」
「礼儀? そうね。ペンデルスに唯一残されたオアシスを襲撃して」
「っ?!」
「男達を全員虐殺し、女子供を攫って」
「黙れ」
「ニコデムス神殿に押し入り、金目の物や経典、魔道具を奪った盗賊団のリーダーに対する礼儀は知らないわね」
「黙れ!」
「落ち着けよ。大神官としての威厳はどうした」
こちら側の人達は、全員この情報は知っていた。
神官達は盗賊団の仲間達のはず。
だから平均年齢が高いのよ。
この場で何も知らないのはアルデルトだけだ。
「何を言って……」
「やつらは、我々を仲違いさせようとしているんだ」
「オアシスはニコデムスの聖地で、教徒が守っているはず」
「その通りだ! こんな女の言葉を真に受ける必要はない!」
「パニアグア、ディアは聖女であり、妃となる人なのにその態度はどうなんだ」
「そ、それは」
私を聖女だなんて言い出すから、自分の首を絞める結果になるのよ。
「おまえさ、ペンデルス再興を目指しているんだってな」
「……」
「だからシュタルクが滅んでもかまわないんだろう?」
カミルの言葉遣いも目つきもどんどん悪くなっていく。
アルデルトの方も負けじと殺気立っていて、一刻も早く私とカミルを引き離したいみたいなんだけど、彼と私の間にはキースとエドガーと、精霊獣達がいるのよね。
私ってば、とっても守られているのよ。
堂々のヒロインポジションよ。