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皇宮突撃

「胃痛の原因」のディアドラ視点だとこうでした。

 六歳になったから、私はいろんなことを出来るようになった。

 ちゃんと護衛をつければ城の外に出られるんだよ。六年ぶりのシャバだよ。

 お茶会に参加するのも解禁。自分がお茶会を開いてお友達を招待するのも解禁。

 夏に領地に遊びに来た他領の同年代の子を、城に招くのも解禁。招かれて遊びに行くのも解禁だぜ。


 さっそく顔を出さなければいけないのは、皇帝陛下主催の茶会だ。

 他の誰よりも優先させなくてはいけないお方だもんね。


 朝からメイド達の力のいれようがすごいよ。

 体中磨き上げられて、髪も肌もつやつや。六歳の子にここまでしなくてもと思うんだけど、そこは譲れないらしい。

 ドレスは出来るだけ飾りの少ない物をお願いした。特に袖口。テーブルの上の物をひっくり返す未来が見えるような服はお断りよ。


「え……この色なの?」

「お嬢様の華やかなかわいらしさには、ローズピンクがお似合いです。おリボンは瞳の色に合わせて紫にしましょう。髪にはアメジストのバレッタをとめますね」


 鏡の中の私は、物語の挿絵に出てくるお姫様みたい。

 なんだろう、この体中がかゆくなってくる感じ。照れくさいような落ち着かないような。バタバタしたくなってくる感じ。

 緊張もしている。だって初めて皇宮に行くんだから。

 うちの城は砦としても使えるように、無駄な装飾がなくてごつい。兵士の数も多い。

 でも皇宮は違うよね。ゴージャスでマーベラスでスペシャルなはず。


「行きますよ」


 今日はお母様もお父様も気合が入っている。

 シンプルだけど手の込んだ刺繍とレースが使われた空色のドレスだ。アクセサリーは灰色をしたゾイサイト。かなりの貴重品らしい。お父様の瞳の色よ。

 お母様の瞳の色の深い緑色の装飾のはいった上着を着たお父様は、髪をセットしてお仕事モードの顔つきになっている。

 ふたり並ぶと、アダルトで魅力的なカップルの出来上がり。


 お兄様ふたりも今日はおしゃれしているよ。

 クリスお兄様は髪をセットして後ろにかきあげているから、いつもより大人っぽい感じよ。シャツの袖口にレースがついているのが不満みたいなんだけど、メイド達のたっての希望なんですって。

 アランお兄様はウエスト丈の上着に揃いのパンツでブーツを履いている。飾り? なにそれおいしいの? って感じがアランお兄様らしい。


 転送陣の間の中央に家族で集まり立っていると、一瞬で五倍はありそうな部屋に飛んだ。

 白い壁には金色のラインで装飾が施され、皇族の紋章が輝いている。床は半透明の色ガラスで魔法陣が保護されていた。

 そこから案内されて進んだ先の控室なんてもう、すごいよ!

 クリスタルの魔道ライトに照らされた黄金の猫足のイスとテーブル。壁際に置かれた宝石をちりばめた魔道具の時計。見事な織物の絨毯。


 そうかここ、国中から貴族が飛んでくるんだから正面玄関みたいなものだ。外国からの客も国境の領地の主の館からここまで飛んでくるもんね。豪勢にしなくては国の威信にかかわるのか。

 これだけの財力があり、これだけの物を作れる技術者や職人が我が国にはいるぞとアピールが出来て、気に入ってもらえれば商売にもつながるかもしれない。うちの城の控室も考えないといけないかも。


「ふわーー」

「ディア、口を閉じなさい」


 だって皇宮ですよ。

 前世で昔の皇宮を美術館にしましたって場所は見たことあるのよ、テレビで。確かに豪勢だったし、廊下やホール、大広間は日本でいうと三層分ぐらいの天井の高さだったよ。

 でも生の迫力は違うのよ。それに何世紀も前の建物とは違って綺麗よ。ピカピカよ。


 両開きの扉もでかい。私が縦に四人は並べそう。

 その片方が開いて緊張した面持ちで中年の男性が駆け込んできて、なにやらお父様と話をしている。

 何事だろうと思いながら、前に立っていた護衛の騎士の背中に隠れつつ、そっと外を窺ってみた。


「…お嬢様」

「もう一歩前に出て」


 苦笑いしながらも前に出てくれた彼が息を飲む音が聞こえ、何事だろうと思いながら外を覗き、回れ右してお兄様達の元に駆け戻った。


「外が大変です。人がたくさんいます。なにが始まるんですか?」


 慌てている私を見たお兄様ふたりは、視線を先程の護衛に向けた。


「これは…ちょっと…」


 護衛の彼の顔色が悪い。一気に緊張してしまったのかも。


「申し訳ありません。まさかこんなに出迎えの者が集まるとは、予想を遥かに超えていました」

 

 皇宮の人達が並んで何度も頭を下げている。

 これって、やっぱり普通の状況じゃないんだよね。


「本当だ」

「うひゃー」

「どうします、あなた?」

「知らん顔して出て行くしかないだろう」


 家族四人で護衛の後ろから外を覗くのはやめようか。彼が困ってしまっているからね。もうひとりの護衛なんて、気を利かせて自ら壁になってくれているよ。


「まず出て行くのはきみ達だから、いつもどおりに」

「「はっ」」


 緊張した面持ちで護衛のふたりが出て行ってすぐ会場がどよめいた。

 安心させるようにお父様が私達を見て頷いて、お母様と一緒に外に出て行く。


「お、お兄様。これは何を期待されているんでしょうか」

「え?」

「歌って踊る?」

「なんで?!」


 だってライブ会場みたいだよ。三階席まであったよ。警備の人が手を広げて観客を押さえていたよ。一階はアリーナ席じゃないの?


「何もしないでおとなしく。喋らない。いいね」

「はい」


 それでいいんなら喜んで!


「僕が先に行くから、兄上はディアをよろしく」

「わかった。気をつけろ」


 ここ皇宮だよね。お茶会に招待されて来ただけだよね。

 なんでアランお兄様は、あんな決死の覚悟みたいな顔をしているの?

 クリスお兄様なんて、絶対に離さないぞって感じでさっきから私と手を繋いでるよ。


 まだ外はざわざわしている。

 私達も出て行った方がいいんじゃないかなって思っていたら、アランお兄様が引き返してきた。


「アラン、どうしたんだ」


 クリスお兄様が驚くのも仕方ない。

 普段は目に見えないアランお兄様の剣精がすっかり臨戦態勢で、体が光に包まれちゃって、火の精霊なんて自ら剣の形になって、さも自分を使ってくれ! 守るぜ! みたいになっちゃってる。


「父上と母上の精霊は平気なんだ。でも護衛の精霊もこうなっていた」

「……場慣れの問題かもしれないな」

「すごい注目されている」

「そんなに人がいっぱいいるんですか?」

「人だけじゃないんだ。壁際には精霊獣もたくさんいた」

「室内で?」

「うん。大きいままで」


 皇宮ではそういうものなのかな。精霊獣は出しておかないといけないの?


「リヴァとイフリーをそのままの大きさで出しても平気でしょうか」

「平気じゃない」

「僕の精霊獣もまずいよ」


 クリスお兄様の精霊はホワイトタイガーとクロヒョウとチーターとピューマだよ。しかも牛くらいのでかさ。やばいなんてもんじゃない。

 だいたいこの世界にピューマなんているの? って思うよね。いるかもしれない、どこかには。でも実は、クリスお兄様は精霊を全部ネコにしたかったの。最初にネコありきだったの。それが大型化させたらチーターやピューマになっちゃったの。


「だから小型化して出しておいてくれって。精霊が警戒しているから、ちょっとした物音でも反応して、大きいまま顕現する心配があるって父上がおっしゃっていた」

「わかった。めいっぱい小型化しておこう」


 言葉と共にクリスお兄様の足元に、子猫の姿の精霊が全属性分現れた。

 ジンが羽の生えたクロヒョウの姿で顕現したので、子猫の大きさになってもらってモフっていたら、クリスお兄様も羨ましがって真似をしたの。実はモフラーだったのだ。

 四匹の猫に囲まれて和んでいるクリスお兄様、プライスレス。


 因みにアランお兄様の精霊は、火の精霊は火で。水の精霊は水。わかりやすい。

 もう少し詳しく言うと、火の精霊はあれですよ。某人気アニメ制作会社の動いちゃう城の炎のやつ。水の精霊は某エアコン会社のあれみたいなやつ。風の精霊は小さな竜巻で土の精霊は岩の塊。


「ふたりとも精霊を小型化したら、そろそろ出てきて」

「わかった」

「はい」

「ディア、何もしないでいいんだからね」

「わかりました」


 大丈夫。歌えないし踊れないから。


 精霊が一緒だと少しだけ安心できる。クリスお兄様と手を繋いでいるのも心強い。家族がみんな一緒なんだから大丈夫。

 大きく息を吸って吐き出し、よしっと気合を入れてホールに出て行く。

 思っていたより大きく豪勢なホールは、魔道具の光に照らされてきらきらと輝いて見えた。もうここまで立派だと現実味がなくて麻痺してくる。


 前世のテレビで誰かが、遠くに視線を向けると観客と視線が合わないから緊張しないって言っていた気がする。

 目があったらそのまま無視するといけない気がするし、でも微笑みかけたりして用事があるのかなと思われても困る。ここは遠くを見よう。上の方、でも二階席の人とも目の合わない高さ。

 緊張するな。無になるんだ。色即是空。


「宰相、私が案内するよ」


 あ、聞いたことのある声だ。うげ、皇太子がこんな場所まで出迎えるってありなの? 外国の賓客じゃないのに?


「やあ、ベリサリオ辺境伯。よく来てくれたね。ナディア夫人、陛下が会えるのを楽しみになさっていたよ」

「お久しぶりでございます。殿下」

「光栄ですわ」


 ああ、この大勢の人の前で仲がいいところをアピールするのね。わかった、まかせて。


「クリス、見違えたよ」

「貴族らしく見えるだろう?」

「アランはもう、剣精が全身を守ってくれるくらいに成長したのか。素晴らしいな」

「ありがとうございます」

「やあディアドラ。誕生日おめでとう。六歳になったんだね」

「ごきげんよう、アンドリューお兄様。はい、お茶会に出席出来るようになりました」


 あれ? 周囲がざわめいている。

 声の聞こえる範囲の人達がざわざわして、それが伝染していくみたいだ。


「皇宮に来るのは初めてだろう? こんなに精霊がいるのは意外だったんじゃないか?」

「はい。皆さんがこんなに精霊を大切にしていらっしゃるなんて。素敵ですわ」


 お願い、もうそろそろ移動して。

 こんな大勢の人達の前で話しかけないで。

 緊張で吐きそう。


「殿下、今日は素晴らしい報告を持ってきましたよ」

「ほう?」

「早くお伝えしたいですわ」

「では行こうか。陛下をお待たせするわけにはいかない」


 よかった。やっと移動できる。

 皇宮の人達って暇なの? 仕事はどうしたの? 働けよ。


「ディアドラ、さあ行こう」


 ……なんだろう、この状況。皇太子が手を差し出してるよ。

 いやだなあ。緊張で手が汗っぽくなっていないかな。スカートでごしごし擦ってから手を繋ぎたいな。

 しないけどね。さすがにそれはまずいとわかっているよ。


「……ありがとうございます?」

「もう少しにこやかな顔の方がいいな」

「はあ」

「心配しなくてもちょっと話しておきたかっただけだよ」


 ふたり並んで進行方向を向いて、笑顔を顔に張り付けたままで話す。

 すれ違う人達は、私達が通りすぎるまでは笑顔で、その後は何やらひそひそと話している。


「僕は、国としてはきみに関しては、守護はしつつ放置がいいと結論を出した」


 あら、素敵。


「僕個人としては、自分の妹のように思っている友人として接するつもりだ」

「ありがとうございます」

「クリスからいろいろと聞いているが、皇宮では今のまま猫を被っていた方がいい」


 この後の茶会でも本性は出すなよって事? あたりまえでしょう。お父様が倒れてしまうわ。


「将軍も陛下も、僕ときみを結婚させたいと思っている」

「無理だとお話ししてください」

「だから我々ふたりとも、その気はないと示したい。協力してくれ」

「わかりました。どんと任せてください。これを嫁にしたらやばいなと思ってもらえればいいんですね」

「いや……ほどほどにたのむ」

「アンドリュー、勇気あるな」

「無謀だ」


 お兄様達までなんですの。

 女はみんな女優なんですのよ。


いつも感想、評価、誤字脱字報告ありがとうございます。

もう20話過ぎてしまったのに、恋愛要素がでてこない(◎_◎;)


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